第13話 赤い髪の子

「おーいこんなところで寝てると風邪を引くぞ?」


 何も言わずに通り過ぎようかとも思ったが、まだ短刀を握っており通り過ぎた瞬間刺しに来そうだったので、声を掛けるも動かない。兄者の仇とか言ってたが、この間奥様たちを襲撃して来た盗賊の身内なのだろうか。


しばらく様子を見ていたものの、事が事だけになるべく早く依頼達成の報告をする必要があるので、警戒しながら距離を取りつつ横を通り過ぎる。


「このっ!」


 案の定背中を見せた瞬間、短刀を両手で持ち襲い掛かって来た。素早く身を翻しそのまま半身になり短刀をやり過ごす。


みのの隙間から白い鎧が見えたことからして、相手はただの盗賊ではない。改めて動きを見たが戦い慣れていないというよりは、得物が違うのか動きがぎこちない。


力以外は特別凄くもないこちらが避けられるのがその証拠だ。兄の仇と言っていることからしても盗賊たちとは別な気がしたので、ならば事情を聴いてみたいと考え倒さないように動く。


何度かそれを繰り返し、相手の動きが鈍くなったところで手首を強打する。短い悲鳴を上げ短刀を落としたが、諦めず短刀を拾おうとしたので急いで短刀まで移動し蹴り飛ばす。


「兄者の仇って言うが、君はモヒカン男の兄弟なのか?」

「違う! この顔に見覚えは無いか!」


 啖呵を切りながら笠を取って現れたのは、赤いショートヘアで少し切れ目の綺麗な顔だった。モヒカンとは似ても似つかないし、顔に見覚えはというからには彼女の兄者は似てる顔なのだろう。まったく覚えがないというも嘘だと言われた。


先日ここで馬車を襲っていたはずだし、身に着けている篭手がその証拠だという。改めて振り返ってみても、襲撃者の中に整った顔立ちの男はおらず困惑する。篭手が何故関係あるのか分からないが、篭手は奥様からその時に借りたものだと説明した。


さらにあの時倒したのはモヒカンたちだけで、似た顔の人は見ていないというも白を切るのかとすごまれる。嘘をついても得はないんだけどなと思いつつ、なにか証明する方法は無いかと考えた時に奥様達が浮かんだ。


直接奥様に聞けばいいと提案するも、盗賊がそんな真似できるかと怒られた。それ以外に証明する方法は見つからないし、このまま証明できませんはいそうですかで帰らないだろう。


お兄さんを人質にとるようで気が引けたが、馬車襲撃でお兄さんが死んだかどうか確認するには、それ以外に方法が無いと告げる。


「……良いだろう、お前の案に乗ってやる!」


 こちらの提案に歯噛みしていた赤い髪の子は、睨んでいたがそれしか手掛かりがなさそうだと諦めたようで、一度唇を嚙んでから目をぎゅっとつぶり了承した。


奥様に危害を加えたら命の保証が出来ないため、短刀を預かると言うと悔しそうな顔をしながら鞘に納め、柄をこちらに向けて差し出してくる。


短刀を受け取り腰の後ろに差したのを見た後で、もう戦わなくて済むと思って気が緩んだのか、相手はゆっくりと膝を突き地面に突っ伏した。


確認のため大丈夫かと声を掛けながら仰向けにし、耳を鼻に当てたが呼吸はしていてほっとする。


一旦近くの木まで抱きかかえて移動し座らせ、こちらもしゃがんで背負えるかチャレンジしてみた。


タイミング良くこちらの背へ向け倒れて来てくれたので、そのまま背負い町へ向けて全速力で走り出す。


行きと違い帰りは妙な気配も無くすんなり町の近くに到着する。盗賊たちは荷物をもう奪えないと考えて撤退したのだろうか、と思いながら町の入口に近付くと兵士たちが多く外に出ていた。


こちらを見つけると駆け寄ってきたので、ギルドの依頼で村の方へ行っていたと答え、さらに盗賊たちを殺さずに倒して来たと言うと皆村へ移動し始める。


今から行けば倒した盗賊たちは捕らえられるだろうし、情報を得るためには急いだ方が良いだろう。


ギルドに直行しようとしたものの、赤い髪の子をこのまま連れて行けないと思い宿屋へ向かう。受付に居たマリアナさんに、この子が兄を探して道に迷っていたので保護したと伝えた。


