第五話 (下)

 サイトからトウケイの大君に連絡してトウケイから調査隊が来た。

 調査隊は村々の惨状に眉を潜めた。こんなことはこの国にあったためしはなかった。


 調査隊は魔物の襲来を免れた村に調査に行った。


 魔物が溢れる前に、お狐様の声を聞いて、伐採派に忠告しても聞き入れられず、親戚の家に避難していた一家から事情が聴取できた。


 この森の周辺の村々は神様を利用して、神様が子供のために魔物を追い払った森を、儲けのために木の切り出し場所として、森を私して、村々以外の儲け話にのった人たちからも入山料をとって一緒に大規模伐採を行ったことがわかった。


 魔物が溢れる前に、お狐様の遠吠えがした。山からこだまが返ってくるほどの声だった。それからお狐様の悲痛な泣き声がした。それから半日ほどして温度が急激に下がり魔物が溢れてきたとの証言もあった。


 その村の老人が、子供の頃お狐様と遊んだと調査隊に話をしてくれた。

 お狐様という子供と遊ぶのが好きな神様がいることがわかった。


 老人は懐かしそうに話をしてくれた。お狐様が魔物から村を守ってくれたと言っていた。

 子供が森で安全に遊べるように、子供が森から恵みをもらって家に恵みを持って帰って村人に森の恵みが行き渡るように魔物を追い払ったのに、村人たちは金儲けのために森を切り開き、全ての木を森が消滅するまで切り出そうとした。自分たちの欲望のためにお狐様を利用した。お狐様の気持ちを踏み躙って森を潰そうとしたと力を込めて怒っていた。


 調査隊はその神様が辿ったと思われる村々を巡って調査した。


 その神様は魔物を追い払って、子供が安心して遊べるようにして、子供たちと楽しく遊ぶのが好きな神様だとわかった。また村人たちと親しく付き合って村人の喜びと悲しみに付き合ってくれる神様だとわかった。あまりにも悲しいことが起こると大泣きして何処かに行ってしまうこともわかった。


 調査した村々には、お狐様を慕って社が作られていた。お狐様が寄ったと思われないところにも社があった。調べるとお狐様がいた村の出身者がお狐様を慕って社を作ったことがわかった。


 調査隊の隊員が呟いた。

 「あの村々は自業自得だな」

 「ああ」

 調査報告書は、その線でまとめられた。

 最後に書き加えられた。

 森を利用するということは森の恵みをいただくということだ。恵みをくれる森と共に生きていく、そういう利用が求められる。森を破壊することは神が許さないだろう。

 今回の伐採部分には早急に植林を行うべきである。


 報告書が提出されて大君は悩んだ。お狐様のことを公表すべきか否か。悩みに悩んで公表しないことにした。自然に人々に知られる方がお狐様の気持ちに沿うだろうと思った。公表した報告書の趣旨は次の通りであった。


 村々の人々が欲に駆られて森を伐採。そのため住処を脅かされた魔物が襲来し、原因となった村々を襲撃した。

 最後の部分は大君に提出された報告書の通りとした。

 この報告書によって植林という言葉をこの国の多くの人が初めて知った。


 大君は、この事件の発端となった森の伐採箇所に植林を行った。

 大君は新たに法律を制定した。

 木を切る者は、切った木と同じ種類の木を切った本数植林し、生育させなければならない。大規模伐採は行ってはならない。常に森を維持しなければならない。


 そして、お狐様が将来寄ってくれるように大君の屋敷の近くに広い土地を確保した。都がサイトからトウケイに移ったばかりなのが幸いして、整地したばかりの広い土地が確保できた。

 その土地に元々生えていた種類の木を植林した。埋め立てた池と小川は掘り返した。幸い泉は飲料水にしようと保護してあった。山からの伏流水と見えて木を切っても泉は枯れていなかった。泉から水が流れ、また池の底からも湧水しすぐに池と小川が復活した。

 またお狐様が来やすいように、トウケイの近くの森跡から細長く土地を確保して木を植えた。森跡にももちろん木を植えた。

 それらの土地の木は一切伐採してはならないと御触れをだした。


 大君は気づいた。このトウケイも森を切り払って作ったのではないか。せめて罪滅ぼしにと大君は法律公布前に大規模伐採されて荒地になっているところを見つけては植林した。

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