第7話 一日目の依頼

 一頻り笑い終えた後で頼りにしてるよと依頼主の女性言われ、頑張ります

何からやりましょうかとたずねと、ここに着いてる馬車の荷下ろしをお願いと指示を受ける。


馬車の運転手である馭者さんは荷台で既に待機しており、こちらへ荷物を渡してきた。見れば馭者さんは筋骨隆々で軽々と荷物を渡してくるが、中身は重いはずだと考え両手を伸ばしてしっかり受け取る。


多少重くはあったもののそれほどではなかったので、余裕をもって胸の位置まで下ろし荷物を抱えられた。恐らくこの世界に来てパワーがアップしたからこそできるんだな、と思い感謝しながら置く場所を指示されその通りに置く。


元々営業で歩き回っていたことから体力には自信があり、そこに力が倍くらいに上がったことで途切れることなく仕事が出来る。


労働の喜びを感じつつ次々と下りてくる荷物を受け取り、指示を受けながら置いていくを繰り返し続けた。やがて荷台の荷物がかなり減りもう終わりかなと思ったところで、馭者さんに後ろに回ってくれと言われる。


回ってみると最後の一つは長方形の木箱が荷台に寝そべっていて、これは重いから誰か人をもう一人くらい呼ぼうと言われた。


なんとなく持てる気がして、一度だけ挑戦してみても良いですかと聞くと、馭者さんは依頼主の女性を見る。


彼女が頷いたのを見てやってみろと許可が下り、手を伸ばしゆっくりと自分の方に近付けてみるも、先ほどと同じように言われるほど重さを感じなかった。


営業先で話を聞いてもらう為にお手伝いをしていた時に、体に押し付けて抱えると腰に負担を少し軽減できる、そう聞いたことを思い出し胸に押し付けながら抱えてみる。


「おお……やるな兄ちゃん! 背丈や体格の割にとんでもねぇ力の持ち主だな!」


 馭者さんの感嘆する声を背に受けながら依頼主の女性に近付いて行くと、ここにそれを寝かせて置けるかと言われたので、一旦荷物をそっと置いた後でゆっくりと倒して寝かせた。


「あなたって凄い人なのね! 助かったわ!」


 最後の大物をしっかりと片付け終えたところで、今日の荷下ろしは終了だと言われる。残っている物は他の家の郵便物だと言って、馭者さんはそのまま走り去っていった。


仕事をやり終えて見て改めて自分の力が上がっているのを実感し、荷物運び系の仕事は選ばずこなせるなという自信を得る。


今のところ篭手しかないので武器が欲しいけど、パワーが上がっているなら殴っても良いかと思い、ならば防具を手に入れようと思い至った。


自分の能力を再確認出来たいい仕事だったなと振り返りつつ、依頼主の女性に対して笑顔で一礼する。


「いえいえとんでもございません。御依頼は以上になりますでしょうか」

「あなたの仕事は完璧よ。私はお陰で荷解きに集中できたし、スムーズに仕事をこなしてくれてありがとう。ここまで出来る人が来てくれるなんて思ってなかったから驚いちゃった。また何かあったら是非お願いね!」


「是非御用命ください!」


 女性は最初に渡した紙に、サインとコメントを書いて俺に渡してくれた。紙を受け取り一礼してその場を後にする。


「おい兄ちゃん、凄い働き振りだの」


 ギルドへ向けて歩いていると突然脇の路地から、黒いローブを着たライオンの様な髪型で白髪のお爺さんが出て来て、そう声を掛けてくれた。


先ほどの仕事を見ていたのかなと思いつつ、とんでもないですと返すとうちも少し手伝って欲しいんだが、とすまなそうに言われる。


勢いで良いですよと言いそうになったものの、元の世界で個人間の口約束で痛い目を見ていた為、自分は冒険者ギルドに所属する冒険者なので、ギルドを通して依頼して欲しいと丁寧にお願いした。


「最近の若いのは冷たいのぉ……」


 大きな溜息を吐いた後でそう言ってお爺さんはまた路地へ戻っていく。申し訳ないなと思いながらも、去る背中へ一礼しギルドへ向けて再度歩き出す。


個人間の口約束や契約が成されていない仕事というのは、報酬もふわふわしているだけでなく、あの時高く払ったんだからとか恩を着せられる場合もある。新人の頃それで痛い目に遭ったのを忘れられない。


