第4話

 はっきりって、ピンチである。

 今までは空腹のせいで眠りが浅く、夜中に獣が近付いても目が覚めたが、今日はたらふく鹿肉を食ったし、昼からバケモノの存在に緊張してかなり疲れている。

 起きて、焚火を見ているはずなのに、急に火が弱くなっていると言う事は、しばらく意識が飛んでいた様だ。

 痺れて動かないと思った足は、バケモノが乗っているせいで動かないだけだった。

 重さは見た目通りの子供と変わらない様で、押しのける事も出来そうだが、寝起きが悪くて八つ裂きにされるのも嫌なので我慢する。

 ふと気になって尻を触る。

 シッポは無い様だ。

 次に背中を触るが、羽も無さそうだ。

 ダメもとで頭も触るが、角も無い。

 俺がバケモノだと衛兵に突き出しても、コイツがしらばっくれれば普通の子供と思われるだろう。そして俺の方が誘拐犯あたりにでっち上げられそうだ。

 コイツを捨てる算段を立てていると、ズルズルとよじ登ってきて、胸にしがみ付く格好になった。

 ヤバかった。腰は抜けたが、チビってはいない。

 鹿を素手でひねり殺し、担いで走る様な奴が寝ぼけてしがみ付いて来るとか、恐怖以外の何物でもない。

 それでも見た目は思わず構いたくなる様なカワイイ子供だ。

 俺は疲れて頭が回らなかったのだろう。気付くと周りは明るくなっていて朝が来た事を知らせていた。

 「トム、おはよー。」

 俺の腕の中で満面の笑みを浮かべたバケモノが挨拶をしてきた。

 「ああ、おはようさん。」

 俺は挨拶を返してバケモノを開放してやる。

 焚火は消えていて、完全に寝てしまっていたのだと気付く。

 「あさごはん。火ぃつけてー。」

 ミサキが昨日の鹿の残りをぐちゃぐちゃに枝に刺してかまどにかざしている。

 「あー、一晩野晒しの肉は腹壊すぞ。新しいの、取ってこい。・・・薪もな。」

 「分かったー。」

 流石に素人が解体した肉が一晩過ぎても無事に食えると思えない。新鮮な獲物を依頼するとミサキは森の方へ走って行く。

 今なら理解できる。野生の獣はミサキの強さを察して寄ってこなかったのだろう。かまどの燃えカスに火が付く頃には痩せた狼が必死に鹿の残骸を引きずって持ち帰ろうとしている。

 一頭だけで、襲ってくる様子も無い。目を逸らすとお持ち帰り作業を続ける。早くしないとバケモノが帰って来るぞと、心の中で狼を応援する。

 狼の姿が丘の向こうに消えるころ、ミサキが兎と薪を抱えて帰って来た。



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