〈完〉【離婚前提】の嫌われ生贄姫は、魔国で愛され王妃に君臨いたしましたわ!〜
ミラ
生贄姫vsアホ魔族
生贄姫の結婚式
500歳年上の魔王様に古臭い結婚指輪をはめられた。
(この結婚指輪をいただけば、もうコッチのものですわ!)
真っ赤なウエディングドレスを身にまとったベアトリスは、魔王様に向かって宣言した。
「私は絶対に泣きませんわ!」
「「「は?」」」
魔国の国民が見守る魔王城での結婚式に、大量の「は?」が舞い降りる。
冷酷非情と名高い魔王様も、赤い瞳をぱちくりさせた。
500歳超えとは思えない魔王様、ジンは腰の抜けるような美貌だ。
麗らかで長い黒髪は滑らかで、肌ツヤ感だけ見れば人間の20代に見える。
だが顔面は美しくとも、頭には牡牛のような大きなツノが二つあり、耳先はツンと尖っていた。異形の旦那様を前に、ベアトリスは繰り返す。
「
「「「はぁあ?」」」
人間の戯言に、魔国民は怒号をあげ始める。早く人間国に帰れ!の定型句から、死ね!のハイレベル剛速球まで容赦なくベアトリスに飛んだ。
だが、ガイコツが服を着ていようが、馬顔人間の異形が叫ぼうが、魔族の有象無象の誹りなどベアトリスは怖くない。
(平気ですわ。だって私にはもうこの結婚指輪がありますもの!)
左手の古臭い結婚指輪には【初代魔王様の最強の加護】が宿っている。魔王と生贄姫の双方が離婚に合意するまで、決して外れない。
人間国から嫁ぐ生贄姫には、初代魔王様の加護が保証されるのだ。
初代魔王様の加護によって生贄姫は
魔族から肉体的に痛めつけられたり、
暴力的に殺されたりしない。
生贄姫を傷つけない。
それが人間国と魔王国間の生贄姫条約の条件だ。
(魔国にいれば、身の安全が確保できる!)
身の安全こそ、ベアトリスにとって喉から手が出るほど欲しいものだった。
「静まれ」
美貌の魔王様ジンが右手を軽く持ち上げた。するとベアトリスに向かって降り続けたけたたましい怒号が一瞬で止む。
結婚式に集まった魔国民全員がその場に片膝をつき、深く異形の頭を垂れた。多種多様な魔国民が、服従する光景にベアトリスは息を飲む。
魔族は魔王を敬愛する種族だ。魔王ジンの一言は強烈な強制力を持つ。
「人間国の生贄姫、ベアトリス。君は私のために泣けないのかい?」
「泣けませんわ、魔王様。絶対に」
魔王様がベアトリスに一歩近づいて、赤い瞳で見下した。
「涙の小瓶を満たすまで泣けば、すぐ離婚できる。一つの傷もなく帰れるよ?
今までの生贄姫はみんなそうしてきた」
『さっさと泣いて離婚しろゴラ』という魔王様からの美の圧力だ。だが、ベアトリスは一歩も引かずに睨み返した。
「涙の小瓶をいっぱいにするどころか、一滴だって泣いてあげませんわ!」
ベアトリスの小生意気な態度に、ジンは片眉を持ち上げて不満を示す。背筋の凍る冷たい視線にベアトリスは死の予感を飲み込んだ。
(大丈夫。生贄姫に危害を加えることは、たとえ魔王だってできませんわ。
魔国民全員に拒否され、嫌われ、邪魔者扱いされようが、私が泣くまで魔王様は離婚できない)
魔王ジンは生贄姫の「涙」を喉から手が出るほど欲しがっているからだ。
(私は泣きません。離婚もしません。だって、人間国に帰るわけにはいかないのですから)
人間国に帰ったら、殺されるより酷い生き地獄が待っている。ベアトリスにとっては人間国も魔国も地獄だ。
(同じ地獄なら、加護によって身の安全がある魔国の方がずっとマシですわ!)
魔王様からの冷酷な視線を受けてなお、ベアトリスは睨み返した。
「君の泣き顔を見るのが、楽しみだよ。私の幼い奥様」
「受けて立ちますわ、私の超年上の旦那様」
ベアトリスは言い負けない。魔王ジンは口端を持ち上げ、好戦的で魅惑の笑みをベアトリスに贈った。
「魔国民一同、君に涙の小瓶いっぱいまで泣いてもらえるように、力を尽くしてもてなそう。みんな、生贄姫を丁寧に泣かせるように」
ジンは魔国民に生贄姫を泣かせと、優しい口調で命令した。黒いマントを優雅に翻したジンは、結婚式を静かに出て行った。
「死ーね!」
「泣かないなら死ねぇ!!」
真っ赤なウエディングドレスを纏ったベアトリスは、魔国民一同からの死ね死ね絶叫コールに一人で向き合った。
「聞くに堪えない怒号の数々。お祝いとして嬉しく承りました!
皆さんのお声を聞いてよくわかったことを、一言だけ結婚のご挨拶に変えさせていただきますわ」
完璧に美しい礼をしたベアトリスは、不敵に品よく笑う。
「私の方が、可愛くてごめんあそばせ?」
(((何言ってんだコイツ?!)))
ニッコリ嫌味に煽り返された魔国民一同、実家に帰らないニュータイプの生贄姫に絶句した。
涙が欲しい魔王様と、
絶対泣かない生贄姫。
離婚前提、イジメ前提の
過酷な結婚生活が幕を開けた。
魔国にて与えられた自室。もとい石壁の牢獄小部屋に戻ったベアトリスは、ウエディングドレスを脱ぎ捨てる。
ベアトリスは狭い部屋を見回し、結婚式で魔族に堂々とケンカを売った女とは思えない猫なで声を出す。
「アイニャ?どこにいるのにゃー?」
人間国から連れてきた愛猫のアイニャには、にゃん語が自然と漏れ出る。
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