第三話 (下)

 月日が経ち、おじいさんが、ついでおばあさんが亡くなった。あたしはそのたびに女の子に一晩ついていた。


 女の子はお婿さんと子供が二人いるからね。おじいさん、おばあさんが亡くなった後もすぐに働き始めた。あたしも畑仕事を前のように手伝った。


 子供もだんだん大きくなって来た。時々森に遊びに来たり、木の実を拾いに来たりした。可愛い子達だ。


 そうやって何年も暮らした。女の子が産んだ子は近くの村に嫁さんに行った。それから数年して男の子はお嫁さんをもらった。


 あたしの友達の女の子は、あまり働かなくても良くなった。森に来て、陽だまりであたしと良くお話していくようになった。

 お嫁に行った子が赤ちゃんを連れてあたしの友達のうちにやって来たりした。森にも顔を出してくれた。

 あたしの友達の男の子の嫁さんにも赤ちゃんが無事産まれた。嬉しい。お友達と喜んだ。


 そのころからあたしの友達は歩くのが辛くなって来た。だからあたしが友達の家に行き、陽当たりの良い場所でお話をした。


 友達の婿さんが突然亡くなった。あたしは一晩友達についていた。友達も命の力が減って来た。あたしにはわかる。だからあたしは毎日友達の家に行ってお話した。


 ある夜、友達が呼んでいるのがわかった。急いで森から友達の家に行った。お嫁さんに行った子も帰って来ていた。


 友達が呼んでいる。枕元に行った。

 「お狐さん。いままで助けてくれて遊んでくれて、友達になってくれてありがとう。先に行くね」

 友達はそう言うと亡くなってしまった。


 あたしは友達の顔を舐めた。もう生き返らない。

 「アウ、アウ、アウ、アウ」

 あたしは泣いた。

 啜り泣く声があちこちから聞こえた。


 しばらくそばにいて、あたしは森に帰った。森の奥で泣いた。

 「アオーン、アオーン、アオーン、アオーン」

 一晩中泣いた。


 次の日、森の入り口でお狐様と呼ぶ声がした。

 行ってみると友達の子だ。

 「葬式に出て下さい」

 そう頼まれた。

 この村の人は皆あたしを知っているから出ることにした。


 葬式が終わって墓地にみんなで行く。

 木の箱に入れた友達を穴に葬った。みんなですこしずつ土をかけるらしい。あたしもかけた。

 葬って墓に一礼して皆帰って行く。あたしも森に帰った。


 夜になって、女の子が好きだった花を森で摘んで、咥えて行ってお墓にそなえた。

 亡くなった友達と出会った頃から今までの事を墓の前で思い出した。また少し泣いた。


 そしてあたしは、初めて気がついた。友達は子供から成長し大人になってそしてだんだん顔に皺が増え歳をとったが、あたしは歳を取らなかった。

 あたしはこの森を去ることにした。お友達にそう報告した。


 このまま出よう。決心が鈍らないうちに。

 あたしは村人にお別れを言った。

 「アオーーン」


 夜の道を行くと友達の子がお嫁にいった家があった。友達の子だ。なんとなくこの家にいるというのがわかる。戸口で小さな声でお別れを言った。

 「アオーン」


 あたしは夜の道を歩いて行く。小さな森があった。休もう。

 朝まで寝てしまった。木の実は少ししかなかった。友達の村の森は豊かだった。でももう帰れない。あたしは歳を取らないので、あたしが知っている人が次々と亡くなってしまうのがわかったから。


 あたしは先に進む。後ろから荷車が追いついて来た。

 「乗って行くかい」

 村にときどき顔を出していた行商人の人だ。親の代からの顔見知りだ。

 うん

 そう返事をした。荷物の間を開けて乗せてくれた。


 いくつか村に立ち寄った。でも森が小さい。行商人の人もわかったみたい。

 「ここは森が小さい。この次の次の村の手前に大きな森がある。そこに行ってみよう」

 行商人は次の村で商売をして、それから少し行って大きな森に寄ってくれた。この森がいいみたい。村も少し先にあると言う。

 あたしは、お礼を行って降りた。


 「村のみんながお狐様に感謝しようと社を作っていたよ」

 あたしは村の人の気持ちが嬉しかった。行商人もわかって乗せて来てくれた。嬉しい。

 もう一度お礼を言った。

 「元気でな。親父はまだ生きてるぜ。なかなかくたばらない。アハハ」

 行商人はそう言うと荷車と行ってしまった。

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