マリアナさんはそれ以上の詳しいことを聞かず、女性陣で介抱してくれると言ってくれる。


有難すぎて言葉に詰まり、深々と頭を下げて宿を出てギルドへ移動した。ギルドに到着すると中へ入り、受付に書類を提出すると奥からミレーユさんが出て来て、この依頼を受けた時の事務所のような場所へ通された。


「ジン、よく任務を達成してくれたわ」

「運が良かっただけです」


「それに関しては少しそうかもしれない。町長から密偵の知らせで他のルートは全滅したそうよ。あなたは防具屋の親方から受けたけど、他の人たちは町長から直接受けていた」


 応接室で向かい合って座り、ミレーユさんはそう説明してくれた。この依頼の本当の依頼主は町長であり、ルートや荷物に関しては直前まで決まっていなかったが、こちらのルートと荷物だけはギリギリまで隠していたという。


それ故に他のルートは素早く特定され人数をかけて潰されたようだ。ミレーユさんは少しと言ったがとんでもなくツイていたようで安堵し、大きく息を吐く。


先ほど外にいた兵士たちは何をしていたのかと尋ねたところ、こちらが帰って来なければ村に向かう予定だったという。


「盗賊たちに襲撃されたルートの情報を渡した人物が見つかったの。でも残念ながらあと一歩のところで逃げられてしまってね……ひょっとしたらあなたと鉢合わせしてないかってことになって、増援を出そうとしてたところなのよ」


 犯人は町長の警護係の一人で、家を捜索したところ多額の金が置いたままになっていたらしく、どうやら買収されていたようだという。一体誰が犯人を買収し、アリーザさんと町長の繋がりを調べようとしていたのだろうか。


ただの村人相手に町長は接触を図らないだろうし、相手も調べようとはしないはずだ。やはり防具屋の親父さんが言っていた噂は本当なのかもしれない。


「この件に関しては町長から上の方に報告を上げるから、ジンは心配しなくても良いわよ」

「あ、はい」


「他の冒険者たちは残念なことになってしまったけど、あなたは無事帰って来てくれたから、ギルドからも完遂のボーナスを支給させてもらうわ」

「ボ、ボーナスですか!? 有難う御座います!」


 あまりの嬉しさに椅子から飛び上がり勢いよく頭を下げる。我に返り気恥ずかしくなって、慌てて元の位置に戻るのを見てミレーユさんは吹き出し笑った。


元の世界でもボーナスが何より楽しみだったから、この世界でも貰えたら嬉しいのは仕方ない。特に今は皮の鎧目指して貯金中だから嬉しさも一入ひとしおである。


「手付と達成報酬で百二十ゴールドだったけどボーナスをプラスして二百ゴールドよ」

 

 ミレーユさんは手付を除いた、百八十ゴールドの入った袋を渡してくれた。色は同じゴールドだけど、元の世界の百円玉、五十円玉、五円玉、一円玉のように大きさや形が変わっていて、かさばらない様になっている。


千ゴールドからは紙幣にするのも可能だという。ゴールドなのに紙幣とはと思ったが、流石に千は運び辛いし取引し辛いので、利便性を考えればそうせざるを得ないだろうなと納得した。


「本当に今回は依頼を受けてくれて有難う。親父さんもお礼を言いたいって言ってたから、後日顔を出してあげてね」

「はい! こちらこそ有難う御座いました!」


 いくらら親父さんが俺を指名したところで、ギルド側が拒否すれば受けられなかっただろう。こうしてボーナスも頂けて感謝しかない。


あまりの高額報酬に顔が緩んでしまったが、なるべく顔に出さない様にギルドを後にしそのまま宿へ戻る。


中に入ると受付がマリアナさんからジョルジさんへ、受付が交代していた。


「お帰りなさいジンさん」

「こんばんはジョルジさん、あの」


「例の方ですな。大丈夫ですマリアナの方で面倒をみておりますので」

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