第11話 謎の依頼

「とりあえずギルドに依頼を出してください。後はそれからで」


 二人は涙目で頷き押し付けるようにこちらに上位蓑じょういみのを渡す。泡を食っている間に回れ右をさせられ、背中を押されて店から追い出される。どうしたのか問いかける間もなく閉店の看板を出し、戸を勢いよく閉めた。


少しの間呆然としたものの、御代を払って無いことに気付きお金払いますと言いながら戸を叩く。すると戸が少しだけ空き手だけが出て来たので、二十ゴールド渡すと勢い良く引っ込み戸が再度閉まる。


まだ依頼が成立してないし、割引したじゃないかと言われると困るので二十ゴールド支払ったが、親父さんたちも断られてもしょうがないと思ったのか、おつりは無かった。上位蓑じょういみのも手に入ったことだし、ゴノさんに貸してもらっていたみのを返却しようと思って歩き出す。


革袋を見れば残金は百三十ゴールドになってしまったが、雨の日の仕事はしやすくなったしまた頑張ろうと気合を入れる。歩いていると焼き菓子を売っている露店を見つけ、ゴノさんにみのを貸してくれたお礼として渡そうと購入した。


ゴノさんは焼き菓子を渡すととても喜んでくれたが、お前は冒険者のくせに人が良いんだなと言われ、複雑な気持ちになりながらギルドに戻る。


「おかえり。何やら防具屋の親方から君に御指名で依頼が来ているよ」


 今日はダンドさんが夜勤らしく、こちらから書類を受け取るとそう言って一枚の紙を渡す。紙を見ると”横の扉へ”と書いてあったので驚きダンドさんを見たが、微笑みながら頷いただけだった。皆がいる場ではとてもじゃないが話せない依頼、そういうことなのだろう。


理解出来るとは言えいつもと違うので、秘密を知り過ぎたとか言って閉じ込められるのではないか、という不安を抱えたままゆっくり移動する。


これまでのギルドでの対応などを考えると無いだろうと思いつつ、扉の前に行くと待つことなく中から扉が開けられ、心臓が止まるほど驚き息が止まる。


呼吸を再開し整え前を見るも誰もおらず、警戒しながら中へ入り左右を見たが、左には誰も居らず突き当りになっていて右を見ると道が続いていた。


そちらへ進んでみたところ複数の人が机に向かって仕事をしている、事務所のような場所へ出る。


「いらっしゃい、奥へどうぞ」


 近くの席から立ち上がった人が声をかけて来た。見ればミレーユさんだったのでようやくホッとする。


仕事が終わったばかりなのかいつもと違い、カーディガンを羽織りコーヒーカップを片手にリラックスした表情をしている。


事務所を通り更に奥へと進んだところにある扉の前で、ミレーユさんは止まった。扉には応接間と書かれたプレートが付いており、彼女はノブを回して扉を開ける。


中には豪華なテーブルを挟んで左右にソファーと本棚があり、さらに奥には大きな机と本棚があった。


右のソファーに座って少し待つように言われたので座り、ミレーユさんは事務所の方へ戻って行く。


「お待たせしてごめんなさいね」


 ぼーっとしながらソファーに座って待っていようと思ったが、あっという間に書類を片手に部屋に戻ってくる。こちらに謝罪した後で向かい合う様にソファーに座った。


ミレーユさんは紙に一度目をしっかり通した後で、防具屋の親方からの依頼についての説明を始めます、そう宣言する。


説明が始まってまず驚いたのは、アリーザさんに荷物を渡すのは当初町長が行う予定だった、という話が始まったことだ。


親父さんはそんな話はしていなかったし、そもそも親父さんが町長の動きを知っているとは思えなかった。


何者かが親父さんに依頼し、適任者を探させたと考えるのが妥当だろう。正体を知りたいところだが、先ずは話を全て聞いてからにしようと堪える。


 町長がアリーザさんに荷物を渡すという話が進むうちに、町長クラスの人物が接触するのは怪しまれるだろうとなり、奥様と娘さんに変更になったそうだ。


奥様たちが向かう分には怪しまれないだろうとなり、作戦を変更して馬車で向かったところ、なぜかこの辺りを根城にしている盗賊に襲われた。


丁度出くわしたこちらが助けに入り、盗賊を倒して難を逃れたものの続行する訳にも行かず、奥様の判断で引き返す。


町長は改めて策を練り直し、信用出来る人間に荷物を託したいとして、防具屋の親方に人選を依頼し今に至る。以上が依頼の内容の一部ですと言われた。


説明を聞き終え疑問点は多いものの、一番の疑問点はなぜ自分なのかと言うことだ。町長であれば信頼出来る部下はそれなりにいるだろうから、その人物に任せれば良いはずである。


