ゲームをプレイ

 夕飯を食べ終えた俺は、急いで寝る支度をし、コップにお茶を入れて、自分の部屋に入った。


「俺のオモチャだぞ」


「違うって、母ちゃんが、『二人で仲良く遊びなさい』って言っていた!」


 ユウとリンが、隣の部屋で遊んでいる音が聞こえる。


「イヤホンでもするか」


 耳にイヤホンを付ける。遮音性が高いイヤホンだから、周りの音が聞こえなくなった。


「シャッターか、やっぱり聞いたことがないゲームだな」


 真っ黒いパッケージに、中央にはカメラの絵が描いてある。カメラの絵の上には、白文字で『シャッター』と書かれている。


「メーカーも書いてない。インディーズゲームか?」


 なら、なおさら父さんが買わないゲームになる。父さんが、よくやるゲームは有名なメーカー物で、シリーズ化しているゲームを買う。


「そうか、職場の同僚に、貰ったのかもな」


 ゲーム好きな父さんは、職場のゲーム同好会って言うのに、参加しているらしい。そこで、貰ったのかもしれない。


「謎がわかったから、さっそくやらせてもらおう」


 俺は、ゲーム機に、そのゲームのカセットを入れた。




『シャッター』


 題名と共に、薄暗い廃墟の写真。何十年も人が住んでいないであろう、空き家だと思われる部屋を撮った写真が散りばらまかれていた。


「さすが、インディーズのホラーゲーム。恐怖感は、なかなかあるな」


 インディーズゲームの特徴は、他のゲームより独創性が高いことだろう。


 奇抜なアイディアのゲームが多い。大手メーカーで、開発されたゲームの売上を抜く時もある。


『シャッターを押す? 押さない?』


 ゲームを始めるか、始めないかだろう。だいぶ、世界観が作りこまれているな。


「シャッターを押すと」


 カメラのシャッター音が聞こえ、ゲームが始まる。


『俺は、カメラで妻と子供を撮ることが好きだった』


 ストーリーが始まったな。主人公の独り語りが始まって、話が進んで行く。


『ある日。妻と子供を連れてドライブに行ったら、一時不停止の車に横から追突された』


 なかなか、重たい話だ。


『私は、周りにいた人たちに救助されて、救急車来るまで、近くにあった草の上で寝かされた。両足が動かない。足の感覚がない折れているのか? 妻と子供は、どうなった?』


 主人公の心理描写が書かれている。プレイしている自分自身も、いたたまれない気持ちになってきた。


 このゲーム。神ゲーか?


『両手が動く。俺は、ポケットから携帯を取り出した。この悲惨な事故を記事にして、二度とこんな事故が起きてはならないと警告しよう。俺は、事故現場を撮るために、カメラのシャッターを押した』


 ストーリーの導入部分が終わった。


 その後は、妻と子供が、さっきの事故で亡くなって、主人公は自暴自棄になる過程が描かれる。


 主人公は、今まで家族の写真や青空など明るい風景を写真に撮っていた。しかし、今は廃墟の写真など、どこか暗い雰囲気を感じさせる写真を撮るようになった。


『今夜撮る場所は、二十年前に起きた、ストーカーが逆上して、一家を惨殺した事故物件の撮影だな』


 主人公は、車を降りて、家の敷地内に足を踏み入れる。


『そうだ。まずは、家の周りから写真を撮ろう。周りも不気味な雰囲気をしていた』


 主人公は、家族を撮っていたカメラを手に持ち、事故物件の周りを歩き始めた。


『ここをまず撮ろう』


 事故物件の近くにある路地の写真を撮ろうとする。辺りの家々も人が住んでいる気配が感じない。おそらく、この地域全体が、廃墟化しているのだろう。


『〇ボタンで、シャッターを押す』


 お、自分で操作できる。視点も、動かせるな。一番雰囲気がありそうなところを写真撮ろう。


 俺は、薄暗い路地に向けて、〇ボタンを押した。


 画面が一瞬白くなる。そして、撮られた写真が、画面に映し出された。


「ん? こんな路地だったか? でも、この路地どこかで見たことある」


 写真で現れた路地は、ゲーム内とは違う感じの路地だった。ゲームのバグかと思ったけど、この路地見覚えがある。


 そうだ、自分がいつも高校から、帰る時に通る路地に似ている。


「兄ちゃん、なにしているのー!?」


「うわあああ!?」


 突然、イヤホンを外されて、話しかけられた。


 心臓が止まるかと思った。ここ数ヶ月で、一番びっくりした。


「こらー! 夜中だよー! 近所に迷惑をかけるから、静かにしなさい!」


 一階にいる母さんから、怒った声が聞こえる。


「ユウとリン。早く自分の部屋の中に戻って行きな。また、お母さんに怒られれるぞ」


「うん。わかった」


「リン、戻ろう。ママが怒っちゃう」


 ユウとリンは、大人しく戻っていく。よほど、母さんを怒らせたくないらしい。


 再び隣の部屋で、話し声が聞こえ始めた。


「あ、そうだ。ゲーム」


 俺は、再びゲーム画面に目を向ける。すると、撮られていた写真はゲーム内の路地の写真だった。

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