第3話
「ごめんな。俺は一人旅の途中だから子供の世話は出来ねーんだわ。」
俺が断りのセリフを吐くと、しがみ付いていた両手に力を込めて、中身を絞り出すかの様に締め上げてきた。
「待て。待って!待って下さい・・・。」
締め上げる力が少しだけ緩む。
「連れてってくれる?」
「分かった。贅沢は出来ないぞ。」
ああ、これバケモノだ。俺の力じゃ逃げ切れない。
絶望が俺を支配したのを感じた。
それでも、道の側で待てば人が通るという事を理解する知識と知恵を持っているなら、俺を生かして使う事を考えているはずだと自分に言い聞かせながら平静を保つ。
「えへへ。ありがと。」
「連れて行くんだ。名前ぐらい教えろ。」
「ぼくはミサキ。あんたの名前は?」
「・・・トム。」
「トム。よろしくね。」
こうして、見た目はカワイイ人形の様なバケモノをお供に、当ての無い旅が始まった。
・・・・・・・・・・
「お腹空いたー。」
カワイイバケモノのカワイイお口からそんな台詞が吐き出された。
「何か持っているように見えるか?」
俺の腹を食い破るバケモノの想像を振り払い、平静を保って言い返す。
「せっかく人に会えたのに・・・。トムは料理出来る人?」
このカワイイ見た目で生意気な態度。どこのご子息様だと聞きたくなる。
「俺が料理人に見えるか?」
生意気だと思ってもバケモノは怖い。しかし、獣相手は強気で行くべしとの教えを守る。
「生肉はもうイヤなの。」
コイツ、生肉とか言いやがった。何か食わせないと俺を食うって事か?しかし、ふと思う。
「生肉を飽きるほど食ったってことは、狩りは出来るのか?」
「・・・動物を取って来ればイイのか?ちょっと待ってて。」
素手では狩れないと諦めていたが、このバケモノに狩りを任せれば良いじゃないかと思いついて言ってみると、バケモノは軽いノリで森の方へと走って行った。
この隙に逃げる事も考えたが、バケモノの走る速さを見て諦めた。そして、嬉しそうに鹿を持ってきたバケモノに薪も集めてもらう。
その時間でかまどを作り、鹿を解体した。まぁ、解体と言っても素人では、安全に食えるのは背中と腿の肉くらいだが、二人で食べるには十分だった。
「味付き、美味しー。」
塩を振って小枝を刺し、炙っただけの焼き肉を、本当に美味そうに食べている。
この姿だけなら、本当にカワイイ子供に見えるが、コイツは鹿を素手で狩り取るバケモノだ。
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