儚く散る華
徳田雄一
散る華は儚く美しい
きらめく川沿い。橋の上は風が強く吹き荒れる中、私は1人の男性を見つめていた。男性は心ここに在らずという感じで、黄昏ていた。
すると男性は橋の下を見下ろしていた。私は思わず手を握った。
「え……?」
男性は驚いたのかゆっくりと降りた。そして私を見つめて数秒後、静かに涙を零した。
「お、お兄さん」
「……い、いやごめん」
「……どうされたんですか?」
私は男性を連れて、無防備にも私の家に連れ込んでいた。男性は女性と二人きりの部屋の中に落ち着きが無くなっていたが、私を襲う素振りは見せなかった。
「おにいさん。踏み込んだ話は良い?」
「……?」
「死のうとしてた?」
「い、いや別に」
「ごめんね。死のうとしてたなら止めちゃって」
「え?」
「いや、私アフターケアとか出来ないしさ。止めるだけで酷いよね」
「いや、誰かに止めてもらいたかったんだろうなって思うから。ありがたいよ」
男性はひとつふたつと涙をこぼす。私は男性をギュッと抱き締めていた。どんな事情があるにしろ命を捨てたくなるほど嫌なことがあったんだろうなと同情していた。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいんですよ」
「……俺、仕事出来なくて」
「うん」
「上司から殴られ蹴られ……」
私は思わず男性の服を脱がせていた。背中は青あざだらけ、腹部には何度殴られたか分からないほど腫れ上がっている傷があった。
「け、警察いかなきゃじゃん!」
「ううん。もういいんです」
「え?」
「最後に心優しいお姉さんに会えたんですから」
「最後って何?」
「……見ず知らずの自分を介抱して下さりありがとうございました」
男性を止めることが出来ず、私は男性を見送ってしまっていた。
数日後の事だった。男性が私の元に訪ねてきていた。
「こんにちは」
「あれ、おにいさん」
「……先日のお礼です」
「上がってください」
「いえ、失礼します」
私は男性をまた止めず見送っていた。貰ったものを開封したのは翌日だった。
☆☆☆
翌朝のこと昨日もらったお礼の品を開けると手紙が一通挟んでいた。
【これを読んでくださりありがとうございました。私は自殺をします。貴方にあって決心が鈍ったかなと思いましたが、結局鈍ることはありませんでした。ありがとう。見ず知らずの自殺を止めてくれた心優しきお姉さん】
私は走った。色々な場所を探し回った。
そして見つけたのは以前彼と出会った橋。
「あ、お姉さん」
「や、やめて。死なないで」
「……また止めてくれるんですね」
「死なないでよ!」
「なんでですか?」
「え?」
「私は散ることでしか人の役に立たないんです」
「死ぬ事で役に立つ事なんかないよっ!!」
「……なら僕の救いは?」
「あなたは諦めすぎてる。絶対あなたに合う仕事があるからっ!!」
「……」
自殺を留まったかなと思った瞬間だった。彼は私の腹部に刃物を突き刺した。
「あなたに会えてよかった。こんな無責任な偽善が居るんだなって」
私は暗い視界の中で橋から落とされた事だけ確認できた。
「あぁ死ぬんだあ」
「僕とね」
彼は私の真横を飛んでいた。
「……なんで?」
「自殺をするつもりなのに、人を殺して自分死なないなんてありえないでしょ。豚箱に入れられるなんてごめんだ」
「私を殺す必要なんて」
覚えているか。お前は俺を虐めていた!!!
彼の顔が豹変した。とてつもない憎悪を私に向けた。その顔が過去を思い出させる。
私が中学の頃、虐めていた陰キャメガネくんだ。
今思えば全て仕組まれていたんだなと後悔する。
落ちていく中で後悔した。殺されて当たり前だった。
☆☆☆
「こりゃ見事に……」
「えぇ。バラの華……」
「あぁ」
ぐちゃぐちゃになっていた身体は偶然か、バラの華のように儚く散る命を演じていた。
儚く散る華 徳田雄一 @kumosaki
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