第12話

 「ここら辺で良いかな。これから草原に入るよ。まず注意事項から、草が多く茂みになっている場所の近くを通る時は注意する事。魔物が飛び出て来る事があるわ。」


 「うん、分かった。」


 見えている限り草原に生えている植物の大きさは大小様々だ。茂みも幾つも発見できる。でも、そんな魔物が潜んでいる茂みをなぜ放置しているのだろう。聞いてみるか。


 「それならなんで茂みを刈ったりしないの?そんな場所があるなら危険じゃない?」


 「そうだね、私もそう思うわよ。でも、茂みになっている場所は魔素が濃いの。魔素が濃いと植物の生命力が活性化して成長するし、薬草も多く発見出来るわ。」


 「なるほど。」


 魔素が濃いから刈ってもすぐに生えて来るし、薬草が生え易くなるから対処しないのか。


 「それとね、魔素が集まると魔物が生成されるの。魔物も資源の1つだからね。そう言うのもあって魔素溜まりは保護されてる。」


 「その、魔素溜まりを壊しちゃったら、どうなるの?」


 知らずに壊して捕まるとか、そう言うのは嫌だな。


 「なるべく壊さない様にってだけだからね。それに壊したら、その近くに新しい魔素溜まりが産まれるから気にしなくても構わないわ。」


 「そっか、もし壊してもそれなら安心だね。」


 「じゃあ行きましょうか。」


 「はい!」


 辺りを警戒して見渡しながら、僕はミリアさんの後ろに付いて歩いていく。


 「見つけたわ。ほら、こっちに来て。」


 いきなりしゃがんだミリアさんの隣に移動して僕もその場にしゃがむ。


 そして、ミリアさんが指を指す方向を見ると、そこにはゴールデンラッキーラビットの色違いの魔物が居た。


 白いゴールデンラッキーラビットを見ながら、小声で隣居るミリアさんに聞く。


 「ミリアさん。あれは?」


 「あれはラビットよ。この辺りの魔素溜まりから生成される魔物の一匹。強さはそこまで強くないからアオイくんでもたおせるわよ。倒してみなさい。」


 そして、ミリアさんに促された僕は、この世界で最初の魔物との戦闘を始める。


 今まで魔法を使う際に声に出して魔法陣を展開して魔法を発動していた。だが、ここで声を出して狙えばラビットも気が付いてしまうだろう。


 そう思い、僕はロッドの先をラビットに向けて【マジックボール】と念じる。そうするとロッドの先に魔法陣が現れる。


 念じて魔法陣が展開された事に喜びを隠せず顔が緩むが、僕は続けて発動と念じた。


 ロッドの先の魔法時から【マジックボール】が放たれ、真っ直ぐに草を喰むラビットに向かって行く。


 【マジックボール】が直撃するまでラビットは何も気付かず、【マジックボール】が命中すると、ラビットは衝撃で吹き飛んで転がって行った。


 「まだラビットは倒れていないわ。もう一度よ。」


 「うん!【マジックボール】!!発動!!!」


 今度は声に出して魔法陣を展開すると、転がって吹き飛んだラビットへ追撃の【マジックボール】を放った。


 ダメージが残っているラビットは二発目の【マジックボール】を避けられず、二発目も受けてラビットは倒れ伏した。


 「倒せたようね。向かいましょう。」


 「うん!」


 先行するミリアさんの後を追い掛けて倒したラビットの元へと移動した。


 「それで魔物を倒した後はどうするのか知っているかしら?」


 「それは知ってるよ。魔石を取るか、魔石を砕くかでしょ?」


 「そうよ。それなら、今回は魔石を砕いた後の後処理の仕方を教えようと思うわ。」


 「お願いします。」


 そしてラビットの解体を始めていく事になる。どの場所に解体ナイフを突き入れれば良いか、魔石を砕いた後の処理がし易い方法はどうすれば良いのかを手取り足取り教えて貰う。


 2回目の解体作業、それにすぐ側で教えて貰いながら解体は、加護や称号効果もあって教えられた側から学習していく。


 終盤はこの学習能力が現実だったら勉強とかも楽になっただろうな。と思いながら僕はラビットの解体を終えた。


 「異世界人は本当に凄い学習速度だね。その速さには呆れるよ。」


 「あはは……。」


 何とも言えずに笑って誤魔化していると、ミリアさんは腰の袋の中から複数の袋を取り出した。


 「この袋に素材事に分けて入れるの。入れ方の工夫も教えるわ。」


 「はい。」


 毛皮をどう入れるのが良いのか、肉の入れ方はどうするのかなどを教えられながら袋の中に入れる。


 「その袋はアオイくんが持つ様に。冒険者になるのなら持ち運びは多いからね。」


 「インベントリに入れちゃ駄目なの?」


 「ああ!異世界人にはそう言う力があるんだったね。でも、今回は持ち運ぶ様に。そう言う経験はしておいた方が良い。」


 「そう言う事なら言う通りにするよ。」


 軽いラビットの毛皮の入った袋を半ズボンに括り付け、ラビットの肉が入っている袋はロッドを持っていない手で持って肩にかける。


 「じゃあ次は薬草の採取の仕方だ。こっちに群生地があるから行くよ。」


 「はい。ミリアさん。」


 薬草の群生地があると言う方向へと進んで行く。元々向かっていた方向にラビットが居たのだろう。城壁からここまで真っ直ぐ進んでいる。


 「茂みがあるからね。警戒して進むよ。」


 「うん。」


 茂みの方を観察しながら進んでいると、茂みが揺れ動くのを発見した。それに魔物が居ると思い、僕は【マジックボール】の魔法陣を念じてロッドの先に展開する。


 「発動!!!」


 「ギィ!!!」


 放たれた【マジックボール】が茂みの中で隠れ潜む何かの魔物に命中したのか、魔物の鳴き声が聞こえた。


 「【マジックボール】!!」


 ロッドの先に魔法陣を展開すると、茂みを警戒して観察する。


 そして、ガサガサガサガサと音がしてその方向にロッドを向けると、茂みの中からラビットが飛び出して来る。


 牙を剥き出しにしたラビットの姿は全く可愛くない。そんな可愛くないラビットに向かって【マジックボール】を放った。


 「外れた!ぐはッ!!」


 ラビットが地面を強く蹴り急加速して【マジックボール】を躱した。そして躱されて動揺した僕の腹部にラビットの頭突きが入った。


 「うぅ?思ったよりも痛くない?うわッ!」


 想像していた痛みよりも、ラビットから受けた攻撃の痛みの無さに僕は驚いていた。そんな僕の背中にラビットが再び頭突きを食らわして来た。


 更にもう一度ラビットが頭突きをして来るタイミングでロッドをラビットに振るうと、ラビットは草原に吹き飛んで行った。

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