第6話 冒険者ギルドについてと初依頼!
しばらくしてから頭を上げると、後ろからこちらにどうぞと声がかかる。振り向くとミレーユさんが手招きしていたので、急いでカウンターへ駆け寄った。
改めて宜しくお願い致しますと頭を下げたところ、丁寧な挨拶ありがとうこちらこそよろしくねと言われる。
顔を上げてミレーユさんを見ると優しく微笑んでいた。周りにいたことが無いレベルの美人に笑顔を向けられ、かなり動揺しもう一度宜しくお願いしますと言ってしまう。
何度も言わなくて大丈夫よと笑いながら言われてしまい、羞恥心で顔の温度だけが急上昇する。
「あなたは運が良いわ。ここに連れて来てくれたあの方はシゲン・タチ様と言って、ここシオスの町長なのよ」
こちらが恥ずかしさで押し黙っているとミレーユさんは説明してくれた。シゲン・タチ町長は町を発展させるために尽力している人で、誰からも好かれているという。
ギルドに対しても貢献度の高い町長の奥様を助けたとあれば、私たちも出来る限りの支援を約束すると彼女は言う。
ミレーユさんの言葉を聞いて本当に奥様を助けられたのは幸運だった、そう思いながら教えてくれた彼女に感謝の意を伝える。
「では先ずこちらの紙に記入をお願いね。この筆をこちらの瓶の中にある墨につけて書いて頂戴」
ミレーユさんはカウンターの下から一枚の紙を取り出し渡した後で、近くにあった筆と墨の入った瓶を指さし説明してくれた。
ボールペンは疎かえんぴつもまだないんだなと考えつつ、言われた通りに筆を瓶につけてから記入を始める。
紙をよく見たら出身地に得意武器そして今までの依頼など、名前以外に書ける項目が無かった。
取り合えず名前以外に余白を使い剛腕に頑強とだけ書き、記憶喪失という設定になっているので未記入のまま提出する。
紙を受け取ったミレーユさんは目を通した後、これでは読めないと言ってこちらに向けて紙を戻し指をさした。さされた部分は名前の欄で、相良仁と書いたがそのままだと相良人みたいになってしまうという。
これからはジン・サガラと名乗った方が良いとアドバイスを受ける。教えてもらわなければずっと相良人です! と答えていたと思うとまた恥ずかしくなり赤面した。
「さて、ジン。ここは冒険者ギルドといって、困っている人と仕事をしたい人たちの仲介役として存在しているわ。国と冒険者協会が共同で運営していて、依頼内容はなるべく詳しく審査し虚偽があれば罰則がある」
依頼料は危険な仕事になればなるほど高くなるようだ。怪我をすることが多い為、依頼料には保険料も含まれており、大けがをした場合は手厚い補償があるという。冒険者ギルドのラウンジは、外で食べるよりも安めで提供されているらしい。
飲み物はほとんどがタダになっていると聞き喜んだが、重要な注意事項があると真剣な顔で言われた。先ほどまでにこやかだった人が、こんな顔をするとは一体どんな事なのだろうか。唾を飲み込み彼女の言葉を待つ。
「ギルドと国が提携しているから冒険者に対して手厚いのだけど、有事の際には戦争に参加しなくてはならない決まりがあるわ。冒険者の報酬が高く税金が免除されたり待遇が良いのも、戦力としてあてにしたいっていう事情があるの」
ミレーユさん曰く、ここ数十年地形の関係もあってこの国は戦争を仕掛けられてないという。王様も特に外交に力を入れておりいさかいは起こっていないらしい。国民からは仕事振りだけでなく、愛嬌もあり人気があるそうだ。
突然の戦争という言葉を聞いてもいまいちピンとこない。日本ではまだ戦火は遠くテレビの中の出来事だったから。モンスターだけでなく、戦争という言葉がスッと出てくる点でも異世界に来たんだな、と実感する。
戦争となれば相手はこちらの命を奪うために来るだろう。身を守るためにも戦わなければならないのは頭では理解しているが、実際そうなった場合にどうかはわからない。
