愛は最後には勝つといいますが、本当にそうなのでしょうか?

蒼本栗谷

幸せになれました

「早くこいつ出ていってくれないかしら」


 いつもの言葉、妹が言う言葉。


「ねえ! 食事すらまともに作れないの!?」

「そんな事言わないの。こいつだって頑張っているのですから」


 笑い声。怒鳴り声。いつも、いつもの日常。

 私も家族なのに、どうして妹と差が出ているの?


「ねえ聞いて! 私、あのル―ライト様と婚約する事になったの!! アンタなんかに会わずに済むわ!」


 どうして妹ばかり恵まれているの?

 どうして、私は、幸せになれないの?

 

「こいつを売るので、お許しください!」

「ふんっ……いいだろう」


 わたし、は――。


「おい、聞いているのか」

「――あ、なん、でしょうか……キール、様」

「……はあ、厄介なものを買ってしまったな。見目はいいが……これじゃ使用人にもなれやしない」

「もうしわけ、ございません……」

「謝るな」


 キール様が、迷惑そうに私を見てる。

 私は、家族に売られた。妹が婚約した時にお金が沢山入って、そのお金で遊びまくったけど、妹は婚約破棄されて、色んな所にお金を使ってたから、払えなくてキール様が来た、らしい。

 多分、キール様に沢山迷惑かけたから、来たんだと思う……。

 私、これからどうなるのかな。生きられるのかな。死ぬのかな。

 昔、死んだお母様が「愛は最後には勝つ。だから貴方は必ず幸せになるわ」と言ってたけど、本当にそうなのかな。

 私には、幸せになることなく、死ぬ未来しか見えないよ。


「そうだ、お前、名は?」

「……アリカ」

「そうか。アリカ、帰ったらまず俺の屋敷に相応しい姿になって貰う。拒否権はない」

「……はい」


 相応しい姿。なんだろう。どうなるのかな。

 でも、私に拒否権はない。だからどうなっても私は受け入れるしかない。

 ああ、屋敷が見えてきた。

 私の、死ぬ場所。


<>


「え~~~!! かわいい!!」

「えっ……と」

「アリカさん、次こっち着てください!」


 えっと、何が起きてるんだろう。

 確か、私はキール様の屋敷に来て、お風呂に入れられて、髪を切られて……。

 なんで、今、こうなってるのかな……?

 多分、この人はこの屋敷の使用人だと思う。

 凄く、沢山の服着せてくるけど……。 


「あの、もう、いいです……」

「駄目ですよ! こんなかわいいんです! お洒落しましょう!」

「わ、私にはそんなかわいい服、似合わないです、よ」

「そんな事ありません! はい! 次これ着ましょうね~」


 ええ……?

 本当に、何が起きてるの……。


「おい、まだか」


 扉の方からキール様の声が聞こえた。

 ど、どうしよう。


「いいですよ~!」

「あっ……」

「はぁ、メイド長、待たせすぎだ……ぞ」

「あ、あ、キール様、その、あの……」


 キール様は私の姿を見て固まってしまった。

 やっ、やっぱりこんなかわいい服、私には似合わないんだ……! 視線を下にして恥ずかしくなって涙が出そうになる。 


「……似合ってる」


 え――? 今、なんて……。

 き、聞き間違いだよね?

 顔を上げたら、キール様の顔は赤くなってた。


「でしょぉう!? こんなかわいい子、何処で拾って来たんですか?」

「まあ、そこで……」

「曖昧ですねえ。いやあ、髪を切ってみて分かりましたが、アリカさん整ってますねえ。綺麗にしたらこんっなにかわいくなって……」

「そうか」

「もっと着せ替えしていいでしょうか!?」

「え、あ、ああ、いいが……」


 キール様がメイド長さんの勢いに押されてる。

 

