5 スマホがチカチカする
「姉貴、なんで姉貴は漫画家なのに本にならないんだ?」
「漫画って、本になるまでにいっぱいいろんな人の手を経由しなきゃないわけだ」
「?」
「漫画家がアイディアを考えて、それを編集者、って人が見て、ここはこうしたほうがいいよ、って直してもらって、それを漫画にする。その漫画が本一冊ぶん溜まったら、よく知らないけど本のデザインをする人とかの手を経由して本にする。それが書店に並ぶ」
「お、おう……」
「わたしは確かに漫画を描いてはいる。でもそれはアマチュアだから、編集者って人に見てもらったわけじゃないし、本にもならない」
「そうなのか」
弟は物分かりがいい。
「じゃあ姉貴、早く編集者についてもらえよ」
「それはすごい才能が必要だねえ」
「姉貴の才能はすごくないのか?」
「どうなんだろう。描き続けることはできるけど」
そうやって話しているうちに夜になった。冷蔵庫でいい塩梅に冷えた焼きナスと、パック入りのハンバーグを用意する。
「お、チーズハンバーグじゃん!」
「相変わらずチーズハンバーグが好きみたいで安心したよ」
というわけでモグモグパクパクする。弟は元気を取り戻したようで、果てしなく安心したのだった。
きょうは火曜日なので、異様なデカ盛りや異様な安さのレストランを紹介する番組をやっている。これがまた馬鹿馬鹿しいのに面白い。
なぜ採算度外視で「人をお腹いっぱいにしたい」なんて思えるのだろう。
わたしにはさっぱり分からない気持ちだ。
「いいなあグリーンカレー。なー姉貴、グリーンカレー食べてみたい」
「じゃあフジノヤ行ったら探してみる」
フジノヤというのは最寄りのスーパーのことだ。川向こうの街には、景気が良かった大昔に立った大きなショッピングセンターがあって、最近テナントとして無印良品が入ったらしい。
「フジノヤにあるのか? グリーンカレー」
「どうかな、レトルトでありそうだけどな」
「楽しみにしとく」
「すっごいからいのしかなかったらどうする?」
「それでもおれは食べるよ。からいものくらい平気だ」
メモ帳に、「ペペロンチーノ グリーンカレー」と書いておく。
「最近からい食べ物に興味あるね」
「学校でからいもの食べた自慢流行ってる。クラスの最高記録は炎メシだ」
ああ、カップ飯シリーズのやつか。食べたらぜったいむせそうなので食べてなかったやつだ。
「珍しいね、あんたが学校の流行りに興味もつなんて」
「からいもの食べた自慢には興味ないけど、からいものは食べてみたいんだよ」
よく分からないのであった。
弟はさっさと寝た。わたしも寝てしまうことにした。
……枕元に置いておいたスマホが、なにやらちかちかしているのは気になったが、どうにかぐっすりと寝た。きょうも変な夢を見ることはなかった。
起きてシリアルを食べ、朝ドラの感想をポストしようとスマホを手に取り、愕然とした。
なにやらすごい数の、Xからの通知が来ている。
恐る恐るXを開く。
――ゴブリンさんの漫画が、かなり大規模にバズっていた。
夢にまで見た万バズだ。しかしなんでこれが。
「どうした姉貴」
「どうもしない。あんた学校は?」
「んー行かない! たぶんきょうもウソつきって言われる!」
「そうか。えっとだな……落ち着こう。とりあえず通知を切って……」
Xの通知を切る。
「河原行ってくるー」
「いってらっしゃい」
ええっと。
どうすればいいのかな。万バズしたら宣伝していいっていうけど商業作家じゃないし同人誌を作ってるわけでもないから宣伝するものがなにもないぞ。
とりあえず「毎日更新してますんでこちらもなにとぞ」と、一ページ漫画のポストを引用してリプ欄につなげておいた。
おいおいおい。
そうやっているうちにも次々いいねとリツイートが続く。
トレンドを見てみると「ゴブリンさん」が入っている。見てみると、
「例の漫画のゴブリンさん、なんというかすごくリアル」
とか、
「ああいうゴブリンさんだったら許す」みたいなツイートが並んでいた。
ヤバい、なんだかゾワゾワするぞ。
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