第四話 (上)

 今度の森は大きい。あたしはまず木の実を食べた。お腹が空いていた。それから森の周りを一周した。魔物はいない。

 近くの山に魔物の気配がする。明日行ってみよう。疲れていたので寝てしまった。

 朝日に照れされて、眩しくて起きた。泉があったので水を飲んだ。美味しい。だけど小さな泉だった。でもあたしだけなら十分だ。


 木の実があると食べながら山へ向かう。魔物が逃げて行く。あたしは前にやったように、かなり広く山を歩いた。魔物の痕跡も前と同じようにあった。昨日までいたような痕跡もあった。山を越えてこないとわかるまで歩き回った。あたしが歩いたところは魔物が寄り付かないみたい。だから歩く。


 もういいかなと思って森へ戻る途中、昨日の魔物にやられたのだろうか。男の人が一人、脚を押さえ唸っていた。


 あたしは水っぽい果物をとって男の人のそばに置いた。気がついたみたいだ。果物を男の人の方に押しやる。男の人は果物を手に取った。少ないかな。もう一つとってこよう。もう一つとって来た。男の人は果物を食べ終わっていた。果物を男の人のほうに押しやる。

 「ありがとう」

 お礼を言われた。あたしは嬉しくなった。


 脚に怪我をしているみたいだ。あたしは、草をとって来た。なんとなくこの草が傷にいいような気がした。

 「すまない」

 男の人はそう言って草を揉んで傷に押し当てた。もう少し草をとってこよう。とって来て男の人に押しやった。男の人は草を揉んで傷に当て布で巻いて縛った。


 「これで大丈夫だ。森に山菜をとりに来たのだが迷って山に入ってしまって魔物に襲われた。だけど急に魔物が何かに怯えて逃げて行ったので助かった。よし、歩けそうだ」


 こっちだよ。先に行って振り返る。そうすると人はついてくるということを覚えたからね。

 「そうかい、案内してくれるのかい」

 あたしは男の人を森を通って村の方に案内した。途中で知っているところに出たみたいだ。

 「ありがとうよ。お狐様」

 男の人は村の方へ帰って行った。


 お狐様?知っているのだろうか。まあいいか。あたしは村に近いところを寝ぐらとして寝た。


 翌朝、お狐さんと呼ぶ声が森の入り口でする。行ってみる。

 村の子だろう。何人かいた。

 「お父が昨日のお礼だって」

 竹の皮に包んだおにぎりを置いていった。

 ありがとう。後で遊びにおいで。


 子供が帰っていく。朝食前なのかもしれないね。あたしはおにぎりをいただいた。美味しかった。作りたてのようだった。

 あたしは嬉しい。お礼をしてくれた男の人の気持ちが嬉しい。


 お腹がいっぱいになったので森の中を調べて回った。小川はないけど森は豊かだった。泉も幾つかあった。よかった。


 翌日、男の人たちが何人かで森に来た。山菜取りかもしれない。子供の仕事ではと思ったが昨日のことを思い出した。きっと魔物が出るかもしれないと思っているに違いない。

 教えてやりたいけど、あたし口がきけない。心の中で言うだけ。

 魔物は出ないよ。追い払ったよ。


 あたしと仲が良かった女の子たちはあたしの言うことをなんとなくわかってくれたけどここにはいない。

 森に魔物がでると思ったら子供も遊びに来ない。困った。


 男の人たちの後をついていく。山菜を取らない。ただ森の奥に進んでいく。

 「おい。全く魔物の気配がないな」

 「ああ、この辺まで来ると魔物の気配があって俺たちはすぐ逃げたが」

 「噂は本当かもしれないな」

 「昨日怪我した友達が、魔物が何かに怯えて逃げたと言っていた」

 「数日あけてもう一度来てみよう。そうすればはっきりするだろう」

 男の人たちが帰っていく。


 あたしは魔物が絶対来ないように、数日森の中を歩き回った。あたしの好きな木の実も見つけた。美味しい果実もあった。山菜もあちこちにある。美味しい。子供に教えたい。


 次の日また男の人たちが森の奥に歩いて行った。やっぱり魔物の気配はないと言いながら戻って行った。


 何日かして、怪我をした男の人も加わって森の奥に行く。あたしは少し離れてついていく。

 「魔物はいないな」

 「ああ、お狐様がいたところは魔物がいなくなるという噂通りだ」

 「俺を襲った魔物が怯えて逃げて行ったのもお狐様の力だったんだろう。お狐様に聞いてみるか。返事してくれそうだ」

 「まさか」

 「いや、お狐様は俺に果物や傷に効く草を持って来てくれたが、こちらのことをよくわかっているみたいだったよ」

 「そうか、ダメ元で顔見知りのお前が聞いてみろよ」

 「わかった」


 「お狐様、魔物はもう出ないかい?」

 あたしに聞いて来た。あたしは嬉しい。返事をしよう。そうだと言う気持ちを込めて鳴いた。

 「アオーン」

 「おい、返事をしてくれた」

 「そうだな」


 「お狐様、子供が森に来ても大丈夫かい?」

 あたしは嬉しい。子供が来る。嬉しくて顔を見せて返事をした。

 「アオーン」


 「おお、お狐様だ。ありがたい。これでこれから森の恵は子供に任せられる」

 大人たちは口々にお礼を言って帰って行った。

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