「ヨシズミ王は野心家では無いし、この国から他国に攻めるのも逆も立地的にそもそも難しい。誰が王様でも野心を抱き辛い条件が揃っている。絶対に大丈夫だとは言えないけど、戦争が起き辛い環境なのは間違いないわ。それでもいざという時のことは考えないとならないのがつらいところなのだけど」
「戦争が無いのを祈りつつ、有事の際は覚悟するしかないですね」
「そういうことね。後は揉め事があった場合はギルドに小さなことでも報告してね。冒険者同士のいざこざは基本ギルドで判定するから。当人同士で解決してどうにかなる場合なんてそう無いし」
「分かりました。この町や国の状況が分からないので頼りにさせて貰います!」
「一杯喋っちゃったけど四つの点を覚えていてくれれば今はいいわ。冒険者ギルドは国と提携し冒険者に手厚くしている、保険を備えているけど依頼料は高いほど危険、万が一有事の際は戦争に参加する場合がある、冒険者同士の揉め事はギルドが解決する」
メモが無いので頭の中で復唱して覚えるようにする。外営業でメモ書きが追い付かない時があり、記憶してあとで文字起こししていたので、覚えるのは得意だった。
前の世界での経験がここでも生きて良かったと思っていると、ミレーユさんに他の部屋に案内される。
部屋にはキャンパスの前に座り、指くらいの長さの黒い棒に紐が付いた物を持った女性がいた。冒険者証を作るのに似顔が必要らしく、女性はキャンパスに簡単な似顔絵と冒険者証と書かれたカードのマスにも似顔絵を描き始める。
あっという間に出来上がり、ミレーユさんが見比べて確認しオッケーが出て冒険者証を頂く。似顔絵はなりすまし防止として各町そして国へ報告され共有するようだ。
中々しっかりしてるなと感心していると、ミレーユさんから早速表紙に”ブロンズ級依頼”と書かれた左端をリングで纏められた物を渡された。
「貴方は一応まだブロンズ級、謂わば初心者の冒険者なの。だからここから選んで依頼をこなして頂戴。依頼をこなして評価が上がると昇級試験を受けられるわ」
「一番上はゴールドですか?」
「プラチナよ。そんな人この国に居ないから、会えたらラッキーって思ったら良いわ」
「分かりました。有難う御座います」
ミレーユさんにお礼を言って受付を後にし、ラウンジの適当な席に座って早速依頼書を見る。そこには畑の警護や野生動物の追い払い、荷物の運搬手伝いなど多種多様な依頼が並んでいた。そして報酬もまちまちで、達成条件が細かく指定されているものもある。
俺としてはまだまだこの世界の事情に疎いので、単純で分かり易い物からこなしていこうと決めた。力も元の世界と比べ物にならない程あるので、依頼書に遭った荷物の運搬手伝いを選んでミレーユさんに伝える。
ミレーユさんはその依頼をチェックし、これなら最初に相応しいと太鼓判を押してくれ相手方に渡す紙と地図を渡してくれた。地図に掛かれた場所に行くと町の防具屋さんらしく、店の前に馬車が二台止まっていた。
「あ、お客さん? 御免まだ開けられないんだ!」
「あのーギルドの依頼を見まして」
タオルを頭に撒きシャツに短パンそしてブーツを履いた元気そうな女性に一礼してから、ミレーユさんに渡された紙を見せる。それと俺の顔を交互に見て深い溜息を吐く。何かやらかしたんだろうか。
「場所、間違えましたでしょうか」
「ううんウチだよウチ。てか人が来てくれてよかった……来てくれないと思ってたんだよね荷物が多いのに安いからさ。今日偶々ウチの父ちゃんが腰痛めて母ちゃんも付きっきりで人足りなくて」
「ああ良かった。お役に立てれば何よりです。早速指示お願いしまーす!」
腕を捲ってから力こぶを見せるポーズを取ったところ、依頼人の女性は目を丸くしてから爆笑した。先ず笑いを取って依頼人に好印象を与えられたぞ! 仕事をきっちりこなして良い評価を得て終われるよう頑張ろう!
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