プラタナスの道

「タカシくんって、どんな子?」

 ママに聞かれて困った。



「ちゃんと渡せた?」

 ピアノ教室から家に帰るなり、ママが聞いてきた。

「うん、渡したよ」

「さっきねえ、タカシくんのお母さんから電話があったよ」

「え?なんて?」

「うん、お礼のお電話だったけど」

「ふーん」


「クミさあ、クラスに好きな男の子いるの?」

「えっ?」


 ママ、いきなりなんでそんなこと聞くのかな。


「クミ、幼稚園の時、ユウキくんにぞっこんだったじゃない?」

「そうだったかな。もう忘れた」


 本当は覚えてる。

 でもユウキくんは小学校に入る前に引っ越していった。


「今は好きな子いるの?」

「……」

「タカシくんってさあ、クミのこと、好きなんじゃない?」

「え、なんでそんなこと言うの、ママ」

「だって、ママそう思うんだ」

「そんなの、知らないよ」

「ねえねえ、タカシくんって、どんな子?」


 ママにそう聞かれて、答えられなかった。


 タカシくんとは五年で初めて同じクラスになった。

 二組はサクライ先生、いえニシモト先生のおかげだと思うけど、男子も女子も仲が良くって大好きなクラス。

 特に嫌いな子もいなくって、みんなそれぞれ個性がある。


 二組の男子。

 テルはおもしろいけどスカートめくりは絶対やめて欲しい。ヒロは歌が上手だけど時々いじわるする。アッキは大人っぽくって謎。ミッタンは人気者だけど、がさつなとこがちょっと苦手。コバヤシくんは、いつもみんなに話題を提供してくれる。


 で、タカシくんかぁ。


「タカシくんさあ、クミにハンカチもらって、びっくりしたみたいね」

「うん、目が丸くなってた」

「どうしていいかわかんなくて、お母さんに言えなかったみたいよ」

「そうなの」


 なんでだろう。

 なんで言えなかったのかな。


「クミさあ」

「なに、ママ」

「ふふふ」

「なんかいやな感じ」

「だってさあ」

「もお」


 ママがニヤニヤして顔をのぞきこんでくる。


「クミさあ、しいく当番の日ね」

「うん」

「おニューのワンピース着たでしょ。黄色の。ママと一緒に選んだやつ」

「そうだよ。だってその後ママとお出かけだったでしょ」


 デパートでママと選んだお出かけ用のワンピース。黄色がきれいで裾のフリルがとってもかわいい。


「うん、でもね、髪どめを何度も何度も選んでたよね」

「えっ、だって、コーディネートが大事でしょ?」

「いつもより、おめかし長かった」

「そうかな、そんなことないよ」

「誰かさんに見て欲しかったんじゃないの?」

「えっ?」


 誰かさんて?


「ふふ、クミ」

「……」

「ねえねえねえ、タカシくんって、どんな子よ?」




「ねえ、カコ」

「なあに、クミ」


 次の日、二人でいつもの通学路を歩いていた。


「カコ、誰とだっけ、けんきゅう班」

「えっとー、アッキとニシザキくんとオクムラさん」

「そか」


 カコ、イケガミカコ。

 家が近所で幼稚園から一番の仲良し。登下校も一緒。

 カコはおとなしいけどしっかり者のがんばり屋さん。

 同じピアノ教室に通っていて、カコは今度コンクールに出る。ワタシはまだまだ。

 何でも話せる、きっと親友。


「アッキ、ギター始めたって言ってたね」

「言ってたね」

「すごいね」

「うん、すごーい」

「お兄さんに教わってるんでしょ」

「そう、大学生の」

「すごいね」

「すごいね」


 今日もプラタナスの道を通って一緒に帰る。

 プラタナスは秋になるととってもきれいになる。色んな色に変わっていくのが素敵。

 好きな樹。


「ねえ、カコさあ」

「なあに」

「タカシくんって、どんな子?」

「タカシくん?」

「そう、カコは三年から一緒でしょ」

「そうだけど」


 カコは幼稚園の時、ユウキくんのことが好きだった。

 自分では絶対言わなかったけど、ワタシは知ってる。


「タカシくんかあ、あんまり話したことないなあ」

「そうなの」

「人のいやがることはしないね」

「あ、そうだね」

「あと、絵が上手」

「そか、先生にほめられてたね」


 アサガオの成長日記の絵がとても上手だった。先生がみんなに見せていた。


「タカシくんのことは、クミの方が知ってるんじゃないの?」

「え、なんで?」

「ハンカチ貸してくれたんでしょ」

「うん、くれた」


 しいく当番の日のことも、カコには話している。


「やさしいね」

「……うん」

「きゅん、した?」

「ちょっと……したかな」


 でもそれって好きってこと?

 ちょっと違う気もする。

 わかんない。


 でも、あの日からなんか気になってる。

 なんだろ。

 これ。


 でも、やっぱりよくわかんない。



 プラタナスの葉が黄色く色づき始めている。

 いつもの信号のところで、カコとバイバイした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る