第3話

始まりました大戦争!

て言うほど大きくないか。


転生してから約5ヶ月、俺は日々の鍛錬もあり王都全体を心の目で認識することができていた。なので事細かに指示をしながら最短で玉座へ向かわせる。


もちろん、彼らの首に奴隷の首はもうない。この取り外し方だが、結局は拘束している魔法に対して、精神の力を直接会って破壊すると言うことで解決した。


少し脱線したが、どうやらうまく玉座の間まで近づいてきてるようだ。それもそのはず、実は王国最強と言われている騎士は今王都にない。


まずこの作戦を実行に移す1ヵ月ほど前に気づいたのだが、心の瞳で外まで認識できるならその騎士がいない時に攻めればよいだけだった。


国王もおらず、ある程度の騎士が外に出ていたため鎮圧には時間がかかっている。それに獣人の身体能力は人間の比ではないので、栄養失調とは言え戦うことができていた。


そうして玉座の間にたどり着いた獣人4名がシャンデリアと一体になっている宝石に殴りかかり、数発入った段階でヒビが入る。


1番の問題が物理攻撃で破壊できないパターンだったので、どうにか外に出れそうで安心した。


それから何回か宝石を壊していると、66人の獣人を鎮圧か突破してきた騎士たちが玉座の間に入ると同時、俺を封印していた宝石が完全に壊れる。


身体能力がある獣人の中でも、特に高い4人での攻撃に10分も耐えていたこの宝石に物理攻撃が通っていたと評価するのもあれだが、まぁとりあえず出れてよかった。


俺は地面に降り立ち久しぶりに息を吸う。


そして吐く。


幸せだ!


その姿を見ていた獣人4人と騎士7人は、俺の姿を見ながら恐怖で震えていた。

いや、4人の中のひとりである青メイドは感極まったように泣いていた。


せっかくの感動が引いちゃうから…ってまぁ俺がそうさせたんだけどさ。てかなんで怖がりながら震えてるんだ?まぁいっか。


そんなことより、と俺は自分の身体に違和感に意識を向けた。

そういえば召喚されてすぐに封印されたから確認してなかったけど、これ地球時代の俺の体じゃないな。


なんか肌白だしすらっとしてるし、目の端に見える髪なんてオレンジだよ!?てかなんで気づかなかったんだ!?


1人で感動したり驚愕していると、入ってきた騎士のひとりが口を開く。


「なぜお前ら獣人が!そいつを解放するために暴動なんておこしたんだ!」


その言葉に獣人3人が言い訳がましく叫びだす。


「知らなかったんだ…!俺はただ奴隷から解放されたくて!!」

「そ、そうだ俺たちは!!」

「お、おい青猫族の!!元はと言えばお前が……!」


なんか俺、魔王だったりするのかなぁってそんな光景を見ていると、途中で青メイドがその獣人3人を地面に叩きつけ、俺の前で跪く。


俺は困惑しながらも、もう何が何やらわからないのでなりふり構わず聞いてみた。


「なんでみんな怖がってるの?」


そういえば結局対面で話すことになっちゃったな…泣き出さないでくれよ?


「あなた様が伝説の勇者様と同じ容姿の特徴をしているからです」


あれ普通に返事してくれた。…じゃなくて魔王でもなく勇者なのか。魔王が善で勇者が悪みたいな世界線?


「魔王が悪で勇者って善じゃないの?」


「強大な力は世界の敵とされており、勇者も魔王も敵とされておりますが、今ではおとぎ話に近いです」


んー、面倒になってきた。とりあえずやりたい事は山ほどある。けどこのままだと面倒事が大きすぎる気がする。


でも全員殺すのは、今湧き上がってくる力を使えば絶対にできるけど、それは流石に倫理観に反する。


「困ったなぁ…」


それを聞いた青メイドは悩みを汲み取ったのか、私が殺しましょうかとか言い出したけど、そういう話じゃない。

なんなら彼女だけだと獣人2人を相手するだけで殺されて終わるだろうし。


「もういいか…諦めよう」


とりあえず立ち去るのが1番丸い気がしてきた。生き残った獣人たちと宴する雰囲気でもないし、さっさと遠くで1人楽しむとしよう。そのためにも、どうにか王城を脱出する必要がある。


