2年越しの婚約破棄


「え、結婚しよう」


「指輪と式場そっちが払ってくれるならいいよ」


「あ結構です」


中学2年の秋に未来としたこのやり取りを、和は気に入っていた。度々この会話をする2人を見受けた。夏休み前までは。




夏休みが明け早1ヶ月が過ぎた。中間テストが終わり、1ヶ月後には体育祭が待っている。


「和、あれから結婚しようって言ってくれなくなった」


「そりゃそうだろ馬鹿か」


未来だってあの頃は何の考えなしに言っていた筈だ。


「あー、あの頃の俺羨ましい」


「だから言ったんだよやりすぎたって」


「そっか、そうなのか、あのままだったら今も月一で婚約してた?!」


「婚約をサブスクみたいに言うな」


ちょうど2年前、中学2年の夏休み明け中間テストの最終日。


「和その髪型いいね、好き」


「え、」


普段和に意地悪な未来に褒められて嬉しかったのだろう。


「え、結婚しよう」


隣で聞いていて思わず口に含んでいた水を吐き出しそうになった。


「いいよ、」


耳を疑った。この2人にそういう"男女"の雰囲気を感じたことはなかったから。


「婚約指輪そっちが買ってね。あと結婚式の費用も持って」


「あ、遠慮しときまーす」


なんだ冗談か、と胸を撫で下ろしたのを覚えている。これ以降、あのやり取りを交わす2人が少し羨ましかった。実際、2人が交際しているのではと疑う生徒も多かった。




「婚約破棄だな、花婿が積極的すぎて花嫁が逃げた」


「うわぁー、リアルなこと言わないで」


このテストも和の席次は1位だった。

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