第4話 盗賊との遭遇戦

「馬鹿め! 不意打ちじゃなきゃ、てめぇみたいな丸腰素人相手にやられるかよぉ!」


 モヒカン盗賊の言葉は正しく、こっちが間合いに入ろうとすると合わせて距離を取ったり、斧を振り回してけん制してくる。


彼らの持つ斧は薪を割る様な片手斧で、小回りは効くし殺傷能力は高そうだ。昔やっていた洋ゲーのMMORPGで、似た装備のプレイヤーキラーに襲われたことがあったなような、と気付き急いで詳細を思い出そうとした。


なんとか襲われた場面を思い出すも、その時は丸腰のわけもなく盾で防ぎながら戦っている。やはり丸腰では無理かと思ったが、襲われている人がいるのに見過ごせるわけがない、そう考え自分を奮い立たせた。


相手をもう一度しっかり見て確認してみたが、コイツら奇襲専門なのか盾も持ってない。


何とか得物を奪い取れればワンチャンあるかもと考えるも、奪う前にこの調子だと斬られるのが関の山だ。何か無いか、何か良い手は!


「ちぇぃや!」


 妙な掛け声に吹き出しそうになるが、声とは真逆に盗賊の振り下ろしは鋭く、避けたと思ったものの服が少し切れ驚くも、なぜか相手も驚いている。


「て、てめぇ一体何もんだ!?」

「初めまして! 私インダストリア株式会社所属の営業マン、相良仁です!」


 盗賊は呆気にとられた顔をしながら誰か聞いてきたので、ついいつもの調子で答えてしまった。明らかに場違いで意味不明な自己紹介に対し、相手はさらに混乱状態に陥ったのか場が止まる。


説明しようとしたところで今はそういう他無いよな、うん! 他に肩書ないからしかたない! と頭の中で自分自身を納得させながら立ち尽くした。


「え、エイギョウマンてなんだ!? てめぇまさかアリーザ一派の騎士か!?」

「は!? アリーザ一派ってなんだ!?」


 相手も自分の中で言葉を処理し終えたのか、再度こちらに問いかけてくる。営業マンが通じないのは分かるしその通りだと思い聞いていたが、その後のアリーザ一派という言葉に驚き問いに問いを返してしまった。


会話が噛み合わずにまたしても盗賊が停止する……って冷静に状況を説明している場合じゃない。この間に何か武器を探さないと! 


「これを!」


 馬車の中の恐らく悲鳴を上げていた人が、窓を開けて何か大きな袋を放り投げた。武器かも知れないと考え取ろうとしたところ、盗賊はそれを見てこちらに斬りかかってくる。


なんとかギリギリ受け取ることに成功し、足がもつれながらもなんとか後ろへ飛び退くことにも成功した。


「チッ!」


 相手の攻撃を避け距離が取れていることを確認しながら、直ぐに受け取った袋を開き確認する。中には指先までしっかりと守られた、白を基調とし金色と緑の装飾が施されている、お洒落なデザインの篭手が入っていた。


防具もありがたいが出来れば武器が欲しかったな、と少し残念に思ったが贅沢は言えない。


相手の様子を見ながら急いで篭手を一つ取り出したところ、右手の物だったので直ぐはめようと試みる。良い物なのかスムーズに入りほっとしたが、なぜか盗賊が構えたまま動かない。


斬りかかって来てもおかしくないのにどうしたのかと思いつつ、合体バンク的なものがこの世界にはあるんだろうか? と考え、少し面白くなってしまう。


笑ってる場合じゃないと急いで左手も付けたところで、ようやく盗賊はこちらへ斬りかかってきた。


ギリギリで避けて盗賊を思い切り突き飛ばしたところ、盗賊はあっという間に目の前から消えてしまう。辺りを見回すと雑木林の木が薙ぎ倒されているところがあるので、恐らくあっちに飛んで行ったんだと思われる。


「あの、もし」


 呆然と見つめていると耳に声が届き、その方向を向くと馬車の窓から手が出てひらひらしていた。恐る恐るそこへ近付いてみると扉が開いて女性が一人降りて来る。地面に付きそうな肩幅より裾が広がっている、黄色のドレスを着た五十代位の綺麗な人だった。


髪の毛はアップにしつばの広い黄色い帽子を被り、ネックレスや指輪など高そうな物を身に着けている。


盗賊に狙わたのも納得の格好だ。きっとこの世界の富裕層に違いない。


「危ないところを助けて頂き感謝いたします。大変申し訳ないのですが、この先にある町まで馬車を操って頂けませんでしょうか」

「あーえっとすいませんお馬さんが駄目かもです奥様」


「え、大丈夫ですわよ?」


 御婦人が言いながら馬に近付き撫でた瞬間、馬はゆっくり首を寄せた後で立ち上がり、寄りかかっていた盗賊は地面に落ちた。狸寝入りならぬ馬寝入りとはこの馬やるな。


馬車の運転なんて分からないが、御婦人は馬車の中へと戻ってしまったので、仕方なく馭者席へ遺体と共に座る。


手綱を揺らしてみると馬は分かっているのかゆっくり動き出し、馬車は進み始めた。自分みたいな素人が馬に命令しても意味が無いし、この子賢そうだから任せようと考えそのまま何もせず、周囲だけ警戒しながら座るのみに留める。


のんびりした道を進んでいた時、遠くの方に岩で出来た長い塀が見えてくた。馬は急ぎもせずゆっくりと進み、森を出て草原に入っても速度は変わらず塀に近付く。近くまで来ると大きな門と橋が見え、そこには多くの者たちが並んでいた。馬は最後尾に付くとピタッと止まり順番を待つ。


「……これは一体何だ?」


 周囲の人にもジロジロ見られながら待っていると先頭になる。自警団より立派な鉄の鎧を着た兵士が槍を構えてこちらに問う。改めて横を見ると元馭者だった遺骸があるので、このことだろうと事情を説明しようとすると


「ご苦労様です。この方は私を助けて下さったのよ。このまま通して頂戴」

「お、奥様!? し、失礼いたしました! お通りください!」


 ご婦人が馬車の窓から顔を出して説明してくれた。兵士は顔を見るとすぐに得物を引き敬礼して道を開けてくれ、馬はそれを見るとゆっくり町中へと進んで行く。


あの反応からしてご婦人は富裕層なのは間違いないが、兵士が奥様と言って恐縮し敬礼するのだから、軍とかのお偉いさんなのだろうか。


直ぐに応えの出ない問題を考えている間に馬車は進む。周りを見ると大きそうな町だけあって道は石畳で、家も二階建てがあったり道端で露店が出て居たり、何よりすべてが村より綺麗だった。


「ここよ有難う」


 馬に任せて進み続けていると、どの家よりも大きく立派で門兵が立っている建物の前に着き、馬も止まる。門兵たちは急いで馬車へ行きドアを開け、出ようとした奥様の手を取りエスコートした。


奥さまは兵たちにも事情を説明し、彼らはそれを聞いて元運転手の遺骸を下ろして中へと連れて行く。


「さ、中へどうぞ。イーシャも来なさい」


 先に中へと進んでいた奥様は振り返り俺に手招きした。その後俺の横を見てそっちにも手招きしたので見ると、黒髪ロングで黒い綺麗なワンピースを着た少女が立っていたのだ。


ビックリしすぎて停止していると、俺を見て一礼し奥さまのところへ駆けて行く。まさかもう一人いたとは……悲鳴はひょっとして彼女のか!?

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