First Mission 1

 四月の四日。この日は進級式がある。つまりおれも晴れて二年生になるってわけだ。おれたちの学年は晴れて全員が進級できるようになったらしい。おれの親友でバカである日野洋介もぶじに二年生になれるというわけだ。おっと、おれは決して彼のことをバカにしているわけではない。バカはバカでも野球バカと言ったところか。


 まぁおれには友達が一杯いる。あの空虚で灰色だった中学生活を抜け出し、高校デビューを果たしたおれは男女問わず話しかけてみごと一軍男子へと登り詰めた。すげーだろ? ふふん、褒めてくれたって構わないんだぜ? まぁなにも出ねーけどな。


 閑話休題。おれの義妹となった国枝ハルもその友達の一人だった。去年は同じクラスで、本当に仲がよかったのである。しかしおれは告白し、みごとに砕け散った。それはもう呆気なくフラれた。屋上に呼び出したのがマズかったのかも知れない。原始的な方法で呼出状を下駄箱に入れたのが問題だったのかも知れない。まぁ失敗の原因をうだうだ考えても仕方がない。


「おぉーーーー! あすっちゃんじゃん! やっはろー! げんきぃ?」


 おれが校門までの坂道を歩いていると、背後から肩を叩かれた。痛い。できれば男の子なのだから優しく扱って欲しかった、なんて冗談が通用する相手でもねーか、おれは振り返って白い歯を輝かせながら挨拶した。


「おう。何ヶ月ぶりだ? 二ヶ月ちょいか。おれはバチバチ元気だぜ。もうサーティツーのホッピングシャワーよりもバチバチだったな」

「わっはっは! 意味わからんしー! あすっちゃんきょうも絶好調って感じぃ? いえぇい!」


 おれはハイタッチを求められたのでハイタッチをしてやった。なんなんだこいつは。朝からハイテンション過ぎやしないだろうか。もしかしたら前世は夜行性だったのかも知れない。


「ねぇねぇ聞いてよあすっちゃん! おれこの間マネージャーに好きだって告ったんだよー、そしたら呆気なくフラれちまってさー、なぐさめてくれよーーーー!」


 そんな方法があるのならおれが知りたいくらいだ。お前を慰められるくらいならば今ごろおれ自身を慰めている。まぁフラれたのはけっこう前だったから、お前よりは傷が浅いかも知れない。


「それは残念だったな。まぁ次がある。頑張れよ」

「おう! あすっちゃんきょうもドライだねー!」


 こいつの名前は日野洋介。野球部所属の野球バカである。これだけ書いたらこと足りそうだが、実はこれだけでは足りない。四番キャッチャーというチームの中軸なのである。こんなバカそうな見た目でもスポーツはできるんだよなぁ。しかもキャッチャーって、チームの司令塔が一番向いてそうにない奴を、よく監督は選んだな……。


「おっ、ミットか? あれお前この前黒色のミット使ってなかったか?」

「あぁあれ? そうだねー。使ってたけど後輩にあげたって言うかー、同じ中学からめっちゃうまい奴入ってきてんだよねー」


 おいおい大丈夫か。キャッチャーミットを譲渡する相手はもちろんキャッチャーであろう。ならばレギュラー奪取されないように気を付けるんだな。


「おうよ! おれはなんたって野球バカだからなー。ダイヤモンドはおれの物だぜ!」


 言っている意味が分からなかった。誰か解説してほしいものだ。


「ねぇ見て! 明日斗せんぱいじゃない!?」

「きゃー! 本当にこの学校にいるんだー! サイン欲しー!」

「うわこっち見た! ホント素敵!」


 新入生の女子……だろうか。あの制服着慣れてない感じは新入生だろうな。入学式は昨日だったはずだから、もうなんか女子のグループができはじめている。そして噂も流れていることだろう。



 ――そう! 島崎明日斗は十年に一度のイケメンである!



