第六話

 あたしは行商人さんから教わったサイトという街を迂回して先に進んだ。

 あたしは悲しかった。この頃悪い人ばっかりだ。泣きながら歩った。

 ずいぶんたくさん歩いた。


 小ぶりな森があった。泉もあったので少し休憩する。

 子供が何人か遊びに来た。鞠を投げたりして遊んでいる。いいなあ。遊びたい。

 鞠がコロコロとあたしの方に転がって来た。あたしは頭でそっと鞠を押し返してやった。鞠は凸凹していたので思った方に転がらない。しょうがないからもう一度子供の方に押し返した。今度も変な方向に転がった。

 子供達が笑った。


 「お狐さん。あそぼ」

 あたしは嬉しい。この声を聞いたのはだいぶ前だ。やっと聞けた。

 鞠を足で押したり、頭で押したりして子供達と遊んだ。楽しい。子供が喜んでいる。嬉しい。


 小さな村の方から子供を呼ぶ声が聞こえる。

 「お母さんだ。お狐さん、またね」

 子供が帰って行く。夕方になっていた。


 この小さな森にはあたしが食べられるような木の実がない。あたしは少し歩いて木の実のある森を見つけて夕食にした。久しぶりに泣かずに寝られた。

 朝になってあたしは木の実を食べて、子供と遊んだ森に行ってみた。まだ子供は来ていなかった。


 すこし日が高くなると子供たちがやってきた。今日は赤ちゃんをおんぶしている子がいる。あたしも入ってみんなで遊んだ。楽しい。子供はお昼に帰っていく。あたしも木の実がある森へ行って木の実を食べた。午後はお昼寝してから来るのだろう。お昼からすこしたってからやってきた。そして夕方、お母さんが呼ぶまで遊んでいった。あたしは嬉しい。子供が楽しく遊んでいる。

 しばらくそうやって遊んだ。


 けれどこの周りの森は小さい。あたしの食べる木の実がなくなってきた。あたしだけで食べてしまうわけにはいかない。他の小動物もいる。

 あたしはここにいたいけど、どうしょうもない。


 子供が遊びに来たのであたしは木の実がなくなってきたのでここにいられなくなったと子供たちに話した。子供たちにあたしの声が聞こえたようだ。

 子供たちは泣いた。あたしにすがってきた。


 赤ちゃんをおんぶしている女の子が、お腹が空いてしまう。しょうがないよと泣きながら言ってくれた。あたしはみんなをペロペロ舐めて、幸せになるんだよと祈ってその村を後にした。子供たちは、お狐さん、ありがとうといつまでも言ってくれた。


 悲しいことがなくお別れするのは初めてかもしれない。でも別れはつらい。あたしは泣いた。アウ、アウ、アウ、アウ。みんなのことは忘れないよ。


 それからあたしは森を探して歩いた。時々荷車の人がお狐さん乗っていくかいと声をかけてくれた。あたしを知っているみたいだ。どうしてだろう。そういう人はなんとなく懐かしい気がした。あたしと遊んだ子供の末かも知れない。あたしは嬉しくなった。うんと言って荷車に乗った。


 トウケイという新しい街があったが、あたしは街には行かない。遠回りした。トウケイの街の周りは大規模に森を伐採した跡があちこちにあった。街を作るときに木を切ったのかもしれない。でもその森の跡地に人が一生懸命ちいさな木を植えていた。何十年かすれば元の森になるかもしれない。

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