第18話 温泉回だ! そして事件発生


「へえ! これがオンセンかー!」


 入り口で目を輝かせるラーレ。温泉は男湯と女湯に分かれていた。


「じゃあ、モーント君は四男を頼むよ。一応、大事な案内役だ。途中でキノコ人間になられても困るしね」

「むむ……なぜ私が。それに、私には性別などあってないようなものだ。魔力に余裕があれば、女性化もできる。よし、決めた。私も女湯に入るぞ、ぐへへ」


 ラーレとリリとアヤメは揃ってモーントにさげすみみの視線を浴びせた。

 通常の三倍の蔑みである。


「うわあ、なんか言ってるよ、この変態。欲望が具現化した存在だったのかな」

「こ、こわいよ、気持ち悪いよ……処刑……」

「こらこら、私と違って、この子達は乙女なんだよ。よし、今後の人工血液は全部緑色のやつにしよう」

「なに……! ふん、小娘の体などを見て私が喜ぶわけないだろう。だが仕方ない、今回は男湯に入ってやる。私は紳士だからな」

「紳士はぐへへ、とか言わないんだよ」


 ラーレ達は男女に分かれ、脱衣所へと入った。


 ◆ ◆ ◆


 脱衣所には三人以外いなかった。すこし戸惑いながら、服を脱ぐ三人。


「リリちゃんの軍服は、リサちゃんが着てたやつなの?」

「え、そうだよ。予備をもらったの。今の私の体はリサのだから、サイズはピッタリだった。スカートは私がルリだった頃のだよ」


 アヤメがリリのスカートを見て言った。


「しかし、そんな短いスカートでよく戦えるね」

「これはスマート繊維だから、激しく動いても中が見えないように形を維持するんです」

「あ、私のドレスもそうだよー」

「へえ……私は服にはあまり興味がないからね」

「そういえば、モーントさんはなんでいつもボロボロの服なの?」

「さあ? 買ってあげようとしたんだけど、『これは魔力で具現化している体の一部だ』とか訳のわからないことを言うんだ。恥ずかしいのかな?」

「変な生き物だね。まさかにオンセンに服着たまま入らないだろうね」


 服を脱いだ三人は脱衣所から浴場に向かった。


 そこには、源泉掛け流しの露天風呂があった。周囲は岩で囲まれ、とても砂漠にあるようには見えない。露天風呂の横には木で出来た塀があり、その向こうが男湯だ。


「なにこれ! 湯気が出てる! お湯なんだね!」

「なんか酸性度が高いお湯みたいですけど、入って大丈夫かな……」

「むしろ胞子が死にそうだからいいんじゃない? まず、あそこで表面の胞子を流してから、この溜まっているお湯に入るみたいだよ」


 併設された洗い場でシャワーを使い、体を洗う三人。


「アヤメさんは大人の体で良いですねぇ」

「サイボーグだから自由に変えられるけど、やっぱりサイボーグ化した時の体型に近くないと、なんだか気持ち悪いからね」

「リリちゃんも細くていいなぁ」

「そうかな? ありがとう。ラーレちゃんも思ったより大人っぽいよ」

「えへへ。でも、ずっとこのままだよ。はあ、生身の人間みたく、成長したいなぁ」

「成長か……いつかそんな日が来ると良いね」


 体を洗った三人は、露天風呂に浸かった。


「ふぁあー、胞子が溶けていくようだよー」

「癒されますねぇ」

「これはなかなかユニークな施設だ。街にも作れば良いのに」


 初めての温泉を満喫する三人。だが、いや、やはりと言うべきか、男湯と女湯の間を隔てる木の塀に近寄る者があった。


 リリが何かに気がついたように顔を上げる。


「はっ!」

「どうしたの? リリちゃん」

「私の勘が、反応しています。悪人が、悪いことをしようとしています!」

「ええ! もしかしてキノコ人間? どうしよう、全裸で戦うのは嫌だなぁ」

「いえ、もっと、本能に忠実な感じです……しかも近い!」


 リリは木の塀を睨みつけた。


「え、リリちゃん? 待って、まさか」

「そこだな! 悪人め、許さない!」


 リリは湯から飛び出すと、木の塀に向かってハイキックを繰り出した。


 グアシャーン!