なにより人探しを専門家でない防具屋の親方に任せるのは可笑しい。ここまでくればただの村人に荷物を渡すだけじゃない、ということはさすがに馬鹿な自分でも気付く。


裏があるのは間違いないが、指摘したところで一介の冒険者に教えて貰える可能性は低いだろう。


一応無駄とは思いながら率直な意見を口にしてみたところ、ミレーユさんは荷物そのものの説明は出来ないが、依頼した理由をしてくれると言ったので驚いた。


こちらに親父さんを介して依頼をした理由は、何処から漏れたのか探る作戦を決行するためだそうだ。


初期の作戦を知っている者は限られているが、人から人へ漏れた可能性も考えられ、それを探り正解に辿り着くまでには時間が掛かり過ぎる。


荷物を早急に渡す必要もありさらに情報を知る人物を絞りに絞った上で、犯人をいぶり出すため複数人に内密の依頼だと言って声を掛け、人物を選定した上で荷物を渡しアリーザさんに届けさせる。


出発直前に荷物を渡す際には町長が選んだ者にのみ本物を渡すが、その際にも限られた人間のみ同行させるようだ。


そうすれば人から人へ伝わるには時間が掛かり過ぎるので、襲われたとすればその限られた人間を詰問すれば良い。


前回情報を漏らした人間は今度こそとなり、自らの指揮でその運び屋を襲うだろうから、あわよくば捕らえて元を辿りたいという。


「そんな事情で大っぴらに募集は出来なかった。人望も信用もある防具屋の親方さんに、信用出来そうな人間を見つけてもらって指名し、依頼を出して欲しいとお願いしてたそうよ」

「そうなんですね……荷物を運ぶのは構いませんが、それで終わりで良いですよね?」


 こちらが正直な気持ちを話したところ、ミレーユさんは少し間を開けてから目を閉じ小さく頷いた。


「貴方は正しいわ。この件に関しては事情が入り組み過ぎて説明すると長くなるし、聞けば余計な話に深く関わることになる。ギルドも今のところそれに深く関わるつもりはないの。だからこれは単なる荷物運びの仕事。私たちにとってそれ以上でもそれ以下でも無いわ。但し料金はしっかり頂いたけどね」


 ミレーユさんは笑みを浮かべて俺を見る。知らない振りして仕事を受けるから、その分寄越せと交渉したようだ。危険度が高い分、これは報酬を期待出来るかもしれない。


「では改めて。隣の村に居る自警団員アリーザ宛の荷物を届ける依頼、手付に二十ゴールド、達成報酬は百ゴールド。契約する?」

「します!」


 考える間もなく即答した。手紙を毎日やり取りしてきたアリーザさんと久し振りに会えるし、何より上位蓑代金が戻ってくるだけでなく百ゴールドも貰える、とんでもなく美味しい依頼なので断るはずもない。


条件や状況を考えると断らないよう仕向けられている気がしたが、今は深く考えるのは止そう。


「分かったわ。では早速明日の朝、町を発って隣の村へ荷物を届けてね。行く前にギルドで必ず荷物を受け取るのを忘れないように」

「はい!」


 口外しないなどの契約上の注意事項をよく読んだあとで、書類にサインをしてギルドを出て宿へ戻り、お風呂に食事を済ませて急いで就寝する。


夢も見ずに目を覚まし、ベッドから出て窓の外を見たが天気は良くない。雨はまだ降っていないものの雨雲が空を覆っていた。


昨日購入した上位蓑を持ってギルドへ赴く。ラウンジに人はまだ少なく、受付にはミレーユさんが居て書類と荷物を渡してくれる。


町長から手渡しと言う話だったがそこだけ変わったらしい。荷物は大きめのリュックに収められていて、これをそのまま渡せば良いという。


「くれぐれも、気を付けてね……」


 いつも笑顔で送り出してくれるミレーユさんが、ぎこちない笑顔をしている。どうやらこの荷物は当たりのようだ。


相手が早めに動き町長が捕らえてくれれば、何事もなく荷物を渡し終える可能性もあるが、襲われる可能性はあると考えた方が良いと思った。


冒険者ギルドに所属して間もないこちらを心配してくれている彼女に対し、感謝しながら笑顔で頷きギルドを後にしそのまま町を出る。


ここから村までは遠くは無いがそれなりに距離はあった。この間は奥様の馬車に乗って来たのであっさり着いたが、歩きではあの時の倍以上かかると見た方が良いだろう。


草原が終わり森の中の道に入る。相手が襲ってくるなら森を逃す手はない。警戒しながら進んでいると遂に雨が降って来た。雨によって痕跡を大分消せるはずだから、間違いなく来るならここだろう。


「お、来たな」

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