「さて、ステータスオープン。」


これはこの世界の常識らしく、ステータスオープンと言えば自分の能力や種族がわかるらしい。しかし詳細な力は無いから、ゲームとかにあるステータスとはまた意味が違う。


種族:人間

職業:勇者

能力:適応


青メイドが言ってた通りシンプルだったし、能力なんて想像の10倍シンプルだった。


まぁ確かに精神の力とか、やりたいはやろうと努力すればできていたのはこの能力のおかげだろう。


余談だがこの能力、生まれつき持っている存在はそこそこ少ないので、実は少しドキドキしていたのはここだけの話である。


「お前たち!!」


そんな事を考えていると、入って来た騎士たちが剣を抜いて周りの騎士たちを鼓舞しているようだった。


「本当は完全に人形となったお前を使う予定だったが、騎士団長補佐の私が命じる!力をつける前に殺処分だ!」


言いたい事を言って襲ってくる7人、それに掻き立てならない情報が耳に入って来た。


人形にして使う?わざわざ日本から呼んで自我を殺して兵器にするって?


殺さずに遠くて逃げるつもりだったが、普通に許せない。このままだと他の地球人にも被害がいくだろうし、ここで王城ごとぶっ壊す。

本当は最強騎士が居た時の保険と用意した切り札だったが、日本で暮らした俺では戦いへの適応が遅いかもしれないのでここで使う。


"騎士の娘、解放だ"


騒動に乗じて獣人6人と共に、地下のある場所に最強騎士娘を向かわせていた。基本的に厳重に守られているその場所だが、獣人が気配に敏感というのもあって難なく潜入できていたのは心の目で確認済みだった。


そしてこの切り札が、規模は小さいが俺と同じように封印しているヴァンパイアを解放するというものだ。


もちろん心の目で情報は確認できてたし、テレパシーで自我を呼び起こして狂信者化も済んでいる。手綱の流れない悪魔なんて切り札になり得ないからな。


それから数分後、下の方から膨大な力の波動を感じる。ちなみにそれまでは青メイドと一緒に、7人の騎士たちとチャンバラをして適応を進めていた。


なんかこの騎士レベルの剣術なら即席で可能だった。まぁ封印が解けて、能力がしっかり適応されるようになったのが大きいだろう。


今でも、心の目を使いながら効果範囲が拡張されていくのを感じる。

テレパシーなんて王城の中ならどれだけ送ろうと問題なさそうだ。


話が脱線したが、復活したヴァンパイアにテレパシーを送ってみる。


"天井抜いて、上においで"


その言葉にわかりました、と美しい女性の声と共に爆音が轟く。


そしてちょうど獣人3人が気絶していた下から、血のレーザービームが放たれていた。


ほんと念入りに狂信者にさせといてよかったぁ。。


そう思いながら、上に登って来た白髪の絶世の美女が俺の前に来て跪く。


ここで勇者め!みたいな展開が来たらどうしようかとヒヤヒヤしたが問題なしらしい。それがヴァンパイアと勇者が友好的だからなのか、狂信者だからなのかと聞かれれば後者が理由のような気もする。それにしてもこんな綺麗な人見た事ないな…。


そういえば騎士たちが静かだなと視線を向けてみると、腰を抜かしながら「血の女王と勇者が…」とか言ってるので、やっぱり彼女はかなり強い部類のようだ。もちろん今の俺より強いのは間違いないしな。


そして目の前の騎士の全身が破裂する。どうやら不快に思ったとでも感じたのか、私が処理しました!とドヤ顔を浮かべながら跪いてるのがわかる。何それギャップ萌え。


「とりあえずヴァンパイア、この王城丸ごと壊すことってできる?」


その言葉に「難なくできます」と返ってきたので、破壊活動は同じ境遇の彼女に任せて、俺は騎士娘たちに退避するように一応テレパシーして、青メイドと共に空へ逃げることにする。


俺は青メイドを担ぎ、自然に白い翼を生やして窓から飛び立つ。できる気はしたけど、なにこれすげぇ。うわっ、青メイド瞬きせずに俺の顔見てるんだけどこわぁ……!!!



こうして封印から5ヶ月が経過して、勇者と血の女王が世界に解き放たれる。

更地となった王城と血しぶきに興奮するヴァンパイアの姿は、俺から見ても世界へ宣戦布告しているように映る光景であった。


これは当分、平和な生活とか無理そうだな。


俺はそっと覚悟を決めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る