第17話 甘味最高!

 親方の言葉に首を傾げたがこちらを見て親方も首を傾げる。何て言いましたと再度聞き返すと、ベアトリスは女の子だとはっきりとした口調で言った。頭の中をはてなマークが占領し混乱する。


親方曰く、女性と男性では筋肉の量が元々違うと言い、鍛え上げているなら同じことも出来るが、ベアトリスはどう見ても違うという。


「適材適所ってものがあらぁな。合ってないところで無理させても誰も得しないし、俺はあくまでも無理せず稼いで上手い飯を食いてぇ。だから誤魔化そうとしてもこの目は見逃さねぇ」


 片目をつぶり開いてる目を指さしながら親方は言った。考え方は雇い主としてとても素晴らしいし、それを実行しているのを見ているので尊敬もしている。


讃えたいところだが、こちらの頭の中にあるはてなを解決したくてベアトリスを見た。


中世的な顔立ちだなとは思ったが、後先考えない行動など男性的な面が強かったので驚く。


たしかによく見れば男というには綺麗すぎなので、女性だと言われたらたしかにそうかなと思う。


「ベアトリス、気付かなくてごめん」


 納得はしたものの、知らずに失礼なことをしてしまった可能性があるので、手をまっすぐ下に伸ばし頭を四五度に下げる。


「べ、別に関係無いだろ!? 男か女かなんて! 敵を倒して生き残れれば何でも良い、違うか?」


 頭をはたかれながらそう言われ、仰る通りです申し訳ございませんと腹から声を出し、再度謝罪した。


「うーむこの子中々威勢が良いな。まぁもっと年を重ねて筋肉が付いてきたら荷受けも考えるが、今は全く駄目だから中でさっき言った通りの仕事な! さぁ馬車も来たし始めっぞ!」

「は、はい!」


 今日は朝から驚く出来事ばかりが起こるなと思ったものの、振り返れば異世界に来てから驚かない日は無いと気付く。力仕事があるお陰で仕事が出来て食べていけるが、この世界独自の基本的な事がありそれを知らないと仕事が出来ない、とかだったら早々に終わってただろう。


感謝しつつ親方と共に作業に移ったが入り口には馬車が列を成し、馭者さんに早く始めろと怒鳴られる。親方と馭者さんが若干口論となったものの、止めに入り荷物を下ろす場所を急いで指定し下ろし始めた。


荷受け場には親方や自分のように、大きな物や重い物を持てる男ばかりではない。他の人には荷車や木の台車が用意されており、それに乗せ中へ入れてもらっている。中では仕分けが行われており、完了したものは配達係の人が各場所へ持っていく。


こうしてしばらくの間は目が回るほど忙しく、汗をぬぐう暇もなかった。荷物が途切れ始めるとあとは直雇用でとなり、冒険者ギルドから派遣された者たちはその日は終了となる。書き入れ時は夜遅くまでかかり給金も高いが、荷物が途切れればそこで終了が可能な契約になっており、この日は夕方前に荷受け場を離れることになった。


正式な終了は親方が告げるので、それを聞いて皆給金をギルドで受け取るための書類を貰うために、彼の前に並んだ。中で仕分けをしているベアトリスを探しに行くと、初日だからかとてもぐったりしている。


大丈夫かと声を掛けると一瞬元気に立ち上がったものの、直ぐに腰を曲げ手をだらりとした。初めてなんだから疲れて当然だし無理するな、と声を掛け手をこちらの首に回させて親方の前へ移動する。


親方に二人で書類をもらい挨拶を終え、ゆっくりと荷受け場を後にした。あまりにもぐったりしているので、なにか元気にしてあげられるものは無いかと見ながら歩いていると、たまたま甘味処という看板を見つける。


この世界にもそんなものがあるんだなと思ったが、これならベアトリスも元気が出るかもと思い


「ベアトリス、何か食べたい物はあるか? 甘いものとかどう? 奢るよ?」

「え!? 本当に!?」


 そう聞いたところベアトリスは急にシャキッとし、看板を見つけると店へ向かってスキップしていった。現金な奴だなぁと思ったものの、元気が出たなら良いかと考え彼女に続き店の中へと入る。


店内には丸いテーブルが幾つも店内に並び、お客さんもそれなりに入っていた。こちらを見つけて赤のブラウスにスカート、ブーツを履いて白いエプロンを付けた女性が駆けてくる。席へ案内しますが希望はと聞かれ、窓際とかあればと答えるとすぐに案内しますと答え先導した。


まだ着て間もない世界だが雰囲気からして、映画で見た中世ヨーロッパくらいの感じなので、メニューは多くないだろうと思いつつ案内された席に着く。閉じられたメニューを渡され中を開いてみたところ、大きな字で十種類くらい飲み物と食べ物が合わせて書いてある。


