冬空のオリオン
星のカンサツ会は、ヒロが家の手伝いで来れなくなった。まんじゅう屋の年末は正月のお餅づくりの準備で忙しい。
アッキは当日になって熱が出たって連絡があった。でも多分ギターの練習だと思う。
結局、ボクとテルと女子たち四人と、マツムラさんのお母さんが付き添いで来ることになった。親同士の話し合いでそうなったらしい。
「晴れて良かったね」
「雲ほとんどないもんね」
「テルテルボウズのおかげだね」
オダさんがテルを見てにんまりした。
テルは聞いていない。
「昨日作って窓んところに吊るしたの」
「メグ、作ったのー?」
「うん」
ホシダさんに聞かれてオダさんがうれしそうだ。
「晴れて良かったね、テルテルボウズちゃん」
オダさんがテルの顔をのぞき込んだ。
「え、なに?」
テルはきょとんとした。
「テルテルボウズちゃん」
「テルテルボウズって言うな!」
「だったら、テルボウズ!」
「オダブツ、てめー」
「キャアー」
オダさんが走って逃げだし、テルが追っかけた。
「あの二人、またケンカしてる」
「ケンカじゃないよ」
「え、ケンカじゃないの?」
「仲がいいの」
ボクのひとりごとにマツムラさんが答えた。
あ、そう。あれが仲いいのか。
そうなんだ。
「ほら、あれがオリオン座」
ボクは南の空を指さした。
「どれ」
「あれだよ」
「どれどれ」
「あそこ、斜めに三ツ星が並んでるでしょ」
「え、あ、あったあった」
「あ、ホントだ」
「わかった、わかった」
「タカシくん、すごーい。すぐ見つけた」
今日のために図書館で予習してきたもん。
オリオン座は見つけやすい。
「それと、あれがベテルギウスで」
「え、どれ」
「三ツ星の左上の赤いやつ」
「ホントだ。赤ーい」
「三ツ星はさんで反対側の青白いのわかる?」
「どれ」
「ほら、あれ」
「あ、あったあった」
「あれがリゲル」
「大きいね」
「二つとも一等星だよ」
「本当につづみの形だね」
みんなスケッチしたり、気づいたことをノートにメモした。
カンサツにもう飽きたテルが、ブランコで立ちこぎを始めた。
オダさんが負けじととなりのブランコで立ちこぎを始める。
「オレの方がたーかーいー」
「待ってろ、ウーン」
二人が競うようにブランコをこぐ。
「ケツ重いから上がんないだろ」
「フン、短い足でよくこいでるね」
「短くないもーん」
「レディに失礼よ」
「うるせー」
「そういうとこがホントきらい」
「ごめんねーこんな男なんですー」
「ホント、やれやれだわ」
何だかんだ二人でキャッキャ言ってる。
「タカシ!あとでスケッチ見せてな。写すから」
本当やれやれかも知れない。
でも憎めないのよね、テルって。
ブランコの音が夜の公園に響いている。
外灯の下ではマツムラさんのお母さん、ホシダさん、イケガミさんの三人が、アイドルの話題で楽しげに話し込んでいる。
気づけばジャングルジムにもたれかかって、マツムラさんと二人並んで夜空を見上げていた。
「赤のベテルギウスの、左側の明るい二つの星わかる?」
「えー、どれ」
「あれと、あれ」
マツムラさんの視線に合わせて夜空を指さす。
「あ、わかった。うん、二つ」
「明るい方がシリウスで、もうひとつがプロキオン」
「タカシくん、よく知ってるね」
「プロキオンはおおいぬ座、シリウスはこいぬ座」
「ふふ、こいぬ座って名前がかわいいー」
「オリオンは勇敢な狩人で二匹の猟犬を連れてるんだ」
「へー、ワンちゃんと狩りしてるんだ、へー」
「その三つの星を結んで、冬の大三角って言うんだよ」
ちょっと自慢しすぎちゃったかな。
今日のためにいっぱい覚えてきた。
星座の名前にはギリシャ神話が関係しているので、いろいろ物語があって面白い。
夜空を見上げていると、星空のステージにいろんな登場人物たちが現れてくる。
そんな空想が次から次に浮かんでくるので、見ていて飽きない。
「あのさ、明日ここで、宵の明星一緒に見ない?」
一番好きな星をマツムラさんと見たいと思った。
一緒に星を見ていたら、思わずそう言っていた。
自分で自分にビックリだ。
「え、明日?」
「うん、明日」
「明日はピアノ教室があるの」
「終わるの何時?」
「五時半」
「じゃ、ちょうど見える時間だ」
「門限六時だもん」
「遅れないようにする」
「ホント?」
「うん、絶対守る」
「えー、どうしよう」
「一緒に見ようよ」
「うーん、じゃあ、わかった」
マツムラさんがOKしてくれた。
まさかそうなるとは思っていなかった。
勇気を出して良かったと思った。
黒一色の暗幕が張りめぐらされた星たちの舞台。
月がそれをしずやかに照らしだす。
おおいぬとこいぬを従えたオリオンが、こん棒とライオンの毛皮を持った両手を広げ、三ツ星の帯をきりりと締めて、舞台の真ん中からタカシたちを見下ろしていた。
次回 最終話
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