ゲーマー・コンテニュー
レンヤ
第0話 ゲームオーバー
プロゲーマーが日本でも立派な職業として認められてきた時代。俺、
世間では天才司令塔だの日本の希望だの言われているが、実際のところ俺はそんな大層な人間じゃない。ただゲームが好きなだけで、人より長い時間ゲームをしていただけの男だ。たしかに俺は日本一に輝いたが日本一強いわけではないのだ。
なぜなら、世界大会を控えた俺は一人の無名のプレイヤーに敗れたのだ。
世界大会を控えた総司、ハンドルネーム≪SOU≫とチームを組んでいる≪
「AI、右に展開しろ!俺とZEROは左から敵に仕掛ける!」
「了解!|SOU、ウルト使うからタイミング合わせて!」
「オーケー、一気に仕掛けるぞ!3、2、1、0!」
カウントが終了すると同時に右に展開していたAIが一斉に敵陣に切り込む。武器を構えながら突撃するAIが広範囲型のウルトを使い、範囲内にいるSOUとZEROのダメージとスピードを向上させる。それを確認した二人は左から挟み込むように攻撃を仕掛けた、がしかし。
「おいSOU!相手に読まれてたみたいだ!ウルトでAIと分断された!」
焦るZEROの前には長い壁が展開されていた。これによりチームは分断されてしまい、AIが一人孤立してしまう。まるで来ることがわかっていたかのような完璧なタイミングで相手がウルトを使ったのだ。
「くそっ!このままだとAIがやられる!俺がすぐにカバーに行くから耐えてくれ!クロス組むからZEROはここで壁が消えるまで待っててくれ!」
「わ、わかった!」
ZEROは動揺しながらも味方同士で射線を通し合いカバーするため壁の前で待機している。一方でSOUは孤立してるAIのもとへカバーに向かう。
しかし、それすらも敵に読まれていた。
「SOU!私は大丈夫!まだ詰めてきてないみたい!」
「詰めてきてない!?孤立してるAIに詰めてこないわけがない!……もしかして」
SOUが敵の行動に気づいたときにはすでに時は遅かった。壁の前で待機していたZEROのもとに敵が一斉に攻撃を仕掛けていた。
「ZEROまずいぞ!こっちに敵が来た、さすがに耐えきれないぞ!」
遮蔽物を利用しながら戦うZEROだが1vs3で耐えることは非常に難しく一瞬にしてZEROの体力が削られていく。
「くそっ!こうなったらウルトを使う!」
SOUは切札でもある範囲攻撃型のウルトを使用して敵の攻撃を止めようとするが……
「なっ!無効化のウルトだと!?」
無効化のウルト、敵のウルトを消すことができる反面クールタイムが非常に長く、タイミングも難しいため使うプレイヤーがほとんどいないものである。さらに無効化のウルトより前に使用されたものは消すことができないため、相手がウルトを使ってくることを読めてないと意味がない。つまり、SOUの動きはすべて相手に読まれていたのである。
そこからの流れは一方的なものであった。まず3vs1をしていたZEROがやられ、動揺しているSOUとAIの連携はバラバラになり、その隙をついて敵が突撃してきて、全滅した。
当時日本一だったチームが公式記録のない無名のプレイヤーに動きをすべて読まれ完封されたのは、世界大会を控えた総司とっては衝撃的なものであり、自信を無くすきっかけになるには十分だった。
公式戦ではなかったため記録には残らないが、それでも負けは負けだ。
チームメイトは運が悪かった、ただのまぐれだよと言うが、総司だけは理解していた。あれが、運でもまぐれでもないことを。
決定的だったのが無効化のウルトのタイミングである。あれは並大抵のプレイヤーには到底成しえない技だ。あれが常に完璧にできるのであれば世界大会で優秀することも難しいことではないだろう。
「くそっ!」
声を荒げながら総司は行き場のない感情を拳を強く握りしめることで抑える。悔しい、そんなものではない。圧倒的な無力感、絶望感、そんなものが総司の中に存在した。
「何が天才司令塔だっ!何が日本一だっ!」
壁に向かってひたすらに叫ぶ。負けること自体はおかしなことではない。プロゲーマーも人間である以上ミスして負けることもある。当然調子が悪い日もあるため負けることは当たり前ではないが普通のことだ。
しかし、今回は違う。間違いなく調子は絶好調で指示にも特にミスはない。
ただ指揮官として相手に敗北したのだ。相手に行動を読まれないようにするなんて次元の話ではない。あれは神の領域といっても過言ではない。総司が数手先を読むのに対し、相手は数十手先を呼んで行動している。まさに未来視と言っても過言ではない力だ。でなければ日本一のチームが完封されるなどありえないのだ。
ここまでが世界大会を控えた俺が一人の無名のプレイヤーに敗れた話だ。
あれからというもの司令官としての自信がまるっきりなくなってしまった。何をするにも行動が読まれているんじゃないかと考えてしまい必要以上に警戒してしまう。次第に負けることが増えていき思うようにプレイできなくなっていった。
その結果。
――世界大会直前に俺はゲームを引退した。
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