俺の義妹になったギャルがラノベ好きすぎて俺まて゛オタクに戻されかけている件

相沢 たける

プロローグ


「あんたが義理の兄貴? よりにもよって? ――ねーわ! あはは! マジでねーわ!」


 おれはこいつをどうにかしたくなった。マジでなんでこうなった?


 リビングである。テーブルには四人の人間がついていた。おれの見知っている人物が約三人、そしてあと一人は今声を上げた娘の母親であった。


「ダメよハルちゃん。これから家族になるんだから仲良くしなくっちゃ! ね! ヨロシクね明日斗くん!」


 そう、今日からこの人が義理の母親になるのである。義理の家族がいきなりできるなんて現実で言われても、正直実感が湧かなかった。


 しかし今日は顔合わせの日――まぁここまで来りゃ無理矢理にでも実感ってものが湧いてくる。


「そうですね。こいつとはあまり仲がよくないんですが、それでも家族としてやっていく以上妥協は必要でしょう。よろしくお願いします、お義母さん」

「まぁしっかりした子じゃない! ほらあなたも頭を下げるのよ!」

「え~~~、マジでねーわ……。………………っつかマジきまず……」


 言いながら娘は指先をつつき合わせた。それも当然だろう。


 ――なにせこの娘におれは高校一年生の時に振られている。


 今は四月。次から二年生に上がるタイミングだった。このタイミングで義理の家族ができるなど誰が予想できただろうか。


 そしてこの娘が、おれと同い年の国枝ハル。生まれるタイミングによってこいつはおれの義理の妹になることが決定した。


 ド派手な長い金髪に、耳にはこれほどまでか! というくらいにつけたピアス。穴開け過ぎじゃねーの? とか思わなくもないが本人曰くみんなやってるそうだ。なんだか手入れがたいへんそうだ。


 ちなみに今現在彼女はパーカー姿であった。ほんのりカールさせた横髪をみょんみょんしてあそんでいる。お前その遊び楽しいのかと思わず突っ込みたくなる。


「つーかアタシの部屋覗かないでね。オタグッズとかさわんなし」

「お前がオタクだってことは重々承知している。おれはオタクの趣味になんざこれっぽっちも興味はない」


 嘘だ。実はある。だがクラスで陽キャを演じている以上、隠し通しておかないといけない事実だった。おれは昔は重度のオタクだったのだ。


「むぅ。二人ともケンカはやめんか。たしかにお互い去年は同じクラスだったそうだが、なにもそこまで言い合う必要はなかろうに」


 親父が言った。まったく蚊帳の外の人間はいくらでも物を言えるな。もう一度いうがおれはハルに告白してフラれているのだ。気まずいに決まっているだろう。しかも付き合ってフラれたのではなく、おれが『つきあってください』と言ったらフラれたのだ。何とも無様な……、 ちくしょう!


「あ、えぇっと、これからよろしくお願いします。おと……うさん」


 妙に歯切れの悪い口調でハルは言った。なんだなんだ? やけに大人しいじゃないか。おれはてっきり「やっほー! よろしくねぇパパ!」みたいな感じで接してくると思っていたのに。


 おれは妙な違和感を覚えながらも――このときはまぁいいか、と思った。そんなに気にならなかったしな。


「とりあえず飯にしよう。話はそれからだ」

「はい、よろしくお、お願いします……」


「おう。とりあえずお前ご飯をよそってくれるか?」おれが言う。

「あぁうん。りょーかい。ねぇあんた、ホントによけいなちょっかい出さないで頂戴ね」

「わかってる。お前なんかに手を出すほど節操なしじゃないつもりだ」


「ふ~~ん、アタシに告ってきたくせによく言えんじゃん! ――まぁ一応はあんたのことは同じ空間で生活していく仲間、って言う認識にしておいてあげる。兄貴とは認めない。いい、もう一回言うけど、あんたは同じ空間で生活する、あくまで友達って言う認識。オーケー?」


 そんな頑なに言わなくてもな。しかし、このときもおれは違和感を覚えなかった。



 ――彼女の持っている闇を、このときおれは見抜くことができなかったのである。



「わぁったわぁった。じゃあおれもお前を妹と認めない。便宜上妹と呼ぶことはあるかもしれんが、おれにとってもお前はあくまで同居人って認識だ。それでいいだろう、――女友達?」

「おっ、わぁってんじゃん!」


 ハルは八重歯を輝かせていった。この笑顔をおれは無邪気だと思っていた。


「んじゃそういうことで~~~、ねぇ、おと……すみませんしゃもじってどこにありますか?」

「そこにあるよー。ありがとねハルちゃん」

「ど、どうも……」


 まぁともかくだ。おれたちの不思議な同居生活が始まった。かつてフラれたおれと、かつておれを振った女の子の極めて平凡な日々が幕を開けたのだ――

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