 という噂である。ちょっと待て。今笑った奴いただろ。しかしこの噂が流れていること自体は真実である。いや噂が本当かどうかはさておいてだな。


「せんぱーい! すき! すきすき!」


 おっといきなりのラブコールだぜ。おれはそんなに好きと言われちゃたまんなくなっちまうサガだ。ほらよ、投げキッス。


 キモい。我ながらキモい。しかし受け取った女子はハートを貫かれたようで、バタリとその場に倒れてしまった。大丈夫か……。


「うおう! モテる男は違うねあすっちゃん! やっぱおれとは顔面偏差値が違いすぎるって言うかぁ! マジパないっす!」


 そうか。べつにおれの顔面偏差値は……まぁ上の下といったところか。おれを褒めているお前も大概だぜ洋介。って言うかお前に至っては上の中くらいあるだろう。ふつうにモテるだろ。喋んなければな。


「けっ! 新入生たぶらかしてやがんぜ。新学期早々お盛んなこったな」

「月二十五人抱いてるって噂、あれマジらしいぜ」


 おれは聞き捨てならない声を聞いてしまった。いやいつものことなんだが、おれはどうやら男子連中からプレイボーイ疑惑を持ちかけられている。ちなみに女性経験はいまだにゼロである。なんでこんな噂が流れてしまったのか、おれにもよくわからないが、まぁ男子連中の妬みという奴だろう。


「あいつらなんかほっといていこーぜー。ほらチャイム鳴っちまうからさ!」


 洋介はおちゃらけた様子で言う。こういうメンタルの強さがレギュラーに繋がっているのかも知れないな。


 おれはクラス分けの名簿がはられた掲示板へと歩いて向かって言った。しかし桜の木が多すぎないかうちの学校。おかげで地面には桜の花びらが大量発生している。ピンク色の花弁がべっこんべっこんと生徒たちの靴で踏んづけられていく。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。おれは顔を上げて名簿を見た。




「やっほー! お、なんだなんだ! 明日斗もおんなじクラスかー。よろしくねー」


 おれと洋介が教室に入るなり一人の女の子が声を掛けてきた。黒髪ツインテール、低身長はかわいい系女子の証、豊田ネネである。所属している部活動はこう見えても茶道部であり、実家はなんと和菓子屋を営んでいるそうだ。この見た目で? とおれは当初そう思っちまったが、まぁ本当にそうなんだなこれが。


「おっと、洋介もいるなー。気がつかなかったよ!」

「ひっでー! おれずっとここにいたしー! もうネネちゃんひどくない!? 無視される要素どこにもないってーのにさー」


 なにやらぶー垂れる洋介。その反応がおかしかったのかネネは洋介の肩を叩いて大笑いする。去年もあった日常がまた今年も繰り返されようとしていた。


「わーるいわーるい! ケドでかすぎて見えなかったわ! マジで! ごめんねー」

「そんなー、おれこう見えても身長百八十はあるんだけどなー」

「うわでっかー。マジでそんなにあんの? 私こう見えても百四十代しかないんだけどー、うわまじかー、でっかいなー。でっかすぎてもはや顔が見えねーなー。うわ鼻毛見えた!」


 ししっと笑うネネ。こいつはなかなかストレートな物言いをよくする。おれに対してはそんなでもないが、特に洋介に対してはかなり直接的な表現が多い。もしこんなこと言ったらおれ傷ついて立ち直れない自信あるぞ……。


「まじっすかぁ! おれ鼻毛切り忘れてたっぽい!? うわまじ!? 教えてくれてセンキュな! おれ今日から鼻毛大明神になるわー!」

「あはっはは! 勝手になってれば! ちょーウケる!」


 ウケるのか? 今時の女子高生の考えることはよくわからんね。おれだって理解しようと努めてはいるが、正直よくわからんと言う結論しか出なかった。女心を理解するのは秋の空を予測すること以上に難しいのかもしれんな。


「うわでも! おれも見えなかったわー! ネネちゃんのお胸? まな板かと思ってた!」

「あぁ!?」


 ネネは洋介の胸ぐらを容赦なく掴み上げた。おいおいこんなところでケンカは勘弁してくれよ、といいたいところだが、これもいつものやり取りだったりする。いやこれがいつものやり取りってけっこうこいつらいかれてんな!


