第2話 お世話になる場所

 そんな思いとは裏腹に、目が覚めるとそこは定番の見知らぬ天井しかも板張り。今度は別荘にでも飛ばされたのかと思いきや、上半身を起こすとベッドの端で例の少女が寄りかかって寝ている。


「目が覚めたんですね! 良かった……」


 直ぐに彼女は寝ていた俺が目を覚ましたのに気付き、涙ぐみながらそう言った。良いなぁこうやって誰かに心配されるのって。


感慨に浸っていると、突然部屋にむさ苦しい男たちがドカドカと入って来る。見れば茶色の革で出来た、これまたゲームで見たような鎧を着ていた。


こりゃ完全に何県とかいうレベルじゃねーぞ、というのを理解せざるを得ない。元の世界とは違う世界に飛ばれたとして、これからどうすりゃ良いんだ。


部屋に現れたむさ苦しい男たちは俺をどうするつもりなのか、無事でいられるのか!?


「どうやら目覚めたようだな」

「ど、どうもお世話になっております」


 俺の言葉遣いがウケたのか笑いが起こり、和やかな雰囲気になってほっとする。どうやら捕らえるつもりで来たのではなく、少女から事情を聞いてお礼を言いたかったそうだ。


無事命の危機は脱したらしい。今の場所を先ずは確認し頭に入れたいと考え、ここが何処なのか分からないと言ってみた。


男たちは戸惑った後で、記憶喪失かという誰かの言葉に納得し色々説明してくれる。ここはアマネ大陸の北北東にあるヨロヅ地方という場所で、その中のヨシズミという国らしい。


周囲は森や山に囲まれているので他国から攻められる心配は無いものの、モンスターたちも多く生息しており、他のところへ行き来するのも大変なようだ。


「見た所荷物も無く所持金も無い様だ。御前さえ良ければ我々の手伝いをしないか?」

「ぜ、是非お願いします!」


 この世界を知る為には何でも良いから働き、交流しないと駄目だ。この人たちと知り合ったのも何かの縁だし、知らないところで一からやるよりは良いだろうと考え、頭を下げて頼んでみた。


「これから宜しくお願いしますね、私はアリーザと申します」

「ど、どうもご丁寧な挨拶、痛み入ります! 私営業部の相良仁と申します!」


 ベッドの脇に居る青い髪の美少女に対し、ベットの上で立ち上がり斜め四十五度をキメながら自己紹介してしまう。


体に染みついた癖がどうしても出てしまうも、周りの人たちが笑ってくれたから良しとしよう。


「フフフ……面白い方ですねジン殿は。あ、ジン殿とお呼びしてもよろしいでしょうか。それともサガラ殿?」

「あ、ジンの方で宜しくお願いします」


 呼び名も決まり改めてその日から、アリーザさんたち村の自警団の雑用係として、住み込み三食付きで就職することに成功する。


体は元の世界の状態よりもパワーアップしているようで、薪割りを頼まれたがカンカンリズムよく割れてしまい、アリーザさんに驚かれてしまった。


村の塀を修理するので資材の運搬をと頼まれた時も、丸太を両肩に乗せてスキップしながら運べたし間違いない。元の世界では全くうだつの上がらない営業マンだったが、この世界では自分の力で色々やってける! 


自信をもって仕事をこなしていると買い出しを頼まれる。荷物が多いので荷車を借りて商店まで行く。見た感じからして映画とかで見た中世ヨーロッパレベルの文化のようだ。


石を積んで壁を作りその上に木材で組み、屋根を作った感じの家が立ち並んでいた。この村でこの感じだと、首都はもっと発展しているのだろうか。


「兄ちゃん新しい人か?」

「え、ああはい。自警団にお世話になってます」


「何処から来た?」

「えっと自分記憶喪失なんスよね」


「首都から来たんだろ?」

「記憶喪失なので分からないのですが、首都とはどこでしょうか」


 肉屋に寄った時、急に横から御爺さんが話しかけて来たので正直に答えたが、何も教えてくれず納得しない顔をして去って行く。何処の世界でも人が居る以上思惑が入り乱れてるし、あの自警団にもそれがあるのだろう。


お世話になった分を返しながら、自分の生業をどうすべきか考えるだけで今は精一杯だ。もちろん気には掛けるが、問題解決するような力は今はない。


「兄ちゃんおつり。十ゴールドな」

「あ、どうもです! お世話になります!」


「……兄ちゃん悪い奴じゃなさそうだから言っとくけどよ」

「はい何でしょう!」


「アリーザは良い子だ。あの子に何かしたら承知しねえぞ? それだけだ」


 肉屋のオジさんが真顔でそう言う。そんなの言われなくとも、何処の誰とも知らない俺を助けてくれただけで、彼女が良い人なのは分かっている。


笑顔で頷くと御釣りを受け取り一礼し、その場を後にした。どうやらアリーザさんは首都から来る何かに狙われているらしい。


まだこの世界一日目でまだ何も出来ないが、いざとなればこのパワーアップした肉体を壁にして、守るくらいは出来るだろう。


そう考えるとこの服装じゃ心もとなく、自警団の人らみたいな鎧が欲しいところだ。帰り道に村の防具屋を見てみると、皮の鎧はなんと三百五十ゴールド! 


今買った荷車にある肉や野菜など、自警団の皆で食べる分が五十ゴールドだったので、稼いで買うとなると中々厳しい値段だと分かる。


自警団にお世話になって、この世界の基本的な情報を手に入れ生活に早く慣れないといけない。改めて気を入れ直し荷車を推して自警団の宿舎へと戻ると、頼まれたものを買ってきただけなのにとても喜んでもらえた。


今日の給金として三ゴールド支給されたが、これはこの辺りでの平均的な日給らしい。そう考えるとあの三百五十ゴールドの重さが身に染みる。

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