第5話

 カワイイ子供の姿をしたバケモノであるミサキを連れて歩く事三日。

 獣共はミサキを恐れて近付いてこない、とても平和な旅路であった。

 狩りもミサキがやってくれるので、俺は肉を美味しく焼く係になっていた。

 途中で購入した塩が、俺の生命線である。

 火をつける事を覚え、一人でも肉を焼けるようになったミサキを見た時には、明日の朝は俺が焼かれているのでないかと焦ったが、「トムが焼く方が美味しい。」と、とぼけた事を言い放ち、今に至る。

 塩の事がバレる前にハーブを手に入れなければ。


 道端のハーブを探しながら二日歩いて街に着いたが案の定、門番に止められる。

 大荷物の無い二人連れで一人はオッサン。もう一人は顔を隠したローブ姿の子供。

 旅人にしては荷物が少なく、見覚えの無いオッサンが子供を連れているのだから、要らない想像を掻き立てるのだろう。

 俺は前の街を出る時に住人の証明書を貰っているが、ミサキにはそういうのは無い。

 盗賊が村を襲い子供を連れ去る事件も珍しくない。

 こんな田舎だと小さな農村の子供はその村の人にしか知られていないので、親子を装って街に入り金持ちに売り払ってしまう。

 街を出る時に子供が居ない事がバレても「いい仕事が見つかった。」とでも言えば、調べる時間も無いのでほぼ素通りである。

 門番する様な下級兵はおおよそ貧乏だから金貨でも握らせれば笑顔で送り出してくれそうだ。

 「トムは悪い奴じゃない。毎日、美味しいお肉を焼いてくれるんだ。」

 そんな事を考えていたら、ミサキが要らん事を言った。

 騒ぐな。注目を集めてしまったら、いくら不良門番でも金で通す訳に行かなくなる。

 顔を隠していたフードを取りながら言ったので、そのカワイイお顔が門前にいる人たちに見えるようになる訳で・・・。

 「ほう、まったく似てないな。ちょっと詰所で話を聞かせても らえるかな?」

 満面の笑みを浮かべる門番は明らかに俺を疑っている。

 門番仲間も彼の発言から色々察したようで俺の後ろに二人、前にもう一人やってきて完全に確保の構えである。

 「トムは良い奴なんだ。本当なんだ。」

 「大丈夫だよ、お話を聞くだけだから。君の名前は? 何処に住んでいたのかな?」

 「・・・。」

 必死に訴えるミサキをまた別の門番がやって来て話を聞こうとしている。

 そしてミサキ、そこで黙るんじゃない。

 門番たちの疑いが確信に変わった瞬間であった。




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