最後の部屋

『ストーカーの撮った写真。これは、記事の大きなネタになるぞ』


 主人公は、そう言うと写真を懐に入れた。


『最後は、シオリちゃんが殺害された部屋だな。ここで、ストーカー犯は、シオリちゃんを殺害し、その部屋で首を吊り、自殺したと記事に書いてある』


 俺は、主人公を操作して、二階に続く階段を登り始める。


「プレイしている俺でも、これ以上行きたくないと思えるような雰囲気の重さ」


 このゲーム、シンゴにもやらせよう。


 この怖さを共感できる人が欲しい。


『今まで、撮って来た廃墟や事故物件の中でも、上位に入る気味の悪さだ』


 俺は、呟く主人公を操作して二階に上がらせる。


『記事によると、殺害された場所は階段を上がって、突き当りにある部屋だ』


 主人公の言葉通りに、突き当りまで移動して、そこにあった部屋の扉に手をかける。


『ここから先に進むと、これ以上前には、後戻りできません。それでも、部屋の中に入りますか? はい いいえ』


 ストーリーゲームで、よく見るメッセージだ。コレクションやサイドミッションなど、やり残しが、ないかを聞くメッセージ。


「待てよ、このゲームに、そんな要素があったか?」


 俺は、メニュー画面を開いて確認してみるが、コレクション的な要素が見当たらなかった。


「ゲーム制作者の遊び心か?」


 どこか、拭いきれない違和感があるが、ここまでゲームをプレイしたんだ。最後までやろう。


 俺は、選択肢に出て来た、『はい』を選んだ。


『ようこそ』


 不思議なメッセージが、出て来た。


 プレイヤーの恐怖を煽るための演出なのだろう。深く考え過ぎちゃいけない。


 主人公は、扉を開けて、部屋の中に入る。


『この部屋だけ、綺麗だ』


 主人公が入った部屋は、綺麗に掃除された部屋だった。まるで、さっきまで人が住んでいたような感じがする。


『机や窓際に、ほこりが積もってない』


 ただ綺麗な部屋だが、今までの荒れている家の状況を考えると、不気味さがある。


『早く写真だけ撮って、帰ろう』


 主人公は、シオリちゃんが殺害されたであろう場所にカメラを向ける。


「ここで、最後だな」


 俺は、そう呟いて、〇ボタンを押して、シャッターを押した。


『え、女性?』


 映った写真には、女性が、こちらを見て立っている写真が撮れた。


 主人公は、カメラから目を離してみると、目の前に制服を着た女性の姿があった。


『なんで、私を殺したの?』


 女子高生は、今にも泣きそうな目で、こちらを見る。


『俺が、殺した?』


『なんで、私のパパとママも殺したのよ!』


 女子高生は、一歩前に近づいて、叫ぶ。


『俺は、殺してない! 近づくな!』


 主人公は、後ろに下がろうとしたが、なにかにぶつかった。


『あなたには、言ってない』


『俺じゃない?』


 女子高生は、冷めた目で主人公の後ろを見る。


『あなたの後ろにいる人に、言っているの』


 主人公は、とっさに後ろを見ると、首を吊って、乾いた眼でこちらを見るストーカー犯の姿があった。


『うわあああ!?』


 主人公は、叫んで座り込む。


『なんで、俺のことを好きになってくれないんだ?』


 首を吊っている男は、どこで発声しているか、わからない声を出す。


『カ、カカ、カメラ!』


 ろれつが、回ってない主人公は、カメラを首吊りして、ぶら下がっている男に向ける。


 もしかしたら、何かしらのゲームオーバーが、あるかもしれない。


 カメラのシャッターを押すシーンになったら、速攻でボタンを押してシャッターを押した。


『眩しい!?』


 首吊りの男が、眩しそうに言う。


『今の内に!』


 主人公は、急いで部屋を抜けて、玄関に向かう。


『開かない!?』


 鍵は、かけてない。なのに、玄関の扉が開かなかった。


『どこ行くの?』


 階段の方から、男性の声が聞こえた。


『か、隠れないと』


 主人公は、そう言ってリビングの押し入れに入って隠れた。


『あいつが来る前に、なにか手がかりを見つけないと……そうだ! さっき撮った写真!』


 主人公は、カメラで、さっき撮った写真を確認する。


「え」


 俺は、カメラの画面を見て動きが固まってしまった。


「俺の部屋……」


 それは、部屋の入り口から首吊った男がゲームしている俺を見ているとこを撮った写真だった。

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