0話 『誕生』 

王国歴500年 春期65日 ルネリア辺境伯領


国境を護る辺境伯の居城ルネリア城は歓喜に湧いていた。城主サダール・ルネリアに新たな子が産またからである。サダールはその報を聴き、夫人カトレアの下へ仕事を放り出し急いで向かった。扉を開けさせると可愛らしい赤子を抱える愛するカトレアの姿が見え、サダールは安堵の溜め息をついた。カトレアは宝石のような綺麗な紫色の瞳を細めると、

「あなた…折角この子が眠ってくれたのに起こすつもりですか。」と問いかけた。

ただ彼女のことが心配でそこまで気が回らなかったサダールは困ったように目を泳がせ、「すまない…君と産まれた赤子が無事か気になって、居ても経っても居れなかったんだ。どれ、私と君の子供を見せてくれるかい?」

「全く…仕方在りませんね。私譲りの紫色の瞳とあなた譲りの金色の髪をした女の子ですよ。」

サダールは赤子を受け取ると高く上げ、

「よし、この娘はエレア、エレア・ルネリアだ。」と名前を決めた。

「良い名前ですね。この娘も喜んでくれますよ。」とカトレアも『エレア』と言う名前に賛成のようだ。

「喜んでたら嬉しいよ。母親が違えど兄である息子達もエレアを可愛がってくれるだろうしこれでルネリア辺境伯領も安泰だな。」

サダールはエレアを優しく撫でながらそう言った。

感慨に浸っているサダールにカトレアが「あなた,そう言えばお仕事はどうしたのかしら?」が問うとサダールは黙ったまま大量の汗を流し目線を彼女から逸らし、

「……その…全部ガスタンに任せて来たよ…」


その日ルネリア城に雷が降ったとか降ってないとか。






※1年=400日で4つの期に別れている

春期⇒夏期⇒秋期⇒冬期 期は100日です。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る