日……曜日

 ……月曜日。


 日曜日は疲れが出たのか、熱を出してしまい寝込んでいたら一日を終えてしまった。

 それでも、今日朝目が覚めた時にはすっかり調子が良くなっていたから、軽く走っていつも通り足湯に行くことにした。


 ……案の定というか、足湯には先客がいた。

 とても見知った顔の。


「おはよう、調子はどう?」

「滅茶苦茶元気。このまま凪を海に投げ飛ばせそうなくらいには」

「わきわきしながら掴みかかろうとしないで⁉ ……で、楽しかった?」


 ……みんなが知っていたお姉さんの正体を、わたしが知ったのは別れる寸前、何万人も入るようなすごく大きい建物の、関係者専用の出入り口の前だった。

 全容は分からないままだったけどれど、やっぱりお姉さんは逃亡犯だったみたいで、スーツを着た男の人やお姉さんと同じ年頃のお姉さんたちに軽く怒られながら、お互い何も言わずに手を振って別れた。


 そのままスーツの男の人、お姉さんのマネージャーさん? らしい大人がお姉さんと案内役をバトンタッチして地元の駅まで送ってくれたけれど、残念ながら帰りの電車は個室ではなかった。

 電車の中では気まずさを紛らわすために、わたしはお姉さんとどう過ごしていたのかを男の人に話したけれど、結局わたしからお姉さんのことを聞き返したりはしなかった。


「楽しかった……のかな? でも、お姉さんと一緒に過ごせて良かったのは確かかな」

「素直じゃないなあ、って言うか、普通に名前で呼びなよ? もう全部知っちゃったんでしょ?」

「いやあ……、結局、お姉さんがなにをしているのかは察しがついたけれど、お姉さんの名前も連絡先も聞いてないし」

「……は? な、なんて?」

「だってあくまでお姉さんはわたしにとってはただのお姉さんだから。臆病風とかじゃなくて、これ以上知ったらもし今度会えた時に、……今みたいに話せなくなりそうで、怖くて……」


 家に帰った後、わたしはそわそわしていたお父さんと朝から夜までずっと放心していたお母さんに、わたしは絶対にお姉さんのことを誰にも喋らず、わたしにも教えないでほしいと頼み込んだ。

 二人は納得してくれたけれど、凪は納得してくれるかな。


「……まあ、きっとあたしでも同じこと言うだろし、いいよ。凄く勿体ないけど」

「本当⁉ 凪らしくもない!」

「どういうことだこら! バラすよ⁉」

「ほう、もしバラしたらその時は海に投げ捨ててサメの餌にするよ?」

「なにを! そういう事言うと学校の皆に言いふらすからね!」

「だったら——」


 凪とわたしは、今日もいつも通り湯気が立っている足湯を他所にして、じゃれあいながら言い争いを始めたけれど、……こうして凪と過ごせるのも、お姉さんと過ごした時と同じく有限なんだ。

 だから今はこの時間を楽しもう。


 そして、いつかお姉さんに会えた時は、……もしちょっと前のわたしみたいに悩んでいる人がいたら、その時わたしは——

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足湯に凪は似合わない 音羽水来 @kawa42we

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