壊月彗星が廻る
吉高 樽
第1章 舞う金盞花
第1話 私を殺す理由
北の山脈から吹き降ろす風が
だが当の本人は
ここには街の象徴であり、ラ・クリマス大陸の歴史的建造物であるディレクタティオ大聖堂が
だが今となっては壮大な焼き討ちに
ただ1人
ドールという名のその修道女は、
「…
即興とはいえ、その残酷な替え
夜空を
ドールはゆっくり首を
恐らく北の山脈から風に乗って運ばれてくる粉雪だろうと、
ドールはそうした疑問を
——いつから私はこんな場所に居るのだろう。
頭の中が
その一方で胸の内に
——身体が冷える前に、修道院に戻らないと。
そう心の中で言い聞かせて立ち上がろうとしたその時、ドールは背後の少し離れた
大鎌は数回転しながら猛烈な勢いで
その衝撃から弾けるように、何者かが飛び跳ねて距離をとった。
ドールの修道服と同じような
「あなた、誰? ……グレーダン教徒の、生き残りの人?」
2人の間を再び北風が
その胸元では、黒い鉱石を
問いかけは風に
無機質な仮面の奥から向けられる視線は、恐怖でも怒りでも憎しみでもない、純粋な敵意だった。
ドールの
「…あなたはきっと、死神なのね。私を殺すためにやってきた……私がこの大聖堂を破壊して、正教徒たちを皆殺しにした罪を
自分の口から自然と生まれるような言葉を聞きながら、ドールは
——そう、すべて私が壊した。殺した。
その栄光を崇め
——そのすべてを、私は壊した。殺した。
ドールはその
それは震え出すほど冷たいはずなのに、
「…でもね、違うのよ死神さん。」
ドールはグレーダン教を信仰する修道女であるため、創世の神以外に何者も神として扱うべきではないのだが、立ちはだかる者が名乗らないために都合良く世俗的な表現を当てはめていた。
「私はこの神聖な場所を壊すつもりなんてなかったし、誰1人として殺すつもりなんてなかったの。突然私は捕らわれて、異端者だの
「大司教様が私を
「だから死神さん、お願いします……どうか私を見逃してください。」
ドールは湧き上がる記憶と感情を、
死神は依然として何の言動も
他方でドールもまた、死神相手に
そして期待していないことが期待通りに進む
ドールは
「…知っていますか。あの
吹き
「『月』は今から千年前、隕石がこの大陸に
「創世の神はこの世界を創造されたとき、管理者として御自身の姿に似せた『人』を創造し、男と女に分けて
「その隕石には、大陸の民を
「一連の史実を根拠にして、グレーダン教は『隕石が
「もちろん教徒である私も同じように信じていました。…でも、もう私にそんな資格はない。」
一段と強く吹き付ける風に腰元まで伸びた
突き上がるような息苦しさを紛らわそうと、ドールは震えた声音で心情を
「きっと私は天国へは行けない。
そのとき、ドールは胸の内を圧迫する
——そう、死ぬこと以上に悲しいことなんてない。どうして私は
ドールは深紅の瞳を
「死神さん。
「
死神の
いまのドールが何者なのか
ドールは置物と向き合っているかのような虚しさを覚えると同時に、
——悲しい。期待していないことが期待通りに進むことが悲しくて
ドールが小さく溜息をつくと、突然時間の流れが緩やかになったかのように、吹き荒れていた風が
「…
ドールは
——でもその止めどなく
「だって私には、厄災を
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