「私のどこがまな板ですって? あ?」

「はいすみませんでした……」


 小さい女の子に謝らせられる大男の構図というのはなかなかに見ないものだった。壮観である。写真に撮って収めたいくらいだ。いっそのことエックスに上げちまおうか。


「そーいや明日斗みた!? 名簿! 去年のメンバーほとんど揃ってたよ!」

「見たな。なかなかに奇跡的なメンツだった。いやもう先生連中が狙ったんじゃないかと思うくらいには偏ってたな。おれはこんなに楽しい学生生活を送っても良いのだろうか……」


 一軍の男子と女子のグループ、通称アストクラブ。はいそこダサいとか言わない。おれが名付けたのではなくネネが名付けた。まぁ正直ダサいからやめて欲しかったが、これはこれでお気に入りだよねぇ、と女子からの評判が意外と高いため存続している。改名したい。


「おや、皆思ったより早かったね。おっはー」


 すると現れたのはなんとも爽やかイケメンな男子。


 名前を藤本大地という。サッカー部で、ポジションはフォワード。


 チームの絶対的エースであり、副主将でもある。


 この女は、女子にもてすぎてヤバい。


 バレンタインデーには五十個以上チョコレートをもらっているらしい。


「おっはー! 大地も今年一緒で私本当嬉しいよ! 今年もめっちゃ勉強教えてね!」

「うわぁ。それはたいへんだな。なんせネネは地頭が悪いからな」

「だからなんでうちの男子たちはそんなに表現がまっすぐなの……」


 ネネの冷静な突っ込みが入った。


「はは! 冗談だよ冗談。まぁ七割くらいはね」

「私の三割は地頭悪いってか! あぁ?」

「なぁ明日斗……なんか今年もネネちゃん狂暴じゃないか……?」


「アァ狂暴だな。ツインテールがこれほどまでにうねっているのはなかなかに見ないぞ」

「だよなぁ。ネネちゃんちょー怖いよなー。今年も怒られないように気を付けよーっと」


 ふと教室中を見渡した。ざっとだが他にもグループが形成されつつあった。アストクラブが一番に目立っているのは間違いないが、もう一つ大きなグループがあった。あとはチラホラ同性同士で集まっているくらいか。もちろん一人で窓の外を眺めてたり本を読んだりしている奴もいる。それはそいつの自由だとおれは思うぜ。


「あんたらさー、もっとデリカシーってモノを持って発言しなさいよねぇ。じゃないと女の子から嫌われちゃうわよ?」

「あっはは! だってさ明日斗」


「なんでおれなんだ。お前らが言われてるんだよ」

「あらぁ? 明日斗もだけど?」

「っておれもかよ。おれも女子の心わかってないって言うのか?」


 おれが言ったその瞬間、教室の前の扉ががらりと開いた。


 うわ、とおれは思ったね。思わず頭を抱えちまった。いやもう頭痛が止まらない。今日は早退してもいいだろうか。いやだめだ。現実から逃げたらいつだってなにも進まないことはおれ自身の過去からも痛いほど学んでいる。


「おっはよー洋介く~~~~~ん! おっはよー大地く~~~~~ん! めっちゃイツメンだねっ! アタシちょー嬉しぃ~~~~~~~!」


 国枝ハルが教室に入ってきた。


「おっはよ明日斗! 今日も元気?」

「アァすこぶる快調だぜ。お前の目覚ましで飛び起き――ッ!」


 いってぇ! おれはその場でぴょんぴょん跳びはねた。何という痛み! こいつ今おれの足踏みやがったぞ!?


