第1話

どうもこんにちは、宝石です。

言うてる場合か!!


あれから宝石に閉じ込められてすぐ、俺は身動きが取れなかったので、シャンデリアの中から玉座の間を眺めていた。

雰囲気的にどうやら、「とんでもないものを召喚しちゃったけど封印できて良かったよガハハ」って感じっぽい。


自己中心的すぎない?民主主義って大事だな、帰ったら選挙行こ…。


そんな現実逃避も交えつつ、下に見える奴らが解散するのを見届けたくらいで、俺は瞼を開ける力も無くなり暗闇に閉ざされる。


もう何が何やらわからないので、俺はとりあえず現状整理をすることにした。


①トラックに轢かれて異世界に来ました。

②知らない王国に召喚されました。

③シャンデリアに封印されました。←今ここ


召喚して即封印ってのも不快だけど、封印されてるのに現実と同じ体感速度で時間が過ぎてることも不快すぎる。

明らかに翌日誤解でした、みたいな雰囲気じゃなかったし、このままだと間違いなく精神が崩壊する。


現実に戻るとか復讐するとかは二の次、何がなんでも復活してやる…!!


そう思い至ってすぐ、俺は行動に移す。どうにか宝石を壊して外に出れないかと踏ん張ってみるが、どうにも体に力が入らない。もちろん声も出ないし、呼吸もしていないようだった。


次に異世界だし魔法が使えないかと踏ん張ってみる。しかし魔力とかオーラなんて感じたことも無いし、何も起こることなく男の夢は潰えた。


ヤバい、もう思いつかない。


幸い寝ようと思えばいつでも寝られそうで、その逆も然りだったのでそこだけは安心だった。


なんか身体の自由だけは完璧に縛られてるのに、精神だけ緩いの最悪すぎない?


そんな愚痴を浮かべつつ、俺はある考えに至る。


スタ⚪︎ドとかテレパシー、心の目とか、精神の力的な能力だったら使えたりしない?


そう思い至ったらすぐ行動に移す。もちろん魔力もオーラも使えない俺に、少し身近だったかも知れないが精神の力なんて感じ取れない。

しかしこのまま自我を保ったまま封印され続けるなんて考えられない俺は、考えられる全てのことを試し続けた。


そして4日が経過した。


普通に心の目とテレパシーが使えるようになりました。

感覚としては半径100mくらいの物体だったら生命体の位置、そして音まで感じ取れるという普通に生きていくより便利な心の目。

そしてその生命体に対して、脳内に直接考えていることを届けるテレパシーを習得した。


まぁこのテレパシーも高頻度では使えないし、なんなら何回か使うと少し寝ないと普通に疲れる。

逆に心の目は苦労なく使えるし、日が経つにつれ範囲も精度も上がってるのを肌で感じれて素晴らしい。


ちなみにこのテレパシーを試すために、なんか奴隷の獣人メイドを実験台にひたすらメッセージを送り続けた。

この獣人、青髪に猫のような耳と尻尾を持っていて、どうやら王国では獣人を迫害する文化があるのか体中傷だらけだった。


なんでそんな獣人が王城に?と俺も考えていたんだが、どうやら担当している娘がスパイと高い地位の間に出来た子だったらしく、お互いゴミ箱で管理しようみたいな感じっぽい。


それを周りの人間の会話から辿り着いた俺は、純粋に「可哀想」という素直な言葉を放ってテレパシー成功。

タイミングも言葉選びも相まって、なんか神様として崇められるようになりました。


まぁそんな事もあって4日後の今、俺は復活のためにひとつの作戦を用意した。

その名も『宗教作って国家転覆させよう』である!


詳しく説明していくと、まずこの王城には大体70人?匹?くらいの獣人が奴隷として働いている。

そしてその全員を教徒化して、玉座まで乗り込ませて解放してもらおうという作戦だ。


まぁそのためには奴隷の首輪を破壊する手段が必要なんだが、今の俺ではそよ風を作るぐらいが限界なので先の話にはなる。


それでも下準備は長ければ長いほど成功するもんだし、とりあえず青メイドの信仰度を高めつつ情報収集をして行こう。



そう決めて早2週間、なんか狂信者が生まれてしまいました。


もっと言うなら1週間の段階で、結構な信者になってくれていた。おそらく絶望の中での甘い言葉や、この世に存在しないらしいテレパシー能力というのも相まっての結果だろう。


しかし俺も封印の身。


楽しいくらい上手くいくから、本当に楽しくなって色々助言とか甘い言葉をかけまくったら自分の命をも厭わない狂信者が出来上がってしまいました。


とは言っても、言動がちょっと恐ろしいぐらいで、作戦にとってはメリットしかないので内心ガッツポーズをしている。


そしてこの2週間でもうひとつ大きな収穫があった。それはこの作戦のままだと絶対うまくいかないことがわかったのである。


最初から話していくと、青メイドに神の風格を保ちながら獣人たちだけで王城を選挙できるか聞いてみたところ、「微力ながらあなた様のお力になれるよう寝ずに鍛えているのですが、王国最強と謳われる騎士には難しいと思われます。すみませんすみませんすみま…」とのことだった。


謝罪の狂気に苛まれながらも、なんとか落ち着かせて勝てそうな存在について聞いてみるも、帝国の騎士だとか、獣人の王や側近とか、竜王なら圧勝とか何も理解できない情報が返ってきた。


ていうか、そんな王国最強の騎士ですら俺を殺さずに封印したってことは、そんなに強いか厄介な能力があるってことか?


自分の可能性へ期待に胸を膨らませていると、青メイドが新しい案を出してくる。それが、今自分がお世話させられている娘がその最強騎士の実の娘だという話だった。


その言葉を聞いた俺は、その娘を教徒にすれば勝てるんじゃね?というシンプルな結論に辿り着く。


かつての青メイドなら愛着もあっただろうが、今や俺すら気後れする狂信者も味方にいる。間違いなく堕とせる!!


そう決めた俺は、最近騎士娘と残りの獣人たちを教徒化させることに決める。


獣人それぞれに悩みがあり、それに対して適切な言葉を投げかけるというのはシミュレーションゲームをしてるようで少し楽しい。

俺は召喚される前から人の気持ちを理解するのが得意だったのもあって、4ヶ月で全員の心を掌握することに成功した。


もちろん最強騎士娘の過去も、母親がスパイと発覚した際に母親に自身を人質にされたり、父親が母親を殺す光景を目の当たりにしたり、母親がスパイという事で周りから迫害されたりと壮絶な人生を送っていた。


いかに日本が、というより俺が生まれ育った環境が恵まれていたのか気付かされた気がする。


そんな事を思いながらもしっかりと同情心を誘いながら、青メイドの助力もあって今では狂信者と言ってもいいレベルにまで到達させることができた。


さて、駒は揃ったし、そろそろ自由を手に入れるか!


俺にとって獣人の解放も、生まれながらの不幸へのレクイエムも関係ない。

全ては俺が自由になるためだけの戦いだ。


生き残ったらなんて言い訳しよう。

特に青メイドとは対面で話したくないなぁ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る