 派手な音を立てて、塀が崩れ去った。


「がはーっ!」


 塀と共に地面にゴロゴロと転がったのは、裸のイタメだった。崩壊した壁の向こうには湯気に包まれた男湯が見える。当然、あちらからもこちらが見える、ということである。


「ふぇえ! 塀がぁ! リリちゃん何やってるのー!」

「す、すみません、つい体が動いてしまって」

「四男! 一体何をしてるんだ!」


 腕で露天風呂の床をズルズルと這いながら、イタメが言った。


「だって、ちょうど良い穴が塀に開いていて……出来心なんだー、がははは!」


 赤い顔で体を隠し、お湯の中に急いで隠れるラーレとリリ。


「覗こうとしたの? こ、この変態四男! スクラップだ!」

「ひえー、ご、極悪だー。許してー」

「うう、小悪党すぎて処刑モードになれない……処刑したいのに」


 アヤメは呆れてため息を吐いた。


「はあ。まあ、減るもんじゃないけどさ。しかし、モーント君は何やってたんだい?」


 見ると、モーントは男湯の露天風呂の中に服を着たまま入り、持ち込んだ人工血液のパックを吸いながら腕を組んで座っていた。


「私は欲望に忠実な男は好きだ。だから私は彼に言ったのだ。『突き進み、全てを手に入れろ! たとえどんな障害、例えば女湯との間の塀が立ち塞がったとしても!』とな」

「焚き付けるなー! 変態吸血鬼!」


 ラーレは思わず立ち上がって、モーントを指差した。モーントはあらわになったラーレの姿をちらりと見ると、フッと笑ってから目を逸らした。

 ラーレが俯いた顔で、小さく呟く。


「……『フレミング・フルバースト』、エネルギー充填開始……」


 ラーレの右手にエネルギーが集まっていく。


 シュン、シュン、シュン……


「や、やめるんだ! ラーレちゃん、落ち着け!」

「私が塀を壊したのも悪いから……ラーレちゃんやめて!」


 その後、アヤメとリリが必死にラーレをなだめ、旅館が消し飛ぶのをなんとか防ぐことが出来た。


 イタメは両腕を使えなくされ、ホバークラフトバスに荷物として放り込まれた。


 ◆ ◆ ◆


「はあー、最低! 四男めー、極悪なやつだ。それにモーントの反応はなんなの! どうせならもっと喜べ!」

「え?」

「小娘の体など見ても嬉しくはない。それより血を吸わせろ」

「モーント君も、四男を焚き付けた罪でしばらく緑の人工血液だからね」

「な……! くっ、極悪だ……」


 イタメに制裁を加えた後、ラーレ達は食堂に向かっていた。

 ラーレ達は全員、浴衣姿だ。


「それにしても、胞子洗浄後用に専用の服があるんですね」

「私も初めてさ。オンセンの後はこのユカタを着るものらしいよ」

「面白いねー」


 するとその時、旅館内に悲鳴が響き渡った。


「キャアアアーーー!」


「なに? また変態が出たの!?」


 悲鳴のした方に向かうラーレ達。すると、一つの部屋の前で三人が立ち尽くしていた。さっき食堂にいたコンナとトコロ、レルカだ。


「どうしたの? キノコですか?」

「あ……ああ! ニーラ、ニーラが!」


 部屋の中では、ニーラが真っ白な顔で目を見開いて倒れていた。アヤメが急いで駆け寄る。

 手をかざして簡易診断機能を実行したアヤメは、引き攣った顔で言った。


「し、死んでいる……!」


 続く

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