特に今の自分では何か起こっても責任が取れないので、断るのは双方にとって良いことだと思う。ギルドに戻るとミレーユさんが受付に居たので、書類を渡しその話をした。彼女は話を聞き終えると賢明だったと言う。


冒険者ギルドを通さないで依頼のやり取りをする場合、手数料も保険料も掛からない。相手は安く上がるし受ける方は高くなるが、その代わりに依頼主の身元も分からず怪我を負っても保証はされないことになる。


人情を盾にして危ない仕事をさせ、終えると一蓮托生で引きずり込まれる可能性があるとも話してくれた。


冒険者ギルドでは依頼主の素性もチェックし、依頼内容もチェックした上でリストに載せている。結果として、依頼を受ける方の安全はある程度確保されていた。


依頼内容に関して偽りや無料分を要求した場合は、ギルドへの依頼を出来なくすると言う。


実際そうした人は何人も居るらしく、注意するようにと言われた。似顔絵を何枚か見せてくれた中にさっき声を掛けて来たお爺さんがあって驚く。


「裏で仕事を取るのは自由だけど、責任を自分で取らないといけない。最悪ギルドから追放と同時に賞金を懸けられて追われる場合もある。だから気を付けて」


 笑顔だったが迫力を感じ、大きく頷いて答える。ミレーユさんからお昼をと勧められてラウンジでトーストとコーヒーを頂く。この世界でも食べ物は似ているようで、トーストもコーヒーも原料はそう遠くないところで作られているから安いようだ。


食べ終えてからまだ余裕があるので、次の依頼を受けるべくリストを見せて貰う。前回と似たような荷物運びの依頼を見つけ、受けたい旨を伝えると即了承された。更に先程の依頼の確認が取れ、報酬の十ゴールドを頂きテンションが上がる。前の依頼と同じように用紙を手に依頼先へ向かった。


「なんだお前」


 今回は他の都市からの荷物を収める荷受け場の仕事で、入り口から中へ入ったと同時に声を掛けられる。声の方向へ視線を向けると赤いシャツに黒いスラックス、ゴツいブーツを履いた筋骨隆々でスキンヘッドにねじり鉢巻をした人が、腕組みをして立っていた。


「こんにちは! 冒険者ギルドから参りました!」


力仕事を長年して来ただけでなくここを仕切っている人だなと感じ、近付き腹から声を出して挨拶し頭を下げる。


「おうまぁ頑張れ。こっちだ」


 書類を受け取ると興味なさそうに言われ、後に続いてさらに中へと入っていく。一番奥に倉庫のような大きな建物があり、入り口と建物の間は何もない更地だった。


移動する間に後ろから次々と馬車が入って来て、建物の前に列をなしていく。先を歩いていた人物は足を止め馬車を指さし、馭者の指示通り荷物を下ろせば良いからと指示をくれる。


馬車の傍まで駆けて行き馭者さんに挨拶をしたところ、荷物に書いてある数字の倉庫の前に荷物を置けばいいと指示をもらい、その通りに運んで行く。


見れば荷物は小麦や米、衣料品に医薬品などだった。洋服などは元の世界よりも古い作りだったりするものの、食べ物で目新しい物は無い。


人間はどの世界でも作るものに大差ないのかなと思いつつ、作業を続けているとストップが掛かる。


気付くと馬車はもう待機して居らず、さっきまで下ろしていた荷物だけがその場に残されていた。


「お前何だ? 冒険者ギルドから来る奴は大抵使えないのに」

「お役に立てているのであれば良かったです」


 笑顔でそう答えるとおじさんはニコッと笑い、下ろした荷物を運んでいる作業員に檄を飛ばす。やはり最初の勘通りあの人はここを仕切っている人なんだな、そう思いながら待機しているとおじさんが戻って来る。


すまなそうな顔をしながら中に入れ込む手伝いを依頼された。ギルドからの依頼の派生だし評価が良かったら次につながるだろう、そう考え了承し中に入れ込む作業に移る。

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