第14話 執行猶予無し! 極悪人は処刑だ!
「な、なにが処刑モードだ! 命乞いをするのは、お前の方だー!」
マサメは太い腕を振りかぶりながら、その巨体を震わせてリリに向かってきた。
リリはさっきまでの怯えっぷりが嘘のような涼しい顔で、マサメの大きな腹に狙いを定め、ライフルの引き金を引いた。
ターン!
ブニョン!
だが、マサメの腹は放たれた弾丸を受け流し、明後日の方向へ逸らしてしまった。
「がはは。俺のスキンバリアーの出力は通常の三倍! 腹の衝撃吸収ゲルの作用と合わせれば、どんな攻撃も効かんのだー!」
「じゃあ、これはどうですか?」
リリがぐっと身を低くし、刀を取り付けたライフルを構えた。次の瞬間、まるで自らが弾丸になったような猛烈なスピードで、リリは武器を持った腕をまっすぐ伸ばしてマサメに向かって飛び出した。
「無駄だー、そんな刀――うぐふっ!」
ライフルの先に付けられた刀が、マサメの腹を貫いた。勢いはそれでも収まらず、刀はマサメを貫通して後ろの壁に突き刺さった。まるで五寸釘で打ち付けられた藁人形のようになったマサメ。
「ひっ、ひぃー! な、なんなんだ、お前!」
ジャ、キン!
ライフルの先に付けた刀でマサメを突き刺したまま、リリは無言でライフルのレバーを操作し、新たな弾丸を装填した。
マサメの顔が恐怖で引き攣る。マサメが恐怖を感じるのは生まれて初めてのことだった。
「お、おま、まさか……! やめてくれ、頼む!」
「命乞いの受付時間は終了と、さっき言ったはずですよ」
「ひっ!」
ターン!
リリは容赦なく引き金を引いた。今度は弾かれることなく、弾丸は刀が貫いた場所からマサメの腹の中に侵入した。
そして――
「お、お兄ちゃブギャギャハベボボベッ!」
内部で炸裂弾が破裂し、マサメは木っ端微塵になって飛び散った。
「死刑執行、完了」
リリは全身にマサメの黄色い人工血液を浴びながら、軍帽をキュッと深く被り直した。
だが、戦いはまだ終わってはいなかった。リリは、静かに部屋の入り口を睨んだ。
「次はあなたですか?」
バゴーン!
壁ごと扉が吹っ飛び、長男のモクメがゆっくりと姿を現した。
「弟の断末魔を聞き逃す兄などいなーい。よくもマサメをやってくれたなー」
遅れて後ろからヒノキとアヤメがやってきた。
「まったく、これだから極悪木目三兄弟は。しかし、まさか次男がやられるとは。由々しき事態だ」
「こ、これは……リリちゃん? 君が?」
リリはアヤメに向かってニコリと笑いかけた。
「アヤメさん、ありがとうございます。あなたのおかげで、私の機能が一部回復しました」
「なるほど……ただの壊れかけのサイボーグじゃないとは思っていたけどね」
すると、モクメがズン! と足を踏み鳴らした。
「ぐふ、ぐふ。俺様の『触手電撃地獄十三号』の調子を見るのにちょうどいい……これを見なー」
「リリちゃん、気をつけろ! こんな状況でも、私は仕事を手抜きできない。そいつの腕は今、完璧だ」
モクメの右腕からウネウネと無数の触手が出てきた。ご丁寧にヌメヌメした粘液まで垂らしている。
「な、なんて卑猥なの……!」
『ピピピ、悪人ポイントを計測中……禁止武器の使用を確認。悪人ポイントは五百。判決は、死刑です』
リリは武器を片手で掲げ、モクメを睨みつけた。
「処刑モードは継続ね。極悪人め! 許さない」
「ぐふ、ぐふ。俺様は極悪木目三兄弟の長男、モクメ。九十九……この数字が何かわかるか?」
「さあ、知りません」
「俺様がスクラップにした人数だ! 割と普通に極悪なんだぜ!」
モクメが叫ぶと、その右腕からシュルシュルと無数の触手が伸び、リリに向かって襲いかかった。リリはライフルの先に付けた刀で迫り来る触手を切り落とした。
「今の自供で悪人ポイントは八百になりました」
「ぐふ、ぐふ。じゃあ、千ポイントを目指そう。そしたら超極悪だなー!」
「何度やったって!」
襲いくる触手を切り落とすリリ。だがその時、アヤメが叫んだ。
「リリちゃん! 『触手電撃地獄十三号』は、両腕だ!」
「えっ!」
「遅―い!」
モクメの左腕からも無数の触手が伸び、リリに襲いかかった。二方向からの同時触手攻撃を捌ききれず、リリは触手に絡み付かれてしまった。
「きゃあー!」
「ぐふ、ぐふ。極悪だぜー」
触手により空中に持ち上げられてしまうリリ。さらに無数の触手が、リリの脚や腕、胸に絡みつく。
「いやぁ、ヌメヌメするー!」
「ぐふ、ぐふ。そのヌメヌメは電撃の通りを良くするのだー。断じて、いやらしい意味で出しているのではなーい」
「くっ、なんていやらしい武器なの! 超極悪だわ!」
「リリちゃん! ちっ、私の仕事が完璧なばっかりに!」
唇を噛み締めるアヤメ。ヒノキが、どこからか取り出したワイングラスを片手に言った。
「おやおや、良い眺めですねぇ。美味しいワインが飲めそうだ」
「ヒノキ、このゲスめ!」
「アヤメ先生、あなたの仕事は本当に完璧だ。『触手電撃地獄十三号』は絶好調じゃないですか。あとは高圧電流で黒焦げにするだけ。やれ! モクメ! 檜財閥に逆らう者の末路を教えてあげなさい」
「ぐふ、ぐふ。さあ、可愛い断末魔を聞かせろー」
バゴーン!
