第1話 『ルネリアのわんぱく姫、家臣を拾う1』

王国歴508年 ルネリア辺境伯領 


ルネリア城の一角で困った声を挙げる者が居た。「姫さまー,どこに行かれたのですかー!」彼はルネリア辺境伯の長女エレアに貴族としての礼節等を教える家庭教師である。今年8歳となるエレアは健やかに育ち…いや育ち過ぎて家中で手を付けれないわんぱくな姫として領民にも広く知られていた。


1つそんな彼女について,こんな話が在る。城に呼ばれた吟遊詩人の詩に感動した彼女は侍女達の目を掻い潜り,城下の詩人が留まっていた宿に押し掛けると云う事をしでかしたのだ。当然居なくなった事に気付いた城内では大捜索が行われ,すわ敵国に攫われたかと焦る中朝になり満足した表情で門の前に現れた彼女を見たサダールは怒りを通り越して,笑ってしまい妻のカトレアに叱られたとか。


と,この様に誰もが手をこまねく彼女は今日もまた家庭教師の前から脱走していた。

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そんなわんぱくなエレアがどこに行ったのか,彼女は魚釣りをしようと城から少し離れた森に流れる小川へと足を運んでいた。小川へ付くと,彼女はそこらに落ちている木の棒に城から拝借した紐をくくり付け,更に来る途中に素手で捕まえた小さい虫を紐に巻き付け簡易的な釣り竿を作った。作り方を教えたのは,彼女の直ぐ上の兄サルトスだ。尚彼の方から教えたのではなく,釣りをしてみたいと思い立った彼女がせがみ、根負けしたのが真相である。



魚釣りに勤しむエレアの直ぐ側の草むらがカサカサと揺れた。音は小さく彼女の耳には届いていない。ヌルっと草むらをかき分け現れたのは四足歩行の生き物,開いた口の中には鋭い牙が光っている。目を凝らして見れば額に宝石が在る狼だと分かるだろう。その狼は《ジュエリーエルフ》という兇悪な牙を持ち,人や家畜を襲う魔獣だ。恐ろしいのは獲物が油断してるときに音を建てず背後から襲うその習性だ。そんな危険な存在が自分に近付いてるとは露知らぬエレアは引っ掛かった糸を引っ張ろうと頑張って居る。無音のまま彼女の背後に経つと口を開け彼女を飲み込もうとしたその時。


ヒュウと音がした次の瞬間,ジュエリーエルフは自分の腹に何かが刺さったのを理解した。最後に彼が見たのは自分の額目掛け矢を放つ若そうな男の姿だった。


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ルネリアの紅い炎 大妹 一 (おおまい はじめ) @rimmae

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