1章 ゲームの始まりはヒロインとの出会いから

第1話 遅刻したらぶつかるのは定番

 esports、2010年代頃から急激に成長してきて、日本だけでなく世界中で今もなお広がり続けている市場である。とくにここ数年でプロゲーマーが世間的にも職業として認められはじめてからはその勢いは止まることなく、国内外問わず人気を博している。


 数多くのゲームタイトルが連なる中で特に絶大な人気を誇るのが【ゼニス・ロワイアル】である。10代前半から20代後半までを中心に人気があるFPSで、2年ほど前から世界大会も開催されているゲームだ。


 そして、2年前初の世界大会日本地区予選で勝利して初の日本代表選手となったのが俺、戦場総司せんば そうじである。とは言ったものの実際には世界大会には出場していない。


 日本代表選手となった俺は世界大会目前に引退した。


 当時中学2年だったため、引退理由は受験のためということにした。実際にはそうではないのだが、とても人に言えるような理由ではなかった。

 とはいえ、受験のため引退したことにはなったが当時はニュースにもなりSNSで誹謗中傷されることも珍しくなかった。


 そんなこんなで今は平凡な高校1年生として私立緑央りょくおう高校に通う学生だ。




 高校に入学して早3カ月、梅雨も終わりそろそろ本格的に夏を迎えようとしていた。朝とは思えないほどの暑さに総司は半ば強制的に起こされる。


「暑い……」


 とりあえず水でも飲もうかと総司は体を起こし立ち上がる。こんなに暑い朝はここ最近では初めてだったこともあり、体がひどく重たい。昨日のニュースでは朝はそこまで気温は高くなかったはずだが、ニュースも当てにならないな、と思いながら時刻を確認するために総司は時計を見る。そこにあったのは11:00と書かれた文字だった。


「やべぇ遅刻だ!」


 今日は総司の両親が家にいないため、寝坊した総司を起こしてくれる人もいなかった。総司はやばいやばいと言いながら急いで身支度を整える。ここまで来たらもう学校に行きたくと思う総司だがそうも言ってられなかった。

 なんせ午後までに提出しなければならない課題があるからだ。提出し忘れようものなら鬼の形相をした数学教師に呼び出されてしまう。それだけは避けなくてはならない、と考えながら身支度を終える。


「行ってきます!」


 玄関から誰もいない家にそう叫んで総司は家を飛び出した。走る総司はあまりの暑さに着く頃には溶けてしまうのではないかと思った。

 そうこうしているうちに時間は刻々と過ぎ、学校に到着した。


「なんとか午後には間に合った……」


 満身創痍になった総司はくたくたになりながらも教室へと足を運ぶ。授業と授業の合間のためか廊下に人が溢れている。全校生徒が多いこの学校では廊下を歩くのも一苦労である。人を搔いくぐりながらぶつからないように教室へと向かう。

 しかし、悲しいことに事件は起きてしまった。人だかりから抜けた総司だったが集団に押されるように飛び出したため目の前にいた人に向かって勢いよくぶつかってしまう。


「いたっ!」

「ご、ごめんなさい!」


 ぶつかってしまったのは同じクラスの女子だった。勢いよくぶつかったためどうやら転んでしまったらしく、焦った総司は即座に謝る。なぜ焦ったのかというと、転んでしまった女子はクラス内でカーストの高い女子だったからだ。名前は確か初鹿野心春はつかのこはるさん、ザ・陽キャと言っても過言ではないほどコミュ力が高く、彼女がよく一緒にいる女子たちのほとんどがいわゆるギャルというやつだ。


「大丈夫、こちらこそごめんなさい」


 その言葉を聞いたとき総司はものすごい違和感を感じた。理由は彼女が普段の口調とは全然違っていたからだ。普段はもっと口調が強かったはずだが、転んだ彼女からはその強さは全く感じられず、むしろ優しい。


「い、いやぶつかったのも転ばせちゃったのも完全に俺が悪いから、謝らなくていいのに……ほんとにごめんなさい」

「あ、いや大丈夫よ。次から気をつけて」


 ちょっと口調が強くなったのを感じた。どうやらさっきの優しい口調が彼女の素なのではないかと総司は思ってしまった。


「で、でも怪我とかしてたら大変だし、保健室まで連れて行こうか?」

「結構です、怪我もしてないのだ」

「それならいいんだけど……」

「では授業ももうすぐ始まるので」


 そう言って彼女は教室へと入っていった。

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ゲーマー・コンテニュー レンヤ @renya23

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