ここのお店の推しなのか、最後に絵付きで果物やクリームそれにどら焼きっぽいものもあり、値段を見るととても高かった。冒険者ギルドの依頼でハチミツ採集があったが、かなり料金が高かったのを思い出す。


たしかミツバチ? ぽいモンスターの場所に集団で採取に行くとか言うもので、養蜂場なんて無いこの世界ではハチミツを取るのも命懸けなんだな、と価格に納得する。ベアトリスを見ると価格を見て驚き、テーブルに立てたメニューに顔半分を隠してこちらをチラチラ見た。


「ど、どれでも良いの?」

「良いよ。だけど沢山は駄目だぞ? 夕食が食べれなくなるからな」


「はーい!」


 許可が取れ安心したのか、彼女は顔を出し元気よく右手を上げる。店員さんはすぐ来てくれベアトリスは例の絵付きの奴を指さした。今日の給金の半分は持って行かれるが、元気になるなら安いものだ。


何を頼むのかと聞かれ、さすがに一人だけ食べさせると気を使いそうだなと思い、同じものをと告げる。料金は先払いと言うので革袋から取り出し支払うと、番号の書いてある木の板を置いて店員さんは去って行く。


「甘いもの好きなの? ジンも」

「嫌いな訳ないだろう。凄く食べたかった」


 特にこの世界に来てから、こんなザ・甘いもの! みたいなものは初めて見た。鎧を買おうと思いずっと貯金していたので、宿とギルドと現場の往復のみである。


「……高いもんね甘い物」

「そうだな、だけどまぁたまには良いよな。というか男一人でここは入れないからベアトリスが居たから入れた。後は味が良ければ万々歳だな」


 ベアトリスは値段を思い出したのか少し肩を落としたので、急いでフォローすると元気にそうだねと返事をする。危うく甘いものがどれだけ好きか語りそうになるほど、男だが個人的に甘い物は大好きだ。


なにしろ小さい頃は月一回しかお菓子は食べられず、その反動もあってか大人になってからは必ず月一回、大量に御菓子を食べる日を設けていたくらいだ。特に和菓子が好きで、休みの日には和菓子屋さんを回っていた。


つい最近動画で作り方を見たのを切っ掛けに、自分で作ろうとして器具とか集め始めていたところだった。錆びたりはしないだろうが今どうなっているだろうと考えたものの、帰る方法が分からないことを思い出し頭を振る。


「お待たせいたしました」


 ぼーっとしていると幸せがテーブルに舞い降りた。パンを牛乳で浸して焼きフルーツをスライスしたものを並べ、その上にクリームがたっぷり乗った悪魔的な食べ物が降臨する。ベアトリスと二人でそれを見て、目を輝かせ頷き合った後で無心でゆっくり少しずつ味わいだす。


自然な甘さを口一杯に感じ疲れた体に染み渡らせると、寿命がかなり延びたんじゃないかとすら思うほどエネルギーを得た気分になった。甘い物は最高だ! と声を上げそうになるのを堪える。


「ありがとうございました!」


 しっかりじっくり皿に何も無いような状態まで味わい尽くし、出された美味しい紅茶も堪能し尽くして店を出た。生き返るな最高だなと体中を満たした甘い物に感謝する。


「やっぱ偶には良いなこれ。ひと月に一回は味わいたい」

「何時かお金持ちになったらさ、一週間に一回は食べたいね」


「毎日食べたい」

「贅沢!」


 幸せをそのままにギルドへと向かい書類を提出した。いつもならラウンジで何か飲みながら待つが、今日は夕食まで胃に何も入れず余韻を味わいたいのでそのまま待ち、報酬が確定し頂くと宿へ戻る。


ジョルジさんが別に部屋を用意してくれ、改めてベアトリスへの貸し出しをすると言ってくれた。彼女も感謝しつつ早速今日貰った御給金を渡し、自分の部屋を満喫するべく部屋へ走る。


「ジンさん、あなた宛ての預かりものがありますよ」


 ベアトリスが二階へ移動するのを待っていたかのように、ジョルジさんは受付の台の下から紙を取り出した。


見れば封筒でこの世界で自分に送ってくれる人といえば一人だけだ。気を遣ってくれたことに感謝の言葉を述べ、丁寧に手紙を受け取り部屋へ戻る。


手紙を読むと先日のお礼と逢えてうれしかったという言葉を見て、おっさんなのに舞い上がってしまった。


あまりに嬉しくて手紙を持ってベッドに転がったものの、例のプレゼント事件を思い出してしまい一気に落ち着きを取り戻す。


取り合えずあの件のことは極力触れず、自分も逢えて嬉しかったことや今日会ったことを書き、封をしてギルドへ出しに宿を出る。


戻ってくると丁度夕食が出来たらしく、降りてきたベアトリスと共に夕食を取りその日はそのまま何も無く終わった。

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