「えぇなにぃ? 聞こえなかったぁ! まぁいいか! 目覚ましがうるさかったんだねぇ!」


 涙目である。いてぇっつの! しかしハルは顔中に笑顔を貼り付けている。なんでそんなに演技ができるんだお前は! しかしおれは言い返せなかった。だって痛いからである。


「(アタシとあんたの関係性は秘密だからね! わかった?)」

「(お、おう……)」


 考えてみれば……か。たしかにおれたちが義理の兄妹であることは隠しておいた方が無難かも知れない。おれの名前は島崎明日斗だが、彼女の名前は国枝ハルなのである。つまり名字を変更していないと言うことだ。


 いくら義理の家族と言っても、名乗る姓はべつにしといた方がこのご時世色々楽なのである。書類提出とかな。


「はぁ――っ! めっ――――――――――ちゃ楽しみだねっ! 今年はどんな一年になるのかなぁ! アタシわくわくが止まらないよ!」


 そうかよ。だがこいつが楽しそうならそれはそれでよかった。不幸せな顔をすると本当に不幸になると言うからな。


「ハルちゃんもテンション上げ上げでいい感じっしょ! なに!? もしかしておれと踊っちゃう!? 踊っちゃう感じ!?」

「いいね! 踊っちゃおう! 盆踊り!」


 なんでだよ。しかし洋介とハル、こいつらはバカなため、なんと本当に踊り出した。クラスの皆様には申し訳ないがこれが陽キャのテンションなのである。しばらくお目汚しの時間だが、しかししばらく過ぎれば盆踊りは終わる。


 めちゃくちゃ息を切らしたハルが、膝に手を当てていった。


「なにこれ! めっちゃ楽しくない!」


 そりゃそうだろう。じゃあなぜやったという話だ。


「そっかなー。おれはめっちゃ楽しかったよ! うきうきわくわく!」


 めっちゃ楽しそうだった。なんでここまで楽しそうに生きられるのかがよくわからない。しかし洋介は野球以外はバカなので、まぁ考えるだけむだかも知れない。


「あんたたちよくこの場所で踊れるよねー。私感心しちゃったわ!」

「そー? ケドめっちゃつかれる! なにこれヤバい! アタシ明日歩けないかもしんない!」


「そこまで踊る必要あったのかな……。ケドやたらうまかったよ、はる」

「そうかい!? ありがとね大地! いやーしかし、うん! 本当につかれた! 後で自販機行ってくっし! みんなでいこーぜ!」


 ひゃっほーとみんなでガッツポーズを取る。おれはみんなにあわせた感じだ。おれはどっちかって言うとこのグループで喋る方ではないのだが、しかしいざという時には頼られるためにリーダーとして扱われている。


 いやリーダーって。まぁ悪い気はしないが。


 おれがリーダーとはなにかという哲学的な思索にふけっていると、ガラガラガラッと扉がまた開いた。


 はぁはぁと息を整えるそいつは、ハッとおれたちの顔を確認するなり喜んだような表情を浮かべた。


「遅れちゃったー! みんな早いですね! 私が一番最後ですか!?」


 こりゃ失敬、と舌を出したそいつは、制服の胸元にカメラを引っ提げていた。


 吉川真矢。写真部の女の子である。栗毛のショートヘアーを揺らしながらこちらに駆けよってくるその姿は、さながら新聞部員のようだ。しかし彼女は写真部なのである。いやどうでもいいなこの話。


 おれたちのグループの中では異質な方だろうな。変わっている、といえば変わっている。おれたちは同年代のはずなのにわざわざ敬語を使ったりだとか、カメラが趣味だとか。いやまぁカメラが趣味なのはよくある話か。


「やっほー! まややんもおんなじクラスとかもう最高だよね!」

「ですですっ! 記念に一枚撮っておきましょうか!?」

「あはは! いいねやろうやろう!」


 おれたちはまややんの指示に従って一つの場所に寄って行く。それから自撮りの容量で各々好きなポーズを取って撮影を済ました。


「いい感じですね! あとで皆さんにお配りします!」


 ビシッと敬礼を決めたまややん。何だこの女の子は。朝型郵便配達でもしてそうな勢いである。まややんは見ての通りまじめっ子なので、学校の成績もかなりいい。そしてけっこう可愛い。


「アストクラブ全員揃ってますね! 私感激です! 感激しすぎて目から鱗ができてしまいます!」

「本当だ! まややん鱗が出てきてる!」


 はるが悪乗りし出す。お前言っていい冗談と悪い冗談があるぞ……といいそうになったが、よくよく考えればこれは言っていい冗談な気がする。ごめんなハル!


