第3話

私を、描きたいと言われた。

そう言った彼女の目は真剣で、真実で、

冗談で言ったのではないと

信じられるものだった。


彼女は私の返事に対して、

大きな笑顔で答えた。

誰が見ても最高に喜んでると

わかる表情だった。

彼女は私の手を取り、

近くのベンチに誘導する。

彼女の手は少し温かかった。

「ほらほら〜ここに座って座って〜」

ベンチをペシペシ叩きながら

テンション高く彼女は言う。

そして私が言われるがまま座ると

彼女はすぐさま新しい紙をめくり、

白い真っ白な世界に私の一部を描き出した。


何か話した方がいいだろうか、

なんで平日の昼にこんなところにいるの?

いや、これはまさに

野暮な質問というやつであろう。

もし私が質問される側なら気分は良くない。

もっと心地よい質問をしたい、

年齢は?どこに住んでるの?

いや、

ここらの質問は個人情報を探っているようで

怪しまれるかもしれない。

そうやって思案を続けるうちに

10分ほどがたった。

沈黙は、嫌いだ、、、


シャッ、シャッ、彼女の描く音は心地いい。

春の風が私の頬をなぞる。

彼女の筆は私の輪郭をなぞる。

久しぶりに穏やかな気持ちになった気がした。


「ね、名前なんていうの?」

彼女は一心不乱に絵を描きながら、

そう問いかける。

そうだ、名前だ。まずは名前を聞く。

コミュニケーションの基本じゃないか。

忘れていた。


「さくら、だよ」

私はそう答えた。


「さくらちゃん、今の季節にぴったりだね!

とても素敵!」

彼女は嬉しそうに私を褒める。


「いや、でも、

私の苗字は葉山なのつまり葉桜、

満開に咲き誇っている桜って意味じゃないの」

私はたくさんある自分の嫌いなところのうちの一つを彼女に説明する。


「え〜!嬉しい!私の名前と相性ピッタリだ」


「え、」

相性がピッタリ?どういうことだ、とりあえず

褒めておこうと思って言っているだけなのではないかそう私は考える。


そんな私に彼女は続ける。

「私の名前はハルカ、春が過ぎると書いて春過

まさに葉桜と相性抜群だよ」

ハルカは笑顔でそう言った。

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