14 夜中のアニメ
「やっぱりあいつウソつきじゃん」
「そうだな。脳みそが足りないんだよ」
いじめっ子集団は下卑た笑い声をあげた。
向こうの道から、妙にしょげた印象の女の子が現れた。
「よーう漫画家先生。元気そうだな」
女の子は顔を青くして逃げ出した。
「美琴、目に入るだけでうざいよなー」
「なー。晴人以上のうざさだわー」
さすがにこのいじめっ子集団をなんとかしたくて、あっしは適当な小石を拾い、いじめっ子の親分格に一撃放り投げてやった。
「いって!」
「おい、頭から血ぃ出てるぞ?!」
「誰だ?! 石投げたやつ!!」
投石紐で投げなかっただけ感謝しろというものだ。そいつらの間を抜けて、晴人さんを追いかける。
晴人さんは悔しい顔をしていた。そりゃそうだろうな、と思う。後ろで起きた騒ぎには気付いていないようだ。学校の入り口で、晴人さんは先生らしい大人に挨拶した。
「おはようございます」
「おはよう天川。きょうはちゃんと来たんだな」
「へへへ……」
「先生! 晴人か美琴に石を投げられました!」
「お?! 血が出てるじゃないか。でも後ろ頭から血が出てるってことは、天川も木村もお前らより先に学校に着いてるんだし、どっちも犯人じゃないだろう」
「いーや。ぜったい晴人か美琴です!」
「まあまあ。石を投げるっていうのは恐ろしいことで、古代のイスラエルでは罪人に石を投げて処刑したんだ。だからちゃんと調べてやるから落ち着け。保健室で手当てしてもらえ」
というわけで、いじめっ子は「ホケンシツ」なるところに向かったようだった。その先生が、晴人さんとミコトとかいう女の子を捕まえて、
「石投げたりしたのか?」
と顔を交互に見た。
「石?」
二人ともよく分からない顔をしている。
「……いっつもいじめられて憎いからって石を投げちゃいけない。古代のイスラエルでは投石は処刑法だ。石、投げたんだろ?」
「先生、おれと木村は石なんて投げてないです。だよな木村」
「う、うん」
木村、と呼ばれた、ミコトとかいう女の子は頷いた。
「うーん嫌疑不十分だなあ。まあいい、教室に行きなさい」
二人とも通してもらえたようだ。子供たちは続々と教室に向かっていく。
「木村、お前あいつらにいじめられてるのか」
「い、いじめられてなんかないよ……か、勝手に悪口言われてるだけ。いじめっていうのは怪我してからって父が言ってた。悪口言われるのは気の持ちようで耐えられるから」
「悪口言われたらもういじめだと思うけどなあ」
さすがに校舎に入ったらまずそうだったので、そこで様子を見ることにした。
さて、学校の様子をひとしきり伺ったのち、あっしは河原に戻ることにした。
河原について驚いた、段ボールハウスが撤去されている。あっしの大事な家なのに。こちらの世界の大都市では段ボールハウスで生活する浮浪者がいるそうなので、そういうのと間違われたのかもしれない。
「困ったな」とぼやいて、新しい段ボールを探すために商店街に向かった。
こんなに文化の進んだ土地だというのに、商店街は戸を閉めて営業していない店ばかりである。文化が進みすぎて、弱い個人経営の店がつぶれていったとかなのだろうか。
スーパーマーケット、という、一つの建物にたくさんの売り物を集めた市場の裏に回る。大量の段ボール箱が捨てられている。適当にかっぱらって、隠れみのに隠して河原に運ぶ。
よし。
段ボールハウスを組み立て、そこで昼寝をすることにした。
しばらくウトウトとして、目を覚ますと腹が減っていたので無限生肉を食べる。やはりこちらの世界の食べ物とおいしさのレベルが違う。
起き上がり、また調査をするか、と段ボールハウスを出る。
河原にはあまり人がいない。真っ昼間で暑いからだろう。
ふと見ると晴人さんが水切りをして遊んでいたので、一言声をかけようと近づく。謝らねばならない。
「晴人さん、」
「おっゴブリンさん! どうしたんだ?」
「学校で石を投げた疑いをかけられたんですかい?」
「なんで知ってんだ?」
事情を説明する。
「ゴブリンさん、こっちの世界じゃ石を投げちゃいけないんだぞ。古代いすらえる? の処刑法だからな」
「へえ。申し訳ねぇです」
「でもあいつらのほうがウソつきなのは先生が知ってるからな。でもむかついたから学校から逃げてやった!」
いいのだろうか。
「おお、晴人くんじゃないか」
「あ、親父殿! 具合はだいじょぶですか?」
ヤバい、さらに人に見つかってしまった。
油断しすぎたのだ。
協力者は多いほうがいいがあまりたくさんの人に知られるのはよくないことだ。
「わしゃ元気だよ。きょうは気分がいいから散歩だ。そっちのUMAは?」
「ゴブリンさんです!」
「ど、どうも。ゴブリンです」
「ほおーん。テレビで夜中にやっとったアニメでそういうのがいたな」
「夜中のアニメ?」
「そうだ。いまは子供も夜中まで起きてああいうのを観ているのか?」
「親父殿の家にはレコーダーがないんですか?」
「レコーダーとやらはあるが、わしには使い方も使い道も分からんのだ。夜中に体調を崩して起きてきて、体調が収まって夜中にテレビをつけたらアニメをやっとったという話だ」
「レコーダーは録画できるんですよ」
「昔のビデオテープみたいなものか?」
「びでお……てーぷ?」
会話がかみ合っていないのがたいそう面白くて、あっしは思わずくっくっと笑った。
「ゴブリンさん笑うなよ」
「いやいや。世代が違うとこうも話がかみ合わねえんですねえ。晴人さん、ビデオテープってのは録画用DVDみたいなもんですぜ」
「あーなるほど! 理解!」
「お前さん、アニメの世界から来たのにずいぶん詳しいな」
「人間の世界を調査するのがあっしらの仕事なので」
「ほう……調査はどんな塩梅だ?」
「いまのところ、魔王軍ではこちらの世界を滅ぼせないのが分かったところでさ」
「そうかそうか。晴人くん、しそジュース飲まんか? カルピスもあるぞ? ゴブリンさんも来るといい」
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