第3話 役に立とうと張り切って失敗

 お世話になり始めてから数日たった時、自警団のお手伝いを続けているがその中で新しい発見があった。


何と”自分だけ何処出身の人の言葉も分かる”という凄い能力を持っていたのだ! 五日くらい経った頃にこの国の端の方に住む部族の人が訪ねて来て、その時言葉が分かる人が偶々不在。


皆が困っていたが普通に喋っているように聞こえていたので、聞こえたものをそのまま自警団と部族の人双方に話すと互いに目を丸くしていた。


通訳をして欲しいと言われたのでその通りにし、事なきを得る。通訳の件があってから、通訳の仕事も出来ると知り喜びに打ち震える。


何しろ元の世界じゃ日本語以外サッパリだったのでかなり嬉しい。自警団のその日の御給金も少し上乗せされ喜びもひとしおだ。


 翌日から営業時代に培った丁稚精神で、雑用や通訳を忙しなく動き頑張って働いた。困っている人たちも助けたりと村にも溶け込もうと頑張った……筈だった。


「ジン、今日までよく働いてくれた。これは今日までの給金だ」


 数週間たったある日、いきなり自警団の団長室に呼ばれそう言われた。何を言っているのか分からなくて茫然としていると


「すまんな……お前は体力も力も凄くて通訳も出来る。うちとしても戦力としてとても助かる……が、皆が皆そうではなくてな」


 あーこの感じ覚えがある。就職する前に一時バイトしてた居酒屋で言われたやつだ。皆の為に善かれと思って手伝ったりして頑張ったんだけど、そういう動きが輪を乱すって言われてクビになったのを覚えている。


そこで初めて、手伝うと言った時の自警団の人たちの苦笑いしていた顔に気付いた。向こうからしたら来て数日の人間に、仕事を手伝うって言われてガンガン仕事をこなされたら良い気分じゃないよな……。


”相良君て空気読めないよね”


ってバイト先の女の子にクビになる前に釘を刺されたのに


”それが取り柄です!”


とか答えてた馬鹿だもんな自分は。


「短い間でしたが、お世話になりました!」


 寂しさとどうしたら良いかわからず途方に暮れかけたが、先ずはお礼を言おうと感謝を伝えながら団長にしっかり頭を下げる。


団長から村の宿を教えて貰い、ここから少し歩いたところにある町の冒険者ギルドという所への紹介状と給金を頂いた。団長の部屋を出て皆さんにお礼を言ってから、自警団の宿舎を後にする。


短い間だったけど、この世界の通貨とか雰囲気とか自分の状態をある程度知れて助かった。今日はもう夕方なので、隊長に教えて貰った宿に泊まって翌朝発とう。


早速宿へ向かうと話が通っていたらしく、部屋へ案内され直ぐに夕食を頂いた。食堂から出る時、宿賃は五ゴールドと言われ頂いた給金から支払いを済ませ部屋に戻る。


今手元にあるのは何と四十ゴールド! 


通訳の上乗せと最後に頂いたので大分ジャンプアップしたぞ! 


……とは言え鎧には遠いなぁ三百五十ゴールドは高いなぁ。小さく溜息を吐いて頂いた給金を大事に懐に入れて就寝する。とくに夢を見ることも目が覚めたら夢だったと言うこともなく、がっかりしながら部屋を出る。


朝食が出ると言われて食堂へ行き、朝食を頂きながら宿の人に街へ行く道を尋ねた。地図を御厚意で頂き、昼食が必要かもと言われ食事を買った方が良いですかねと聞くと、余り物でよければとリンゴを一つ頂きそれで凌ぐと決めて宿を出る。


村ですら一泊五ゴールドなのだから、町になると値段は上がるんじゃないだろうか。手持ちが寂しい現状では、野宿をしたことがないが鎧などを揃える為には野宿も考えないといけない。


最初に会った緑色の人とかと戦うには武器が欲しいし、防具も欲しいから節約して行こうと思った。


村の入口に到着し、軽く準備運動して深呼吸してから村を出る。久し振りに村の外に出るがあの時と違い、今は少しはこの世界の知識を得た。


故になるべく獣道を避け、馬車が通る様な道を選んで進む。昼食が必要かもくらいで時間は掛からないと聞いているが、注意するに越したことはない。


「キャー! 誰か助けて!」


 天気も良いので周囲を警戒しながらものんびり歩いていた時、前方から悲鳴が聞こえたのでそこへ向かって走り出す。


「何をしてんだ貴様らぁ!」


 馬車の周りを得物を持った汚い鎧を着た連中が囲んでいる。馬車の運転手である馭者さんは、既に刺されて胸から血を流してぐったりとしていた。


馬車を引いていた馬は足を斬られたのか、御腹を地面に付けている。それを見て頭に血が上り、背中を向けていた一人に思い切り殴り掛かった。


「ギャ!」


 短い悲鳴を上げて馬にぶつかり倒れる。仲間がノビたのを見て馬車を囲んでいた連中の視線はこちらに向く。


「何だぁ!? てめぇは!」

「お前らこそ何をしている!? 人殺しは犯罪だぞ!」


「はぁ!?」


 こちらの言葉を聞いてゲラゲラ笑い始めた。何も面白い話はしてないんだが、何が可笑しいのか分からないので他の一人に殴り掛かるも避けられてしまう。諦めずタックルをかまし、馬車に叩き付けると呻き声を上げてぐったりした。


「てめぇ何しやがる!」

「他人の命を奪うなんてしちゃだめだ! 何故こんな真似をする!」


「俺たちゃ盗賊だ! 他人様のモノは何でも奪うのよ! お宝だけでなく命もなぁ!」


 分かり易いモヒカン頭の痩せた男がそう言いながら得物の斧刃をペロリと舐めた。そこには血が固まっていてコイツが今まで何人も襲っていたのが分かる。


「貴様は許さん!」

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