始発電車に春は来ない。
「和ってガラス玉みたいだよな」
中学2年生の秋、ふと司が言った。あの頃は理解出来なかったけど、今ならなんとなく分かる。
「さすがにそれはやりすぎじゃない?」
呆れ顔の司に言われる。
「これくらいしないと和、俺のことそういう目で見てくれない」
「だから、流石にやりすぎだって言ってんの、少女漫画じゃあるまいし」
「一応俺、少女漫画から出てきたようなビジュアルって言われてるんだけど」
「やかましいわ」
実際、和は満更でもなさそうだし、すぐ顔赤くなるし、でも恋はしてくれない。ちゃんとこっちに堕ちてくれない。
「本当ガラスみたいだよね」
「は?」
「司が言ったんじゃん、和がガラス玉みたいって」
顰め面の司にあの秋の日のことをなるべく伝える。咲き誇る紅葉、給食の匂い、単語帳片手に呟く高校生。
「…言ったっけ?」
「なんで司が忘れてんの」
透明感溢れる白くて綺麗な肌も、純粋無垢で一見傷付きやすそうに見えて強い心も。まるで透明なガラス玉。
「やっぱ簡単には行かないわ…」
「行動が早すぎる。お前いつから好きなのあいつのこと」
「10日前」
「馬鹿だな」
「愛に大事なのは長さじゃなくて深さだから」
「かっこよく言うな」
「司には分かんないよ。和、めっちゃモテるんだよ?本人が鈍感すぎるだけで和のこと狙ってる馬の骨がそこら中に転がってんの!」
「お前もその馬の骨の1つだよ」
相変わらず司には無根拠に何を言ってもぶった斬られる。
「ていうか、司君の話はないんですか」
「え、俺?」
「まーた女の子泣かせたんだって」
「なんて言い方すんだよ」
「
「お前、可愛けりゃ誰でもいいのかよ」
朝、始発電車で実らない恋の話をするこの時間も有限だ。
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