第2話

 「ひとだぁぁっ!!」

 下腹から酷い衝撃が喉元まで駆け上がった。

 もし、俺が普通に食事を済ませていたなら、大惨事になっていた事だろう。

 激突した毛玉は丸く、頭突きと思われる。

 生まれ育った田舎の村で、ガキ共を押し付けられていた頃に何度も経験している、ちょっと懐かしい感触でもあるが、衝撃は比べ物にならない程でかくて、咄嗟に出たバックステップのまま、そこそこの距離を飛んだ様な気がする。

 謎の毛玉から生えた細い腕が、俺の背中に回されて、しっかりしがみ付いている恐怖は、苦痛を少しの間忘れさせた。

 「ちゃんと人は居たんだぁ。」

 一応、俺の分かる言葉の様だが、何を言っているのか分からない。

 いや、そう聞こえるだけの知らない言葉かもしれないが・・・。

 出る物の無いおう吐感はキツイし、がっつり打ち付けた尻も痛い。

 「落ち着け。落ち着け。落ち着け・・・。」

 酒場の集りジジイから教わったインチキ呪文で自分を落ち着かせたが、この謎の毛玉にも効果が少しだけあった様だ。

 「落ち着いたよ。もう、世界に一人ぼっちかと思ったぁ・・・。」

 確かに俺も誰にも会わなかったが、流石に見ず知らずの人に突撃する程では無いと思う。

 とりあえず人の様だが、こんな金貨みたいな金髪の奴は見たことが無い。

 この辺に住んでる奴は、濃淡はあるが土色だ。

 「坊主、どこから来た?」

 毛玉野郎はビクッとしてから小刻みに震え出した。

 コイツ、どこかから逃げ出して来たのか?

 まさか、隠されていた魔法生物とか、人の振りするバケモノとか・・・。

 このド田舎だと逃げ出しても被害が出ないと考えて、危険なバケモノの飼育施設とか作って無いよな。

 俺の腹に頭と思われる物を押し付けたまま小刻みに震えるそれに手を伸ばし、ゆっくりと引き剝がしにかかると、それはあっけなく剥がれた。

 そして金髪の隙間から真っ青な瞳で俺の顔を見つめ返してきた。

 その顔は良い意味で人間離れしていて、人形の様に整っていた。

 よく見ると肌も真っ白で傷一つ無く、好事家には高く売れそうだった。

 「ぼくね、気が付いたらここにいて、道があるから待っていたら誰か来るかと思ったの。でも、何日も誰も来なくて、このまま一人ぼっちで死ぬかと思ったの。」

 澄んだキレイな声でそういうと、改めて俺の腹に頭を押し付けてしがみ付く。

 その時俺は、コイツの商品価値が高過ぎて、売りに行ったら消されると悟った。



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