第三話 (中)

 木の実がよくなる季節になった。あたしの好きな木の実も今年は良くなった。

 「お狐さん」

 声が聞こえた。あたしは急いで声のした方へ行く。女の子だ。木の実を拾いに来たと言っている。


 一緒に行こう。女の子は子供の時あたしが教えた木の実の落ちている場所を覚えていてくれた。二人であちこち行って木の実を拾った。


 それから陽だまりに座って女の子がお話をしてくれた。

 お婿さんのこと、畑仕事のこと、共同井戸の井戸端会議のことなど、たくさん話してくれた。


 日が少し傾いた。

 「帰らなくちゃ」

 ちょっと気持ち悪いと言っている。


 ううん、お腹に子供がいるよ。

 あたしは、女の子のお腹にそっと前足を当てた。女の子はわかってくれたみたいだ。

 「赤ちゃん?」

 そうだよ。体に気をつけるんだよ。


 女の子は嬉しそうに歩いていく。木の実が重そうだ。あたしが袋の下に潜って持ち上げてやった。

 「ありがとう。軽くなった」

 あたしは嬉しい。誰かのためになってお礼を言われると嬉しい。

 村の中の女の子の家まで袋を一緒に運んだ。

 大事にするんだよ。


 村の人に見られたけど、もうみんな知っているみたい。森で遊んでいた子どもたちが大人になっている。あたしは一緒には遊ばなかったけど、なんとなく見知っているんだろう。


 女の子の家の中でお婿さんが、おじいさん、おばあさんが喜んでいる声がする。女の子はお狐さんに教えてもらったって言っている。

 嬉しい。森へ帰る。


 次の日からあたしは女の子の畑仕事の手伝いをすることにした。穴掘りぐらいしか出来ないけど、土の中の芋を掘り出したりした。女の子と話しながら仕事をするのは楽しい。隣に小さい子が働いていたらそちらも手伝った。お礼を言われた。


 そうして女の子はだんだんお腹が大きくなった。畑仕事にも来られなくなった。でも家の前に行ってみると元気な声がする。村人が声をかけてくれるようになった。子供から手伝ってもらったって聞いたのだろう。


 ある夜、女の子の家がざわついていた。行ってみる。しばらくすると元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえた。生まれたみたいだ。女の子はどうだろう。


 お婿さんが出てきた。

 「お狐様。おかげさまで無事に生まれました。赤ちゃんを見てください」

 中に招じ入れられた。


 女の子が寝ている。ニコニコしている。お産の疲れはあるけど元気そうだ。

 あたしは女の子の額に前足を乗せた。女の子の命のちからは充実している。大丈夫だ。早く元気になあれ。赤ちゃんの額に前足を乗せた。こちらも若々しい命のちからに満ちている。健やかに育ってね。あたしは二人のために祈った。


 おばあさんがおにぎりを持ってきてくれた。あたしは一つもらって食べて山に帰った。足取りも軽い。

 そうか、この国に来て初めて無事なお産に立ち会ったのだね。命が生まれるのがこんなにうれしいものとは初めて知った。


 それからしばらく女の子は家から出てこなかったけど、暖かな日に赤ちゃんをおんぶして森まできてくれた。

 「お狐さん。赤ちゃんを見せに来た」


 もちろん飛んでいった。赤ちゃんは小さい。女の子だ。元気そうだ。陽だまりに座ってお話してくれた。赤ちゃんのこと、おじいさん、おばあさんのこと、お婿さんのこと、色々話してくれた。女の子の話を聞くのは楽しい。


 ああ、風が出てきた。寒くなる前にお帰り。

 「また来るね。畑に出られるようになったら手伝ってね」

 うん。手伝うよう。

 あたしは嬉しい。あたしを頼ってくれるのが嬉しい。


 それから女の子がお婿さんと畑仕事をしに畑に来ると、赤ちゃんをかごにいれて置いておくから、あたしがあやしたりした。


 そうして何年か経った。

 女の子のおなかが大きくなって赤ちゃんができた。

 今度は男の子だった。お婿さんと、おじいさん、お婆さんは、大喜びだ。

 女の子と赤ちゃんは大丈夫だった。良かった。

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