テンプレ転生おじさん、異世界で生活す。

田島久護

第1話 異世界に出勤!

 皆さん初めましてこんばんは! 俺の名前は相良仁。

高校を出てからおもちゃ製作会社のインダストリア株式会社という所に勤めている、御年三十五歳のおっさんだ!


朝起きてから支度を済ませ、自分の気持ちを軽く盛り上げてから部屋を出た。

会社へ行く為に自転車を漕いでいると、物凄い音と衝撃が横から来たんだ。


で気付いたら森の中よ……アニメとかでありがちだろ!? 

だけど実際に自分の身に起こるとビックリするもんだぜ!?


「……なーんて頭の中でやってもなぁ」


 右を見ても左を見ても木と雑草……。

自分の格好を確認すると、見覚えのないボロッとした茶色のシャツとスラックスに革靴。

何時買って着替えたのか分からん。てか会社どうした俺! っていう感じで戸惑いを禁じ得ない。


誰か答えてくれないかと思い叫んでみても、自分の発した声が響き渡るだけだった。


がっくり項垂れたがこうしていても仕方ない。取り敢えず何県の何処なのか聞く為に人を探して移動する。


はよ助けてくれんかな……誰でも良いけど話したい声を聴きたい。

無性に不安で仕方がない。いつも一人暮らしで家に帰ってもご飯食べて寝るだけ。

一人には慣れているつもりだったけどそうでもなかった。


彼女が居た記憶なんてまったくない。

合コンなんて行く度胸も無いし友達も居ない。

無い無い尽くしであるものと言えば仕事で覚えた愛想だけ。


現代文明で囲まれてたら、寂しさってのは解消されるんだなと実感する。

Youtubeを見れば人気のコンテンツを勝手に推薦してくれるし、それを無造作にクリックして垂れ流してれば一人じゃないって気になってた。


でも一人だったんだなぁって今は思う。


両親は俺が生まれる前から爆音流れる店で、玉が転がるのを見るのが趣味の人間だったのを覚えている。


記憶が鮮明に残るようになる頃には施設に居たので、向こうに残して来た家族というものは誰も居ない。


こんな状況に置かれなきゃ、そんなのを振り返りもしなかった。何でこんな場所に飛ばされたんだろうか。悔い改めろってことなのかね……いや何を? 独身を?


まぁ何処に居てもあんま俺の場合変わらんし、別に良いかとちょっと思っている辺りどうしようもないなとも思う。


「ニンゲンダ!」

「ニンゲンガイルゾ!」


 物思いに耽りながら歩いていると、急に草むらから緑色した身長百センチくらいの人が出て来る。


相手の頭髪は未来の自分を見るような親近感わく部分もあったが、手に血の付いたこん棒を手にしこちら見て小躍りしているのを見て、とても友好的とは思えなかった。


てかこれゲームで見たことある生き物っぽくない!? 


何で現実に居るんだ? 


何かの間違いだろこれ。アトラクションかなんかだろ!?


先ずは会話を試みよう!営業で培ったスマイルと低姿勢、それに手をにぎにぎしながら行くべし!


「ど、どうもぉ~あのぉ~ここは何処でしょうか」

「ニンゲンエサ! ニガサナイ!」


 どうやら長年培った営業技どころか言葉が通じないらしい。何処だここは遠野か? 妖怪たちの里に来てしまったのか?


「シネ!」

「や、やめてぇ!」


 何とか当たりそうになったのを避けられたけど、情けない声が出てしまう。緑の人のこん棒が空振り地面を叩いたが、そこが凹んだものこんなの重機でしかみたことないものおかしいもの!


「へ、へるぷみー! あいむじゃぱん!」

「ウルサイシネ!」


 ちぃっ! 某国営放送をビール片手に見て会得した気がする英語では通じないようだ!


となると別の言語ならいけるんか!? 


後何が言えたっけな你好!? 


アンニョンハセヨ!? 


グーテンモルゲン!?


「グゲゲ!」


 人が悩んでいる間に前と後ろを緑の人が挟むような形になっている。糞ぅポケットには何も無いってアピールしても、ニヤニヤしてるだけで駄目だこれは! 


「そこまでだゴブリンめ!」

「キャー! 助けて―!」


 前に居る緑色の人の後ろから颯爽と現れたのは、赤い鎧に身を包み青い髪を靡かせ、大きな剣を手にした美少女だった。


かっけぇなぁ等とのんびりしている場合じゃない。彼女は前の相手に斬りかかったので、すかさず横へ移動し戦況を見守ろうとするも、残るもう一人のが襲い掛かって来る。


よく見れば上司の木村によく似たニタニタした顔で、段々腹が立ってきた。本人じゃないだろうから殴っても罪はないだろう……ここは日頃の鬱憤を晴らすべし!


「ちぇいやー!」


 凄いタイミング良く俺の右ストレートが顔面に直撃し、伸びる木村……ではなく緑色の人。あんれま帰宅部出身の右ストレート如きでノビるとはなんと軟弱な。取り敢えず訴えないで欲しい意識が戻っても。


「おいお前!」

「はっはい! お待たせして申し訳ございません!」


「は?」

「え?」


 相手が怒鳴ってきた時は反論せず直ぐに謝罪、という先輩の有難い教えによる条件反射が出てしまい、斜め四十五度のお辞儀をしながら謝罪してしまう。


急いで顔を上げると前にいた少女は、驚いた様子だったが暫くして口に右手を当て、クスクスと笑い始める。


どうやら掴みはバッチリだったようだやったぜ失敗! 嬉しくなって後頭部を右手で擦りながら、彼女と一緒に笑う。


今度こそ間違いなく人間だと考え、人と笑いあえてホッとする。こんな綺麗で可愛い子と和やかな雰囲気に慣れるなんて、会社と家の往復だった日々が嘘のようだ。


内心喜んだのも束の間、視線が彼女の左手に持っていた剣とその血に向き、明らかに世界が違う気がして嘘なら良いのにと思ってしまった。


誰かが出て来て嘘でした! と宣言して早くこの夢が終わらないものか、と心の中でぼやく。


「危ない!」


 背後から少女に対してこん棒を振り上げ、緑の人が飛び掛かってくる。まだいたのかと驚きながらも、彼女が危ないと思い咄嗟に横へ突き飛ばす。


正直怖かったが、仕事の失敗を擦り付けて来た上司木村への怒りを再度充填し、思い切り拳を振り抜いく。


「いってぇ!」


 そんなに都合よくヒーローをやり続けられるはずも無く、相手の顔面を捕えたのと同時に、相手のこん棒が頭に直撃し気を失った。


これで何とか元の世界に帰れると良いなぁ……。


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