第16話 曰く付きの盾をゲット!
「さっきの話の続きなんだがな」
「いや、ちょっと遠慮したいんスけどね」
はっきりと遠慮したいと言ったもののスルーされ、親父さんの頼みたい用事の話が始まる。盾の持ち主の仲間を探して欲しいと言われそれは依頼でというも、詳しい情報が無くて出せないらしい。盾を無償で譲るのも、持って活躍すれば目印となり仲間が連絡をしてくるに違いない、という期待からのようだ。
親父さんがそうしようと思ったのも、盾の持ち主が買い取った次の日に殺されたと聞き、寝つきが悪いからだという。不正な手段で買い取りした訳でもないのになと疑問に思った。先日のアリーザさんへの配達の依頼を思い出し、面倒事を解決したのでまた押し付けてきたのではないだろうか、と考え聞いてみることにする。
「ひょっとして買い取ったは良いものの、曰く付きだから手放したくなったんじゃ……」
「……と、兎に角頼んだぞ! それはお前のものだから! これで貸し借り無し! いやぁ一万ゴールド損したがお前さんとの付き合いを考えれば安い買い物だ!」
ガハハと笑いながら親父さんは奥に逃げて行った。どうやらこちらの考えは当たったらしい。悪い人じゃないし出来る範囲で期待に応えよう、ヤバそうな方向に進みそうだったらミレーユさんに相談しよう、そう自分の中で結論を出す。
親父さんの立場になれば盾を店に置いておけば、この先厄介事が舞い込むのは目に見えてると考えるのも分かる。値段も高そうだが気になるのはこの鳥の紋章だ。なにかの部隊の印だとすると武具は自前で調達するだろうから、その部隊の者がこれをここで見る可能性は少ないと思った。
部隊の人に見付けてもらうと考えると、持って歩き聞かれたら答えてここを案内するというのは、見つけるという目的のためには正解かもしれない。
「参ったなぁ……」
とは言え厄介事なのは間違いない。出来れば赤い髪の子のお兄さん探しに全力を注ぎたいが、親父さんに頼まれたしメインにしなくていいということなので、見つかったらラッキーくらいに考えておこう。
見れば赤い髪の子は盾から手を離し膝を抱えながら前を向いている。椅子から立ち上がり近付いて行くと盾を優しく撫で始めた。なにか知っているのは間違いないだろうけど、急ぎではないのでこの子が自然に話すのを待とうと決め、肩の鎧にそっと手を置くとゆっくり立ち上がる。
盾を持つかと聞くと首を横に振ったので、ならばこちらが持とうと盾を手に取り持ち上げた。
見た目の豪華さや重厚さとは違い、軽くて持ちやすい上にしっかりした作りになっている。防具などの分野に詳しくない素人の自分からしても、これがただの盾ではないのは分かるくらい凄い。
「よいしょっ……と。これなら誰か知ってる人が声を掛けてくれるかもな」
盾の中にあった幅の広い皮のベルトを引っ張って出し、たすき掛けにして背負い赤い髪の子に見せた。一瞬目を丸くした後で、寂しそうに笑うと急いで店の外に出てしまう。どうやら盾を背負うっていう格好も、盾とあの子のなにかに関係があるんだろうなと察する。
彼女に言えないことがあるように、こちらにも長い付き合いでも言えないような話があるのは同じだ。隠し事がある似た者同士だし、そういう縁があって行動を共にすることになったのかもしれないと思った。
「出会うべくしてあった、のかもしれんのぉ」
急がずゆっくり店の外へ出たところで、こちらの考えを読んだかのような言葉が聞こえる。声の方向を見るとそこには丸メガネに高い鼻、そして白い顎鬚を蓄え緑色のローブにとんがり帽子を身に着けた、人の良さそうな御爺さんが少し離れたところに居た。
木の杖を突きながらこちらに向かって歩いて来て、目の前で止まりジッと見る。
「何ともまぁ不思議なもんじゃな。誰が招いたでも無いのにここに来るとは」
「え!? 御爺さん俺を知ってるんですか!?」
驚きのあまり御爺さんの両肩を掴んでしまう。失礼なことをしてしまったと思い手を離そうとしたが、いつのまにか地面に仰向けになり空を見ていた。
「あまり気にするでない。お前さんも前の世界で学び分かっとるじゃろうが、何処の世界でもお前さんらしく生きれば良い。生きていようが死んでいようが、誰かと言葉を交わし行動していることこそ大事なんじゃよ」
