第4話 新たな疑惑と良太の決断

「ちょっと!! 私、どうして寝ちゃってたのよ!」


 すっきり顔で美惑が目を覚ましたのは、白川が予言した通り、30分ほど経った頃だった。


「知らないよ。桃地さんも寝ちゃって、疲れてるのかなって思ってたけど。それより美惑、これ見て」


 良太は、二人が寝ている間の暇つぶしで、ついスマホでリミッターにアクセスしていた。

 タイムライン上を騒がせているのは、やはり昨日の美惑の配信で。

 切り抜き動画がいくつもアップされている。


 いろんなシーンを切り取ってあるが、一番人気は朱理について語っていたものだ。


『私が許せないのは、あの時、朱理さんが、ちゃんとみんなに向けて、説明してくれなかった事。ちゃんと説明してくれてたら、こんな事にはなってなかったと思う』


 そう言って美惑が下唇を噛んだ、あのシーンだ。


 案の定と言えば、案の定なのだが。


『これって、朱理のせいで美惑は引退に追い込まれたって事だよね?』

『あの時朱理が説明していればファンが無駄に騒ぐ事もなかったんだ』

『なんでちゃんと説明してやらないんだ?』

『大人として終わってる』

『なんか裏がありそう』


 そんなコメントで溢れかえっている。


 そして、タイムラインは新たな展開を見せていた。


『ごめんなさい! けやき坂で写真を撮ってリミッターで拡散したのはあたしです。こんな事になると思わなくて。それは朱理さんに頼まれたものでした』


「え? なにそれ?」


 140字しか書けないプラットフォームから展開されるツリーには続きがあって、こう締めくくられていた。


『これ以上は言えません。美惑ちゃん、関係者の方々、本当に申し訳ありませんでした』


「これ、誰だろうね?」

 当然の疑問だった。

 リスクを冒してまで、朱理の悪だくみに乗っかり、今頃白状してくるなんて、一般人だろうか?


「この、あたしって書き方がなんか引っかかる。それに美惑ちゃんって……」

 美惑は、眉間にしわを寄せて、スクリーンに見入る。


「完全に裏アカだけど、心当たりあるって事?」


「確証はないけど……」

 美惑はそう言いながら、スマホを操作し始める。


「やっぱり、そうだと思う。たまたまかも知れないけど。ロリプラの翼ちゃん。SNSの書き込みはいつも『あたし』」


「仲悪かったの?」


「そんな事ないよ。良かったはずだよ。東京に出て来てから一緒にグループ結成したんだもん。もしそうだとしたら……悲しいよ」


「でも、こうして真実を伝えようとしているわけだし。もしそうだとしても許してあげなよ」


「そんなの良太に言われなくてもわかってる。私、元々アイドルに未練なかったし。実を言うとね、私……。良太に会いたくて、傍にいたくて、東京に出てきたくて、アイドル目指してたの」


「別にアイドルにならなくたって、東京ぐらい来れるだろ」


「そんな事ない。中学卒業後、普通の高校生活のために福岡から東京に出て来れるわけないやん」


「それもそうか」


「それに、田舎から東京に出て来たぐらいの普通の女の子じゃ、あの子に敵わなかった」


「白川さんの事?」


「そう」


 美惑はそう言って、足元に視線を落とした。


 良太は意を決して口を開く。

「2学期が始まった頃、白川さんに告白されたんだ」


 美惑は驚いた表情でこちらを見た。


「それまでは、座っているだけで存在感を放っている美人な優等生ぐらいにしか思ってなかったんだけど、好きって言われたら、やっぱり嬉しくて。

 俺は、美惑がそこまで思ってくれてるってわかってなかったから、美惑とも潮時かな、なんて勝手に思って……。

 けど、もう心配しなくていいよ」


「え?」


「さっき、ちゃんと断った。美惑とちゃんと向き合って、これからは彼氏として美惑を守っていきたいって、白川さんには伝えたから」


「本当に?」


「うん。本当」


 白川が足を滑らせた時、たまたま近くにいた良太は彼女に怪我をさせる事なく守ってやれた。

 大事な時に、近くにいてやれなかった美惑には、大きな怪我をさせてしまった。

 あの時、傍にいてやれなかった事が、どれほど美惑の人生を左右させたかと思うと、その決断は当然だったのだと思う。


「嬉しい! 良太」

 美惑がこちらに伸ばした手をしっかりと掴んだ。

 美惑は大きな目に涙を浮かべて

「大好きよ、良太」

 と言った。


「冬合宿、一緒に行こうよ」

「え? でも……」

「行きたかったんだろ? 俺がサポートするよ。ちゃんと守るから」



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