事故物件の中へ
「あれ、帰り道に通る路地の写真じゃない」
俺の見間違いか。ちょっと、怖がり過ぎていたのかもしれない。
「ただの都市伝説だ。気にすることは、ないよな」
俺は、ゲームの続きを始める。
『よし、周辺の写真は、これぐらいで大丈夫だろう。ストーカー殺人事件が起きた、家の中に入るか』
主人公が、家の中に入る。
空き家となっている家の中では、ぼろぼろになっており、年月が経っていることを感じた。
『たしか、事件が起きたのは二十年前。二十年で、こんなにも家が、ボロボロになるものなのか』
主人公は、そう呟くと家の玄関を上がる。
歩いていくと、所々板が古くなってきているのか、床がきしむ音が聞こえる。
『まずは、リビングから調べよう』
主人公は、過去の事件記事から、部屋の間取りが書かれた記事を開き、現在地を把握する。
『リビングは、あっちだ』
画面の左上にマップが表示された。俺は、そのマップ通りに、主人公を操作して、リビングに進む。
リビングに入ると、人が住むには、気が引けるほど、荒れ放題な惨状だった。
カーペットは、
『ここが、ストーカーされていた娘の父親が殺害された場所』
主人公が、そう呟くと、事件の概要が表示された。
『〇〇一家、ストーカー殺人事件。平和に暮らしていた夫婦と、一人娘に起きた悲惨な殺人事件とは』
「面白くなってきた。こういう物語で起きた出来事を読むのも、面白いんだよな」
俺は、〇ボタンを押して、事件の概要を読み進める。
『女子高校生だった、シオリちゃん【仮名】は、ストーカー被害に悩まされていた。父ノブヒロは、警察に通報。警察は、ストーカーをしていた、自称会社員だったヒロイチ容疑者を厳重注意。数ヶ月間は、平和な日々が続いていたという』
「なるほど。娘のストーカー被害を止めるために、父が通報したのね。そうしたら、ストーカー被害は無くなったと」
俺は、さらに事件の概要を読み進める。
『しかし、再びシオリちゃんは、誰かにつけられている、自宅のポスターにシオリちゃん宛の手紙が入っている、というストーカー被害にあう。家族は再び警察に通報』
「それで、どうなった?」
気づけば、ゲームの世界にのめり込んでいた。
俺は、さらに事件の概要を読み進める。
『しかし、通報から数日後、ヒロイチ容疑者はナイフを持って、シオリちゃんが住む家に押し入り、一家を惨殺。容疑者は、シオリちゃんの部屋で首を吊って自殺した』
「なんて、胸糞悪い事件なんだ」
『なんて、胸糞悪い事件なんだ』
俺は、背筋が伸びるように驚いた。
「はは。ゲームのキャラと同じセリフを言うとは、思わなかった」
明日、シンゴにでも話してみるか。
気分転換に、持ってきた、お茶を飲む。
「よし、続きをしよう」
ゲームの続きをプレイする。
『確か、シオリちゃんの父親が刺された場所は、この辺りだ』
主人公は、事件の被害者の一人である父親が刺された場所に、カメラを向ける。
「よく、撮る勇気があるな」
俺は、そう呟きながら、〇ボタンを押してカメラのシャッターを押した。
『あれ、こんな染み。あったか?』
主人公が、カメラから目を離すと、床に赤黒い染みがついていた。
そんな染みは、なかったぞ。
『気味が悪いな。早く次の場所に行こう』
主人公は、そう言うと、先に進んで行く。
マップの案内に従い、次の目的地に辿り着くと。そこは洗面所だった。
全体を見渡してみると、水場のせいか所々黒カビが生えている。洗面所のガラスを見ると、汚れて自分の姿が、はっきり見えない。
『ここは、シオリちゃんの母親が、殺害された場所だ』
俺は、周囲に痕跡がないかを調べるが、見つけることは、できなかった。
『警察の現場検証によると、母親はリビングで、自分の旦那が刺される場所を目撃。持って来た、お茶をこぼして、スリッパの片方をリビングに置いて行った。洗面所の扉を閉めようとするが、犯人に追いつかれて刺されたらしい』
詳細を知るほど、悲惨な出来事だな。
『この辺で、殺害されたはずだ』
主人公は、記事を見てシオリちゃんの母親が倒れていたと思われる場所を見つける。そして、カメラを構えた。
俺は、〇ボタンを押してシャッターを押した。
『あれ? こんなところに写真なんて、あったか?』
カメラから目を離すと、床に一枚の写真が落ちていた。
『制服の女の子だよな?』
その写真は、制服を着た女性の後ろ姿を撮った写真だった。
写真の奥に映っているのは、コンビニだ。この風景に、コンビニ……俺が帰り道に通る、コンビニの風景とそっくりだ。
『写真の後ろは、どうなっている?』
主人公が、写真の後ろを見る。すると、文字が書いてある。
『後ろから、見守っているよ』
俺は、背筋が凍る感覚に襲われて、後ろを振り返る。振り返る勢いで、イヤホンも外れてしまった。
「はは、コンビニの写真なんて、似ている場所は、いくらでもあるよな」
気のせいだと、思いたかった。しかし、帰り道に通る住宅街に、コンビニ。ただの偶然では、片付けられないと考える自分がいた。
「じゃじゃーん。正義のヒーロー参上!」
「世界を支配する大魔王だぞー!」
隣の部屋から、弟のユウとリンが、遊ぶ声が聞こえる。
「一人暮らしじゃないんだ。気にすることはないさ」
家には、家族がいる。いきなり後ろに不審者が現れることなんて、ないだろう。
「話を進めよう」
俺は、イヤホンを付けなおして、ゲームの続きをプレイする。
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