第7話 訴えてやるぅーーー!!!
Side-サンタ社長
12台の大型バスの後に続いて、美惑と良太を乗せたロールスロイスが学校の敷地を出て行った。
それを見送り、サンタは、ガランとした校庭の真ん中に一人、取り残されたようにぽつんと佇む校長の所へドカドカと歩み寄った。
その様子に気付き、校長はバーコード頭を撫でつけながら深くお辞儀をした。
「ちょっと、これどういう事かしら?」
サンタは数枚の紙をホッチキスで止めた冊子を校長の前に突き出した。
「は? えー、これは……。ああ! 冬合宿のカリキュラムでございます」
「知ってるわよ。そんな事は見ればわかるでしょ。この3日目の臨時講師が朱理ってどういう事かしら?」
「え? えーっと。朱理さんは、学生たちからも人気があり、えーっと、半年前から打診していた案件でございまして――」
「今すぐ、予定を変更なさい!」
「ひぇ? それはまた、穏やかではございませんね」
校長はポケットからハンカチを取り出し、額を拭った。
「朱理がうちのタレントに何をしたか、知らないのかしら? あなた、相変わらずSNSもネットニュースも見ないのね」
「はぁ、何かございましたか?」
「何かございましたかじゃないわよ! あの男! うちのタレントをそそのかして、黒羽美惑のスキャンダルを捏造したのよ!」
「な、なんですと?」
朱理は美惑と同じロリプラのメンバーである翼に、楽曲を提供するという交換条件で、美惑との写真を撮らせたのだ。
そして、それを拡散させた。
美惑の配信後、翼は泣きながらサンタの所へやって来て、事情を説明した。
「あと2年の契約を残して、美惑は引退。
17歳の女の子二人がどれほど心を痛めたと思ってるの!」
「な、なんと!」
「あと2年。美惑の芸能活動で見込んでいた収入は1億8000万よ! 全部朱理に損害賠償請求してやるわ。
今、弁護士に内容証明作らせてるわ。
そして、記者会見準備もね。
もう間もなくメディアは大騒ぎよ。
そうなったら、学校の評判にも傷が付くでしょう」
「お、おっしゃる通りでございます。すぐに対処致します」
「それでいいわ。もしこのまま朱理が登壇する事になったら、今年から寄付金はゼロよ! ゼロ!! わかったわね」
「はっ、はい。かしこまりました」
深々と低頭する校長の後頭部を見届けて、ベンツの後部座席に乗った。
「社長、次はどこに向かいますか?」
運転手がシートベルトを締め直して訊ねた。
「ABC法律事務所に向かってちょうだい」
「かしこまりました」
あの男だけは絶対に許さない。
母親が大物だからって調子に乗っちゃって。
社会的に抹殺してやるわ!
震えて待ってなさい!!
Side-良太
ロールスロイスの車内はまるでファーストクラス。
走る宮殿とはよく言った物だ。
温度は快適。
エンジン音も外の音もまるで聞こえない。
絨毯の上を走っているかのように振動すらほとんど感じられない。
何よりも、上品なレザーの香りと、柔らかく包み込まれる感触が夢見心地にさせる。
運転席と後部座席は厚いガラスで仕切られていて運転手さんの存在すら忘れてしまうほど。
プライベート感がある。
まるで美惑と二人っきりで旅行をしているみたいだ。
「なんで社長がここまでやってくれるの?」
素朴な疑問だ。
美惑は、少し笑って首をかしげた。
「さぁ? なんでだろうね? まぁいいじゃん。有難く堪能しようよ」
「まぁ、それもそうだね」
「それよりさ、良太。スマホ貸して」
「は? なんで?」
「いいから」
渋々差し出す。
「ロック解除して」
「やだよ。なんでだよ?」
「いいから」
そう言って、顔認証を解除しようとしつこくスマホを向けて来る。
慌てて目を閉じる。
「ダメだって、やめろー」
「あのね、良太。このままずっと私に監視され続けたいの?」
「へ? 今、なんて?」
「私ね、良太のスマホの中全部見れるんだよ」
「は? 嘘だろう?」
「本当。白川さんとのチャットも全部見たから」
「はぁ??? どうやってだよ?」
「監視アプリ入れたの。それ解除してあげるから、ロック解除してって言ってるの」
「いつの間に?」
その時だ。
美惑の手の中で、スマホの画面がピカーっと光って、顔認証を完了させた。
「いつの間にそんな事したんだよ?」
「んーと、いつだったかな? 忘れちゃった。良太っていつも無防備だから」
そう言いながら、良太のスマホを操作している。
「はい、これでOK。もう必要なくなったし、アンインストールしといたから。もう安心だよ」
「そう、ありがとう……って、おい!!」
「火事だぁって空のコーヒーに電話したのも私。良太ったらあっさり騙されちゃって、面白かった!」
「お前、ふざけんなよ」
「ごめんなさい」
いつになくしおらしく頭を下げる美惑。
「なんで今頃カミングアウトしたの?」
「フェアじゃないから」
「フェア?」
「良太は、負い目で私と付き合おうとしてる」
負い目、と言われて否定できなかった。
「そんなのイヤだから」
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