「満足したら、俺の元に連れてこい」

「はぁい! 承知しました! さあ! アリカさん、次の服着ますよ!」


 ……いつまで続くんだろう。試着……もう軽く10着は超えてるよ。


<>


「つ、疲れた……」


 沢山着させられた。

 今来ているのは、お嬢様が着てそうな効果そうな服。汚さないように屋敷内を歩く。

 キール様の元に行ってください。と言われたから、教えて貰った場所に向かってる。

 会ってどうするんだろう。私、これからどうなるんだろう。

 歩いて、キール様の部屋を見つけた。

 

 コンコン――。


「アリカ、です」

「入れ」


 緊張してきた。

 大丈夫、大丈夫。深呼吸をして、扉を開けた。


「き、キール様……失礼します」

「……ふむ」

「あ、あの……?」

「もっとこちらに来い。その姿をよく見せろ」

「え?」

「聞こえなかったのか。早く来い」


 姿を見せろ、見せろって、何か駄目な事しちゃったのかな。ど、どうしよう。

 でも、行かないと。大丈夫、大丈夫……。私に拒否権はないんだから。


「ど、どうぞ……」

「ふむ……それが一番似合っている」

「そ、そうですか?」

「そうだな、その見目なら俺に相応しい。俺と婚約するぞ」

「……え?」


 こ、婚約? な、なんで?

 驚いていたら、キール様が目付きをもっと悪くして言った。


「言っておくが、今後のお前の行動次第では屋敷から捨てる。それだけは忘れるな」

「は、はい……畏まりました」


 捨てる、捨てられたら、私は今後こそ死ぬ。

 それは嫌だ。せめて、せめて幸せになってから死にたい。

 頑張ろう。


<>


 それから私は必死にキール様に相応しい人になれるように頑張った。

 社交術を学んだり、食事を作ったり。精一杯頑張った。

 そしたら段々キール様が私に対して優しくなってきた。

 

「……ふぅ、今日はここまで」

「アリカさ~ん! 貴方の妹を名乗る人が門の前にいるのですが、来ていただけますか?!」

「え? は、はい……」


 なんで、こんな時に? どうして忘れかけてる今、あの子がくるの?

 やっと幸せになれたと思ったのに。

 門の前に言ったらあの子の声。


「あっ! お姉ちゃん! もー遅いよ!」

「どうして、貴方がここに?」

「お姉ちゃん聞いて? 今私の家大変な事になってるの、助けてくれない?」


 助ける。助ける? どうして私がそんな事しなきゃいけないの?


「い、嫌」

「は? 家族を見捨てるの? 人の心ないねえ!」

「それは、そっちでしょ! 私を売った癖に!」

「っるさいわね! いいから助けなさいよ!!」


 手が振り上げられて、殴られる――!

 思わず目を瞑った。でも痛みが一向に来ない。

 目を開けたら、キール様がいた。


「貴様、アリカに何をしようとした?」

「あ、貴方様は……! お姉ちゃん! 卑怯よ!」

「姉? ああ、貴様はアリカを売った奴か。何があった」


 それを聞いて私はさっきの事をキール様に教えた。


「そうか」

「そうなんですう。助けてくれますかあ?」

「ふん……奴隷としてなら助けてやる」

「――は? ど、奴隷? この私が?」

「嫌ならここから消えろ」

「っ――! 帰る! 精々頑張りなさい!」


 妹はそう吐き捨てて帰っていった。

 姿が見えなくなったあと、私は疲れでその場にへたり込んだ。


「おい、大丈夫か」

「大丈夫、です。あの、助けてくださりありがとうございます」

「……大事な、嫁だからな」

「え?」

「受け取れ、要らないなら捨てろ」


 キール様はそう言って何かの箱を渡してきた。

 なんだろうこれ……。

 箱を開けてみたらそこには指輪が入っていた。これっ、て、つまり……正式な婚約者って、事?!

 キール様を見たら顔を赤くしていた。


「……なんだ」

「ふふっ、ありがとうございます、これからもよろしくお願いします」

「……精々俺の妻として頑張れ」

「っはい!」


 愛は最後には勝つ、そして私は幸せになった。

 お母様の言葉は――間違ってなかった。

 幸せになれました。

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愛は最後には勝つといいますが、本当にそうなのでしょうか? 蒼本栗谷 @aomoto_kuriya

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