「うろこですか! 本当に出てきてるんですか!? うわーどうしよう! 明日斗くんとって下さい!」

「落ち着け。お前は人体の構造をしらんのか。そもそも人間の体には鱗なんざ存在しない。まぁ存在してる奴もいるかもな」


「ひえぇ! 私じゃないです! 私は少なくとも魚人でも人魚でもないです! あっでも! 人魚だったらちょっと嬉しいカモです! へへ」

「いやよくないだろう。しかし一応言っておくが、お前の体から鱗が出ているなんてことは起こってない。安心しろ」


「そうなんですね! もう茶化さないで下さいよハルちゃんさん! 私騙されやすいんですからね!」


 いやいくら何でも騙されやすすぎだろう。純粋さ。そこがこの子のいいところでもあるんだが、同時に悪いところでもある。どこか心配な部分が大きいまややんである。



「ようしお前ら席に着け。いいか五秒以内だ。つかなかった奴は罰金だぞ? お前らにペナルティを科すからな。いいか、いーち、にー」



 担任の先生がいきなり入ってきて数を数えだした。藤波先生だ。みんなからはしんたろー先生と呼ばれている。いやどうしてしんたろーなんだよ。この人女だぞ。アラサーの女教師だぞ。似ているのは年齢だけではないか。


 おれはゆっくりと自分の座席を探していく。自分の机の右端には名前の書かれたシールが貼ってあって、きちんと自分の席が指定されているのだ。おれは指さしながら自分の机を確認し、あったな。一番後ろの席だ。しかも真ん中らへん。なかなかに黒板の見づらい席を引き当てちまったもんだ。


「うげ。あんたが隣とか! うわマジ最悪」


 ひどい言われようだった。だがよくよく考えれば島崎と国枝なのだから、ふつうにとなり同士になってもおかしくはないだろう。


 ってことでハルととなりの席になった。


「明日斗サー、途中でイタズラとか仕掛けてきちゃめっ、だからね!」

「やらん。どうしてお前はおれがイタズラを仕掛けてくると思っているんだ」


「しそうだからに決まってんじゃん! あたしのこと、すきなんでしょ?」

「……うぐっ」


 おれは呼吸が止まるかと思った。小首を傾げて人差し指を唇に当て、ちょっと赤らめた表情でそれを言うのはなしだ。おれは不覚にもドキッとさせられてしまった。はらりと零れ落ちる髪の毛がものすごく扇情的で、おれの思春期の心をこれでもかと震わせた。


「あぁ、ずぼしだな」

「図星じゃねーよ。いいから前向いたらどうだ」

「こっちみなよ」


「やだ」

「えー、つまんない」

「………………」


 おれは言いようにしてやられているような気がした。なんでこの女はこんなにも誘惑がうまいのか。そしてどうしておれはこんなにもドギマギしてしまっているのだろうか。真相は神のみぞ知る。


「こっちむいて」

「やだ」

「えー、みてよ」


「今はホームルーム中だぞ。そんな誘惑には乗らん」

「ちぇっ、優等生」


 どうとでも言うがいい。そうだおれは優等生だ。紛うことなき優等生なのである。だからホームルーム中だろうが授業中だろうが横を向いたりなんかしないからな。


 おかげさまでホームルーム中は彼女のイタズラに巻き込まれることはなかった。途中で紙飛行機が飛んできたりとか、消しゴムの塊が頬にぶつかるなんてことはなかったぞ。しかしまぁ、義理の妹が隣の席になっちまっただなんてな。


 まぁ本人はおれのことを義理の兄として認めてないらしい。だからおれは彼女と同じように、おれは彼女のことを義妹として認めない。


 ただそれだけだ。それだけの関係性でいい。


 となり同士の同級生。友達。そんな言葉が、おれたちにとって一番すっぽり当てはまるのだ。

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