すぐさま起き上がり御爺さんの居たところをみたが、そこにはもう誰もいない。一体誰なんだ? 別の世界から来たのを知っている感じだった気がする。急いで探そうと付近に居た人に聞いてみたものの、誰もが何を言っているんだという顔をして苦笑いした。
唖然としていると御婆さんが近付いて来て、勝手に俺が吹き飛んだので何が起こったのかと心配したと言われる。赤い髪の子も心配になって戻って来てくれたので、二人に大丈夫だと返す。どうやらあの御爺さんは、普通に会おうとして会える存在ではないようだ。
なんとかあの御爺さんを探して、異世界に来た理由など詳しいことを知らないか聞いてみよう。他の人には見えないというのは何らかの意味があるのだろうし、ひょっとすると魔法とかが関係しているのかもしれない。
簡単にはみつからないだろうから、なるべく広い範囲を探すためにお金を貯め、冒険者として名を上げあちこち探し回ろうと思った。
「よーしやったるぞ」
「大丈夫?」
改めて気合を入れ直しギルドへと向かう。ギルドに入り受付に行くとミレーユさんがいたのでその列に並び、順番が来ると深々と頭を下げる。どうしたのかと言われる前に、自分から顔を出すよう言われていたことを失念した、申し訳ないと謝罪する。
ミレーユさんは無事なら良いのよ、顔が見たかっただけと言ってくれてほっとした。許してくれたことに感謝した後で、横にいる子の冒険者手続きをしたいと告げる。どうやら先ほど町長から使いが来たようで、全て了解していると言った。
さっそくミレーユさんは赤い髪の子に対しギルドの説明と、冒険者証を発行する手続きに入る。書類に記載し始めたので覗いたところ、名前の欄にベアトリスと綺麗な字で書いていた。やはり育ちが良いんだなぁと感心する。字が汚すぎてなるべくなら他人に見せたくない自分とは大違いだ。
「ベアトリスは剣が得意と書いているけど、今は剣はもってるの?」
「無い。あったけど盗まれた。兄者が届を出してるはず」
「お兄さんの御名前は?」
「……アレク。赤い髪の剣士」
そう言えばここまで色々あり過ぎて、名前とかその他諸々尋ねるのを忘れてたことに気付く。相変わらず自分の処理能力の低さに呆れながら、ベアトリスに悪いことをしたなと反省する。
名前も聞かないで連れまわされ、さぞ妙な気分だっただろう。後で何か美味しいものでも御馳走して罪滅ぼしをしないと、と思った。
「依頼を二人で受ける時はそう申請してね。黙って二人で受けると罰則があるから」
「分かりました」
「本来一人で受ける仕事を二人で受けると、依頼主から貴方達のみって指名がされちゃうしそれを基準にされると他の冒険者たちの収入にも関わるから。それに二人用の仕事もあるから遠慮しないで言ってね」
「モンスター退治とか?」
「盗賊退治とか」
ベアトリスの問いに対しミレーユさんがそう答えると、驚き俺の背後に隠れる。ベアトリスのリアクションを見てミレーユさんは小さく笑う。長年の勘か町長辺りから聞いていたのか分からないが、ベアトリスの事を知った上でからかったように見えた。
美人で大人なミレーユさんの悪戯という、意外な一面を見てちょっとドキドキする。ベアトリスが元の位置に戻ると手続きを再開した。ミレーユさんから冒険者としての約束事などを説明を受け、合意の意思を口頭でベアトリスが示し、誓約書にサインして晴れて登録完了となる。
さっそく依頼を受けようとなり、初回は俺と同じ仕事が良いだろうと考え親方の依頼を受ける。親方は常時人が必要で荷受け場でも直接雇っているが、足りない人員を依頼で出して雇っていた。特に荷物が多い日は足りないとぼやいていたのを思い出す。
冒険者としても仕事はきついが固定でなく単発で稼げ、毎日依頼があり助かると人気がある。
「おう! 今日も雨が降ってきそうだから蓑装備な!」
「はい! 親方この子ベアトリスって言います。今日は一緒にここのお仕事させて頂きます」
さっそく荷受け場に向かうと親方はこちらを見つけてくれ、声を掛けてくれた。急いで駆け寄りベアトリスを紹介すると、目を丸くした後で豪快に笑う。
「そうか、お前面倒事が好きそうな顔してるもんな。冒険者にしちゃ珍しいが、まぁあまり無理するなよ! じゃあお前はいつも通りでお嬢ちゃんは中で小さい荷物受け整理をしてくれ。大きなのはそこらの男でも役に立たねぇから俺とコイツがやっからよ」
「ん? お嬢ちゃん?」
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