第11話

 「聞いて良いのか分からないんですけど、ミリアさんって何の獣人なんですか?」


 「ああ、私は狼の獣人よ。偶に居るのよ。私を犬の獣人だと勘違いする奴。」


 狼の獣人だったのか。僕も犬に似ているから犬の獣人なんだと思ってたけど、言わなくて良かった。


 そうしてミリアさんと話して進んでいると、冒険者ギルドの地下にある大きな運動場の様な場所にたどり着いた。


 「ここは冒険者がいつでも使って良い訓練所だよ。まあ、ここで訓練する冒険者は少ないけどね。」


 「そうなんだ。」


 確かに訓練所を使っている冒険者の姿は見えない。使うとしても雨の日に身体を動かすのに使うとかなのかも知れない。


 「戦闘方法は魔法を使うって事で良いのかな?」


 「そのつもりよ。攻撃魔法は1つしかないけどね。」


 「1つだけか……まあ、見習い冒険者なら1つ使える魔法があるだけでも充分だね。その魔法を見せてくれる。あの的を狙ってね。」


 ミリアさんが指差した方向にある的を見る。その的はウサギの形のシルエットや犬の形のシルエット、人の形のシルエットなど様々なシルエットの的が置かれていた。


 「あっ、あの的は壊しても構わないよ。まあ、弱い魔法じゃ壊れないから、そこまで気にしないで魔法を命中させて。」


 「分かったよ。始めるね。マジックボール!!……発動!!!」


 声に出してロッドの先に魔法陣を展開すると、僕は的を狙ってマジックボールの魔法を発動した。


 マジックボールは真っ直ぐに飛んで行き、動かない人型の的の胴体部分に命中する。


 「続けて撃てるだけ魔法を使ってみて。」


 「分かった。マジックボール!発動!!マジックボール!発動!!マジックボール!発動!!」


 それから何度も的を狙って魔法を放ち、何度も同じ的に魔法を放っている為、人型の的を蓄積したダメージで破壊する事に成功した。


 「そこまでで良いよ。かなり魔法を使えるみたいね。どれくらいの魔力があるのやら。」


 若干呆れた様な唖然とした様な目をしてミリアさんは僕の事を見ていた。


 「それで魔法は合格なのかな?」


 「見習いでそれだけのマジックボールを発動出来るのなら充分だね。次はどれくらい動けるのかを見るよ。まずは私に攻撃してみて。」


 「じゃあ、行きますね!」


 僕が魔法を使っている間に用意した木剣をミリアさんは構えて、僕の方から攻撃する様に促して来る。


 ミリアさんに向かって走る。全力ではないのにかなりの速度が出た事に自分で驚いてしまう。


 だが、動体視力や思考速度も上がっている様で、この状況でも感覚としては付いて行けている。


 そんな俺の振るったロッドの攻撃はミリアさんに躱されてしまう。


 それからロッドをミリアさんに向けて振り回すが、ロッドは一度も掠りもしない。


 「ほ、本当に今日が初日なのかい?技術はないけど身体能力は高いね。」


 「現実では戦いとか、そう言うのはないからさ。だから、これだけ杖を振り回したのは初めてなんだ。」


 「異世界には戦いがないのかい?」


 「戦争とかあるから戦い事態はあるよ。僕が喧嘩とか、そう言うのはした事ないだけだから。」


 そこから異世界の話をする事になったが、その後は基本的な棒術の動きを教えて貰った。


 基本的な動きを1時間ほど教えて貰っただけで、僕の接近時のロッドの使い方は上手くなったと判断するほどの動きを可能にしていた。


 「本当に驚きだね。最初は素人だったのに、ここまで変わるなんて……これが異世界人の力なのかい?凄過ぎるわよ。凄過ぎて嫉妬も湧かないレベルだ。」


 ミリアさんはポカーンと口を開けるくらい驚いていた。実際、僕としてもここまで動ける様になるとは思わなかったほどだ。


 そして、このタイミングで冒険者になった時と同じ様に称号の獲得を知らせるウインドウが現れたけど、確認は後にしよう。


 「本当に驚いたけど、時間もあれだし次に行こうか。次はターテレの外に出るからね。」


 「外に?魔物と戦うの?」


 「魔物とも戦って貰うよ。他にも色々あるけどね。」


 地下の訓練所を出る為に階段を上がる。


 「次は外での講習をするんだね。頑張ってね、アオイくん。」


 「うん、行って来るね。サーヤさん。」


 サーヤさんに見送られると、背中にギルド内に居た冒険者の視線を感じながらミリアさんの後を付いて行った。


 ターテレの外に出る前に何処の店の武器が良いのか、ここの防具屋は親切丁寧で品質も良い防具が売られているとか、道具ならこの場所、魔法薬ならこの店などミリアさんにオススメの店を教えて貰った。


 「魔導書が売っている場所は無いんですか?魔法の収集の為に集めておきたいだけど。」


 「あるけど、高いよ。魔導書は。安くても銀貨だし、高いと何処までも高いからね。」


 「うっ、そうなんだ。でも、一応売ってる場所は教えて欲しいな。駄目?」


 上目遣いでミリアさんを見上げる。


 「うっ、本当に男なの?女の子にしか見えないんだけど。」


 「本当に男だよ。触ってみる?触ったら分かると思うよ。」


 「さ、触らないよ!場所は教えるから、今後はそんな事を誰にも言わない様にね!襲われちゃうよ!!」


 「分かってるよ。流石にこう言う事を言うのは相手を見てるから。ごめんね、揶揄って。」


 顔を真っ赤にして怒っているのか、照れているのか分からないが、ここは謝らないと行けないと素直に謝る。


 歩くスピードが速くなったミリアさんの後ろを置いて行かれない様に急ぎながら、ターテレの門が見えて来た。


 「大きいね。」


 「まあ、元は城砦だったからね。今でも使おうと思えば城砦として使える様にもなっているよ。」


 「へえ〜あっ!外に出る時って何かあるの?」


 「ギルドカードは貰っただろう?それを見せれば良いよ。」


 「そっか、ありがとう。ミリアさん。」


 教えられた通りに門を通る時、門で取り締まりを行なっている門兵に、僕はギルドカードを見せると門を通り抜ける。


 門を通り抜けて見た外の景色は街道が通っている草原だった。


 「こっちに行くよ。それと今は街道は通らないからね。」


 「うん。」


 ミリアさんの後ろを付いて城壁に沿って移動を始めた。城壁の周りは管理が行き届いているからか、生えている草も膝下くらいまでしか生えていない。


 そんな場所を移動していると、突然ミリアさんが足を止めて立ち止まった。

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