第1.5話 ようこそいらっしゃいました
深い眠りから無理やりに起こされた私は、洗面台で顔を洗って頭をすっきりとさせた。
今日も忙しい1日が始まる。
着替えを済ませて部屋を出ると、ちょうど女将さんが食事を運んでいるところに出くわした。
「おはようございます」
返事が無いことは分かっていたけど、私が女将さんに挨拶をするのは習慣になっていた。
旅館の奥へ行くと、私を起こしてくれた
私よりも10歳年上の先輩だ。
最初、新人だった私に、ここでの仕事を教えてくれたのも彼女だ。
「おはようございます」
「おはよう。もう目は覚めた?」
「ばっちりです。今日のお客様は2組でしたっけ?」
「そうそう。昨日お帰りになったお客様が使っていた部屋だから、『富士の間』と『桐の間』よ」
「部屋の準備は昨日のうちに出来てますから、いつ来られても大丈夫です」
「チェックインは最初のお客様が17時で3名様。『桐の間』ね。次が18時で4名様で『富士の間』。どちらもご家族連れで小さいお子様がいらっしゃるので気を付けてね」
「小さいお子様ですか……」
子供と聞いて私の心は曇った。
「……いい加減慣れなさい。ここはそういうところなのよ」
「頭では分かっているんですけど……」
「まあ、気持ちは分かるわ。私も最初はそうだったから。でも、早く慣れないとあなた自身が辛いだけよ」
「はい……」
こんなことを言ってくれているけど、美緒さんも気丈に振舞っているだけなのだということを知っている。彼女が小さな子供に向ける視線を見ていれば分かる。自分の子供と重ね合わせているのかもしれない……。
「いらっしゃいませ。ようこそいらっしゃいました」
17時過ぎに最初のお客様が到着された。
若いご夫婦と幼稚園くらいの女の子。後ろ髪を小さく二つ結びにしているのがとても愛らしい。
「こちらでお履き物を脱いでいただいて、そちらの下駄箱にお入れください。鍵は無くさないようにお持ちくださいね」
昔ながらの木製の下駄箱。
木札が鍵になっているタイプの銭湯とかに置いておったやつらしいけど、私は銭湯に行ったことがないので知らない。
18時。時間通りに二組目のお客様が到着された。
やんちゃそうな男の子が2人。どちらも小学校低学年といったところだろうか。私がご両親に説明している間も母親の後ろでちょろちょろと落ち着きがない。
そんなことを思っていたら、母親に怒鳴られて大人しくなった。
このお母さん、思っていたよりも怖いタイプの人だった…。
4人を『富士の間』にご案内して、今日も全ての部屋が埋まった。
ここは『宿 黄昏』。
予約困難な秘境にある温泉旅館。
名物は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます