第五話 (中)
何日かして大人が10人くらい来た。
パンパンと手を叩いてお辞儀をして代表らしい人が話し始めた。
「お狐様、どうかこの森を魔物からお守りください。私どもは森があるのに魔物のため木を切り出せず長年困っておりました。どうぞよろしくお願いいたします」
あたしは安全な森に子供が遊びに来てくれればいいのに、そんなお願いをされても困る。あたしは返事はしなかった。
お供物を置いていったがあたしは手を付けなかった。
その次の日から村人は大勢で木を切り出した。何日かすると村人以外の人も木を切りに来た。
あたしが子供たちに飲んでもらおうと綺麗にした泉も踏み潰した。あたしのねぐらも踏み潰した。傍にあった泉も踏み潰した。
子供は遊びに来ない。あたしが好きな木の実がなる木も切ってしまった。
森はあっという間に二周りほど小さくなってしまった。
このままでは、森の小動物も絶えてしまう。森がなくなってしまう。子供の遊び場にしようとしても森がない。
あたしは森を出ていくことにした。森を破壊する人たちは許せない。
あたしは森と山に向かって大きな声で吠えた。
「アオーーン、アオーーン、アオーーン」
森に遠吠えが広がり、山からはこだまが帰ってくる。
あたしにはわかる。魔物除けが消えていく。あたしは子供と遊べると思って、嬉しくって森を、山を歩いて魔物よけをしたのに。
この森から、森に続く山から魔物除けが消えた。
あたしは悲しくなった。
「アオーン、アオーン、アオーン、アオーン」
あたしはひどく泣いた。そして森を去った。
あたしは伐採に参加しなかった村の周りを回った。あたしにはわかる。あたしと遊んだ子がいる村だ。本当に小さなあたしのための社がある。この子達は守らなくては。他は知らないよう。アウ、アウ。アウ、アウ。泣きながら村の周りを回った。
山の向こうから魔物の気配がしてきた。
「おい、なんだ今の遠吠えは」
「なんだか狐が怒っているみたいだったな」
「まあいいや、もっと木を切ろう。この森の木を全部切れば大儲けだ。遊んで暮らせるぞ」
近くの村から男が急いでやって来た。
「もうやめろ。お狐様が怒っている。それでなんだかお狐様がひどく泣いていたようだ。なにか間違ったのではないか」
「馬鹿なことをいうな。狐なんぞは利用すればいいんだ。お狐様と煽てたからうまく利用できたろう」
「お狐様は狐ではない。利用するものではない。今度の木を切る話は間違いだった。俺の親戚の話では、お狐様は子供と楽しく遊んでくれたそうだ。お狐様も嬉しそうで子供たちも楽しかったそうだ」
「またお前はそんなことをいう。お前だけだ反対したのは。もういい。儲け話にのらなかったからそんなことを言っているんだろう。とっとと帰れ」
「ああ帰る」
男は家に帰って、急いで家族を連れて村をいくつか越えて親戚の家を目指して避難していった。
それから半日後、森の温度が急に下がった。魔物が溢れてきた。木を切っていた男たちは最初に全滅した。
木を切った村をいくつか越えた先の村の人々は、お狐様の遠吠えと泣き声を聞いた。
その村は木を切って売れば儲かる。入山料を払えば木を切らせると言われたが、森が消えてしまうと反対した。
村人にお狐様がいた村の出身者がいて、森でお狐様と楽しく遊んだと良く話をしてくれていた。そして、小さな社を作って祀っていた。村人も自然と村の神様としてお参りしていた。そのためお狐様が遊ぶ森がなくなる今回の伐採には反対して参加していなかった。
村人の森のそばの親戚が一家で駆け込んできて、お狐様が怒って、悲しんでいる、何か大変なことが起こると叫んだ。村人は大急ぎで家に閉じこもり、お狐様お守りくださいと祈った。
魔物は森の周辺の村々を蹂躙した。不思議なことに木を切らなかった村を魔物は襲わなかった。
少し離れた村がサイトへ早馬を出した。サイトから兵が来て魔物に対峙した。兵は大変な損失を出し、やっと魔物を森の中に追い返した。魔物の大半は山に戻っていったようだ。
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