その時、また新たに壁が吹っ飛んだ。
「な、なんだー?」
困惑するモクメ。瓦礫を乗り越えて現れたのは、ラーレとモーントだった。
「お使い終わらせて帰って来てみれば……何? この変態サイボーグ? 変態はもう間に合ってるよ」
「ラーレちゃん! ……何、その耳としっぽ?」
ラーレは狐の獣耳をピコピコと動かし、しっぽを逆立てた。横目でそのしっぽを触りたそうに見ながら、モーントは黄色い人工血液をチューチュー吸っている。
ヒノキはラーレとモーントを見て、ワイングラスを揺らしながら言った。
「おや、アヤメ先生の連れのドレスのサイボーグと、謎の生き物じゃないですか。お前たちには四男のイタメを向かわせたはずだが」
「ぐふ、ぐふ。イタメは極悪になりきれないヘタレ。荷が重かったようだなー」
「四男? もしかしてさっき絡んできたやつかな?」
首を傾げるラーレのピコピコ動く耳を見て、いきなりヒノキが興奮して叫んだ。
「おやおやぁ! よく見れば、狐っ子になってるじゃないかぁ! モクメ、そこの可愛い狐っ子サイボーグを触手で捕まえて、早く粘液まみれにするのです。早く! 早く見たいぃ!」
「……変態はここにもいたのか」
「ぐふ、ぐふ。まかせろー」
モクメはラーレに向かって触手を伸ばそうとする。だがそれよりも早く、ラーレが動いた。
「遅い!」
「ぐふ?」
ラーレは右手の指先にビームブレードを展開し、目にも止まらぬスピードでリリを拘束していた触手を切り落とした。
解放されたリリは、ニッコリ笑いながら立ち上がった。
「ありがとう、ラーレちゃん。その耳としっぽ可愛いね」
「え、恥ずかしいな……だって買い物終わっても、外したら脱税だって店の人が言うんだもん」
「ちょこざいな! ゆるさーん! 極悪奥義、『触手
モクメは両腕から触手を大量に出し、ラーレとリリに向かって襲いかかった。
「私は右腕を、ラーレちゃんは左腕をお願い」
「任せて!」
二人は一斉にモクメに向かって駆け出した。
「死刑死刑死刑死刑死刑!」
「うりゃー! 『フレミング・ブレード・タイフーン』!」
リリは刀を付けたライフルをブンブンと振り回し、触手を切り刻む。ラーレも、ビームブレードを出したまま右手を回転させ、触手を切り落とした。
「「うおおおおお!」」
二人は声を合わせて叫んだ。アニメならオープニングテーマのサビが流れるところだ。
「な、なにぃー! この俺様の『触手電撃地獄十三号』が、破れるだと!」
両腕の触手を全て切り落とされたモクメ。間髪入れず、リリがその大きな腹にライフルの先に付けた刀を突き刺した。
「ぐふぅ!」
「ゼロ。この数字が何かわかりますか?」
「な、なんですかぁー!?」
「あなたの執行猶予です。つまり、ゼロ秒! 死刑執行!」
リリはライフルの引き金を引いた。
ターン!
「ぐふあ! 弟よ……ヴォバイビチヴォヴォッチェ!」
モクメは醜い断末魔の叫びを上げながら破裂し、木っ端微塵になった。
リリは降り注ぐ人工血液の雨を背後にポーズを決め、キュッと軍帽を深く被り直した。
「死刑執行、完了」
それを見たラーレは慌ててリリの横に並ぶと、真似をしてポーズを決めた。
「えっと、完了!」
驚きで手に持っていたワイングラスを落とす、ヒノキ。
「そ、そんな、極悪木目三兄弟がやられるなんて……」
「やい、覚悟しろ、ガウンの変態め。さては変な税制で街を獣人コスプレだらけにしたのもお前だな」
「ヒィ!」
ラーレはビシッとヒノキを指差した。その横で、床に広がるモクメの人工血液を美味しそうに見つめるモーント。
「紫か……どんな味なのだ?」
「床の人工血液舐めたらダメだよー、汚いからねー」
「そ、そんなみっともないことするわけないだろう!」
そのやり取りの隙をつき、ヒノキが部屋から逃げようと駆け出した。だが――
ズキューン!
「ヒエッ」
ヒノキの目の前の壁にメスが突き刺さっていた。戦いのどさくさで自分の小型レールガンを回収していたアヤメが撃ったのだ。
ヒノキは情けなくペタリとその場に座り込んだ。
「く、くそう! 極悪木目三兄弟の力を使って街を牛耳り、
ジャ、キン!
リリがライフルのボルトを操作しながらヒノキを睨みつけた。
「アワワワ、許してぇ!」
『ピピピ……悪人ポイントは、三十。ただの小悪党です。処刑モードを終了します』
「あら」
シュン、という音と共に、リリの髪型がストレートに戻り、瞳の色も茶色に戻った。リリは軍帽を脱ぎ、言った。
「処刑する価値もないみたいですね。ふう……疲れました……」
「まあ、いいさ。こいつには聞きたいことがあったんだ」
アヤメが小型レールガンをヒノキに突きつけた。
「あんた、あの極悪木目三兄弟は人に紹介してもらった、って言っていたね。一体誰から紹介してもらったんだい?」
「ひー、撃たないでくださーい! 話します! ウォールナット教授ですぅ」
「なんだって?」
アヤメはその名前を聞いて固まった。ラーレがアヤメに尋ねる。
「アヤメさん、知っているんですか?」
「ああ。あの血のアンプルを持っていた奴だよ。そして、先代の特級サイボーグ技師さ」
続く
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